第百四話 ゴーレムの使いみち

 3日経ち、先ずは家事全般を扱うゴーレムが欲しいと言っていた肥えた男がやってきた。


「どうかな? 魔導具は完成したかな?」

「うむ、これだ」

「ふむ、なるほどこれか――」


 客の男が私の作成したお手伝い型ゴーレムを値踏みするように見たが。


「やはり、エロくはないか」

「最初にそれは出来ないと言っておいた筈だがな」

「はい、間違いなく確認しております」

 

 メイが契約書を確認しながら口にし、男にも改めて目を通してもらう。


「ふむ、しかしこれが本当に動くのかね?」


 私が用意したお手伝い型ゴーレムを訝しげに見ているが失礼な話だ。作成はアレクト達に任せたが私がしっかり検査している。


 見た目も男の思っているものとは違うかもだが魔術によって生まれるゴーレムよりはスリムになっている。魔法銀をベースにしたから鉄製より温かみがあるしな。


「名前は好きに付けて構わないが、とりあえずミターナで反応するように術式を構築している。あくまでテスト段階でつけたものだから好きに付け替えて構わないが、試しに呼びかけてみてもいいだろう」

「ふむ、ではミターナ。聞こえるか?」

『はい、聞こえております。私はミターナ。貴方が新しいご主人さまですか?』

「おお! 本当に動いた。凄いな!」


 客の男が随分と喜んでいるな。満足してもらえたようなので主を男に設定し残りの金額を受け取った。ちなみにオーダーメイドの魔導具は手付金として半額を頂くようにしている。


「その魔導具は安全面・・・にもしっかり気を遣っている。だから安心して使ってほしい」

「なるほど。それはそれは大変楽しみだ。早速活用させてもらうよ」


 そして男はミターナを連れてギルドから去っていった。さて、どんな使い方をするのか。


 それから程なくして、今度はあのナンパな男がやってきた。相変わらず髪型を気にしブラシで整えながらやってくる。


「チ~スチ~ッス。ちょっち注文の品出来てる~?」

「あぁ、これがそうだ」


 私は一本の杖を差し出した。先端にはこの杖の肝となる魔導の水晶がはめ込まれている。


「超クール! いいねこれ、ちょっち、最高じゃなくなくない?」


 もはやこいつの言葉が新人類すぎて理解できん。気に入ってもらえたことだけはわかるが。


「それで、これ、普通の杖と何が違うんだYO!」

「杖を通して魔法を行使すれば先端の水晶が威力を増幅してくれる。更に狙った相手にロックオンして相手を追尾する効果もそなわっているぞ」

「スーパークールでホットなナイスじゃん!」

「メイ、この客を翻訳してくれ」

「そのままでいくとすごく冷たくて温かいのが素晴らしいということになりますが、正しくは気に入ったということです」


 すごいざっくりした翻訳だな! ま、いいか。残りの代金を受け取ると鼻歌交じりにギルドを出ていった。


「アレクト、無事売れたぞ」

「はぁ~良かったですぅ」


 私がアレクトに取引が無事終わったことを告げると彼女が胸を撫で下ろした。


「あの軽薄男の顔をもう見なくて済むのね」

「いやらしいおじさんも……」


 うちで働く女性陣もホッとしているようだな。客ではあるがギルド内の職員からは心象が良くなかった2人だ。勿論それを表にだすことはないが。


「でも、安全装置には本当苦労しましたよ。あれもお客様からのご要望だったのですか?」

「いえ、それはご主人さまなりのサービスでございます」

「サービス?」

「うむ、奴らは危険な使いかたをしそうだからな。さて、一体どんな反応を示すかな――」






◇◆◇

side???


 ふふ、私はデブリ。あの魔導ギルドでゴーレムを依頼したのがこの私だ。さて、依頼した魔導具のゴーレムがいよいよ完成した。結構な出費となったがこの作戦が成功さえすればそれ以上の利益をあの方は約束してくれた。


 だから私はわざわざこのような物を注文したのだ。しかし、全く私はもっとエロい女の体をしたゴーレムを頼みたかったのだがやはりそれは不可能か。


 ダメ元で頼んでみたんだがな。もし希望通りのものが出来たなら本来の目的を達成する前に色々楽しもうと思ったのだがそうでないなら構わん。早速やるとするか。


「おいミターナ」

『はい。ご主人さま』

「私の言うことを聞くのだな?』

『私に出来ることならばご主人さまに従います』


 はは、そうかそうか。ならばここからは私の時間だ! 幸い家の敷地は広い。誰にも邪魔されることも見つかることもないだろう。


「うむ、ならばミターナよ。今からこの部屋を徹底して破壊しろ! 壁もぶっ壊して構わん。さぁ、始めるのだ!」


 私はゴーレムにそう命じた。これこそが私の目的だからだ。家を一軒台無しにすることになるが致し方あるまい。


『……理由をお聞かせ頂けますか?』

「は?」


 私は家を破壊しろとこの魔導具に命じたのだが、するとすぐには動かず妙な反応を見せてきた。理由だと?


「そんなものはどうでもいいだろう! さっさとやれ!」

『私は主様の身の回りのお手伝いをする為に作成されたお手伝い型ゴーレムです。しかし構築された術式の中には破壊という行為は含まれておりません。なので特別な理由がない限りそういった命令には従えません。別なご命令を』


 は? 破壊行為が出来ないだと?


「な、何を馬鹿なことを言っている! 私の命令だぞ!」

『たとえご命令であっても理由なき破壊行為に従うことは出来ません』


 くっ、面倒な奴だ! だが、それなら。


「わかった。理由を教えてやる。実はこの建物を壊して新しい屋敷に建て替えようと思っているのだ。だから破壊してくれ」

『――データー採取。声と表情から感情を読み解きました。ご主人さまの発言には嘘があります。その命令には従えません』


 は?


「ふ、ふざけるな! 私がそうだと言っているのだ!」

『残念ながら従えません』


 く、くそが! だったら!


「ならばこの私を攻撃しろ! やり過ぎない程度でしかし、多少の怪我を負うのは許す! さぁ!」

『……は?』

「は? じゃねぇえええ! 今すぐ私を攻撃しろと言っているのだ!」

『……何故に?』


 こいつ! だんだん対応が雑になってないか! なんだよ何故にって!


「いいから攻撃しろと言っているだろう!」

『却下いたします。私はお手伝い型ゴーレムであり、特別な理由がない限り攻撃行為は禁じられております』

「ふざけるな! だったら私はあれだ、ドMなのだ!」

『何言ってるのですか?』


 首をかしげるな! 何か残念な者を見ているような反応するな!


「だから私はそういうプレイが好きなのだ! だから殴れ!」

『私はそのような特殊性癖には対応しておりません。どうしてもということであればお店に行ってください』

「な、なな――」


 私は開いた口が塞がらない思いだった。馬鹿な、こいつさっぱり命令を聞かないではないか! こうなったらこれを理由にクレームをつけてやろうか。いや、しかし何を命令したか聞かれると……いや、待てよ?


 そもそもこいつ、最初から命令などきけないのではないか? そうだそれならそれで……一つ試してみるか。


「ならばミターナよ。今すぐこの家を綺麗に掃除してみろ! ホコリ一つ残さずピカピカにだぞ!」

『承知いたしました』


 それから30分後、私の家は見違えるように綺麗になった。この短時間でここまでやるとは……。


「くそ、だったら庭の草むしりだ! 大至急だ!」

『承知いたしました』


 草むしりは15分で終わらせやがった。何だこの速さ化け物か! くそ、これでは文句がつけられん。


 こうなったら仕方ない。最後の手段だ。


『他に何かございますか?』

「いや、これで十分だ。後はそこでジッとしていてくれ」

『承知いたしました――』


 よしこれならちゃんと命令を聞くな。ならば。


「さぁ入ってこい!」

「へいへい」

「でも、本当にいいのか? この家を破壊して?」

「構わん。徹底してやってくれ!」

「よし、許可を貰ったしさっさとやっちまうぞおまえら」

「「「「「おう!」」」」」


 よし、念の為こいつらを呼んでおいてよかった。さぁこれで命じられたとおりあのギルドを追い込めるぞ――

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