第百三話 気前のいい客とギルドの事情
領主と屋敷で話をした後日、あいも変わらず魔導ギルドは大忙しだったんだが、一人の客が姿を見せた。
「このギルドの噂は予々聞いていてね。一つ作って欲しい魔導具があって特注でお願いしてもいいかな?」
なるほど。こういった御客は今でも時折いる。魔導具の種類はかなり増えてきたが、何かの目的があって新たな魔導具を作成して欲しいという依頼だ。
その分当然費用は既存品より掛かるのだがな。
「……それではどういった魔導具がご希望かお聞かせ頂けますか?」
今回は対応はメイがやってくれている。ジャニスが派遣してくれた働き手も増えてはいるが、お客によっては私たちが直接やりとりすることもある。
「実は小耳に挟んだのだが、掃除をしてくれる魔導具があると聞いたのだが」
「マンバのことですね。それであればフレンズ商会にて販売されておりますが」
うむ。メイの言うように、量産が可能となったものはフレンズ商会で購入が可能となっている。ただ冒険者が扱うような物に関しては、まがい間違って犯罪に使われても問題だからうちで見極めさせてもらっているが。
「いやいや、もちろんそれにも魅力を感じるが、私はもっと機能が豊富な物がよくてな」
「機能が豊富ですか。どういった物がご希望なのでしょうか?」
「うむ、掃除だけではなく洗濯や料理なども含めて総合的に家事をしてくれる魔導具、そうゴーレムをあやつる魔法というのがあるだろう? あんな感じに動き回るのがいい! そうだな、ついでに君みたいにぐへへ、こうエロい感じだとなおいいのだがな」
……ふむ、ゴーレムのようで家事手伝いもしてくれて――それはズバリで言えばメイのことなのだがな。勿論この男はメイが
とは言え、メイは私の知識と技術を総動員して作成したメイドロイドだ。メイの後にもメイドロイドは作成したが自我を持ってここまで完璧な言動を見せたのは他にいない。
つまりでいえば、当初から課していたルールである、私がいなくても作成できる事という条件にあわない。
それに何よりこの男にそういった物を作ろうという気になれない。メイをそんな目で見るな全く。
とは言え、それはメイのようなメイドロイドを作成する場合の話であり。
「御主人様如何でしょうか?」
「ふむ、まぁ問題ないだろう。ただしメイのようなという点は厳しいぞ。そうでなくていいなら3日あれば作成できるだろう」
「ほう3日で! それは素晴らしい! 彼女のようにエロくないというのは残念だが、金には糸目をつけないのでよろしく頼む!」
金には糸目をつけないか。随分と気前のいい客だな。
「それではこちらの契約書に目を通していただき納得頂けたならサインを――」
そしてメイに案内され契約書の確認とサインをしてもらった。
そしてそれから程なくして――
「俺のダチもよ。ここの魔導具が超スゲー! て言ってたからよ。俺もよぉ、ちょっち強力な魔導具が欲しいんっすわ」
また1人客がやってきた。さっきの客より若い男だ。妙に前に突き出たような金髪で色付き眼鏡をしている。驚いたことにこれでも魔法使い系らしい。全く賢そうに見えないが。
「俺っち火魔法が得意っしょ?」
「……それはわかりかねますが」
いきなり得意とか言われても確かにわからん。あとブラシを取り出して髪をときだした。おおよそ人と会話する時の態度じゃない。
「それでさぁ、てかメイドちゃんおっぱい大きいYOねー!」
「メイこらえろ」
「……わかっております御主人様」
両手をつかって妙なポーズを決めながらメイの胸を指差す軽そうな男。一応は客だからそれなりの対応はしないといけない。客商売の辛いところだ。
「それで俺っちの火魔法の威力高めてついでに的に必ず当たる魔導具っつうか杖っつうか? そういうの作って欲しいんだYO!」
「……どういたしましょうか御主人様?」
「作るのは構わないがそれなりに費用はかかるぞ」
うちは武器に関してはその都度作成、つまり完全オーダーメイドだ。こいつの言っている物は特に難しくないが安請け合いするつもりはない。
「問題ないYO! 予算は十分に用意しても、いや、あるからYO!」
「……わかった。3日後だメイ」
「承知いたしました。それではこの契約書を確認いただきサインを」
「オッケーだYO!」
そして金髪の若造はスラスラっとサインした。
「はい、確かに確認いたしました。それでは3日後にまた来てください。それまでに作成しておきますので」
「頼んだYO!」
そして男は去っていった。やれやれ何かつかれた。
「何かすごく軽薄そうな人でしたね」
「私、最初に対応したんですがいきなりナンパしてきましたよ」
たまたま話を聞くことになったブラが眉を顰めて言った。それぐらいは息を吐くみたいにする雰囲気はあったな。
「あの、あの人の前にやってきた中年の男性も、やたら私たちの脚とか胸とか見てきてあまり……」
派遣で来てもらっている女の子たちから声が上がる。確かにあいつはメイに対する視線も卑猥だった。
「メイ、契約書に名前などの詳細はあるな?」
「……はい、問題ありません」
よし、抜かりはないな。私は早速フレンズ商会、ジャニスの店へと回り情報を集めた後、商業ギルドにも向かった。ここにきたのは昨日の件を確認するためでもある。
「これはこれはエドソン様。本日は何かご利用で?」
「いや、実は聞きたいことがあってな」
「聞きたいことですか?」
私は担当のフレームに領主に聞いた内容を伝えた。ブランド化についての確認なのだが。
「確かに、現在伯爵家よりブランド化という制度を廃止するよう言われております。黙っていたわけではなく、話がまとまり次第ご説明に上がろうとおもったのですが」
「それは、止める方向で進んでいるということか?」
思わず眉間に力が入ってしまうが。
「とんでもない」
しかし、フレームは眼鏡をくいくいっと直しながら否定してくれた。
「どちらかと言えば領主の使いなどから直接話しがいくかもしれないと思って、それで魔導ギルドまでお話に上がろうと思っていたのです。まさかこんなにも早く動かれるとは思いませんでしたが……」
そういうことか。私があの男に呼ばれたことは商業ギルドも知らなかったことなのだろう。
「とにかくエドソン様のブランドは評判が良いと聞きますし、商業ギルドとしては廃止にする理由がないのです。ですので伯爵の話はなんとかお断りしようとも考えてますが……とは言え簡単ではないのも事実です」
「ふむ、しかしブランド化については商業ギルド全体で決められている制度であろう? いくら領主とはいえそこに口を出すことなど出来るものなのか?」
「それなのですが、たしかに制度そのものは商業ギルド全体で取り組んでいるものですが、扱うかどうかは各ギルドの判断に委ねられているのです。あれにはそれ相応の知識をもった職員も常駐させる必要がありますので、小さな町などで全く申請の可能性がないと判断したならマスターの判断でブランド化の申請を取り扱わない場合もあるのです」
そういうことか。必要ない制度の為に職員を常駐させておくのは無駄と考えるわけだな。
「前回の廃案の話があったのもそういった事情が絡んでいたからというのもあります。ですが今は話が違いますからね」
うちのブランドはかなり好調だからな。最終的には売上から商業ギルドにいくらか納める事となるわけで、ギルドからすれば廃案にする理由がない。
「ただ……やはり個々の町では領主の決定権が強いですからね。流石にそこまで強力な圧力は掛けてこないと思いますが、うちとしても慎重に進めていきたいところです」
だから、私とも上手く連携をとっていきたいということだった。当然それは願ったり叶ったりでもある。
「わかった。こちらとしてもブランドは維持したいからな。それでだ、その事も関係しているかもしれないからちょっと聞きたいのだが――」
そして私は商業ギルドからも必要な情報を得て、そして帰路についた――
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