第五十三話 商業ギルドのつながり

 私はフレンズとブランド化の為に商業ギルドに向かったが、書類上は問題ないとして、何やら制度が変わったなどと説明を受けた。


「え? 変更? いや、そんなお話は、以前書類を受け取りに来たときも特にそのような告知はありませんでしたよね?」

「はい。本当に急に決まったもので大々的な告知もまだだったのです。ですが既にそれで進めてくれと上からも言われているので何卒ご了承を」

「ふむ、それでその変更というのは?」

「はい、今後ブランド化を申請される場合は、商業ギルドに保証金として金貨5000枚を預けて頂くこととなりました」

「は、はぁ? いや、それは流石に、いくらなんでもあんまりではありませんか?」


 なんとも雲行きが怪しくなってきたな。フレンズが抗議するが、相手は杓子定規な返ししかせず。


「そう申し上げられても、決まったことなので」

「そんな――」

「それほどの大きな変更がありながら事前告知はされなかったのですか?」

「え?」

 

 そこで話に割り込んだのはメイだ。なので私もそれに追随し問い詰めていく。


「え、ではない。今まで必要のなかった保証金、しかも金貨5000枚もの金額を預けるなどという変更、私達でなくても納得しはしないだろう。商業ギルドというのはそのような乱暴な真似を平気で行うのか?」

「え、え~と……」

「私が代わろう」


 私とメイが詰め寄ると、男は喉をつまらすが、後ろから眼鏡を掛けた職員が出てきて席を変わった。この男が上役といったところか。


「ここからは私が引き継ぎます。先ず告知についてですが、そもそもブランド化をされる商会がほぼいないというのが現状です。ですので事前告知の必要性はないと判断しました。最後にブランド化の申請があったのも3年も前の話であり、しかもその商会は潰れすでにありません」

「申請がないから告知の必要はないと? おかしな話もあったものだ。そもそも申請が殆どないものでなぜ制度を変える必要がある?」

「リスク管理の一環です。ご存知の通り、とある事故で魔導ギルドが存続できないほどの事態にまで追い込まれたことがありますが」

「魔導ギルドはまだあるぞ」


 まるでもう魔導ギルドがこの世にないような言い草だな。なので訂正の意味を込めて口を挟んだが。


「……これは失礼、限りなく無きに等しい状態まで追い込まれた事があり、それを顧みて我々もそのようなことがないように制度を改めるべきだという結論に達しました。魔導具のブランド化は冒険者ギルドなどを通さず自分勝手な物を販売出来る分、下手したらうちの首まで絞めかねません」

「ですが、そもそもブランド化は何かあったときにブランドそのものが責任を負う制度な筈です。商業ギルドに直接ダメージが行くことはないでしょう?」


 フレンズが反論する。確かに私もそう聞いているが。


「しかし、例えば負債に耐えきれなくなってそのまま逃げてしまうといった恐れがないとも言えません。そのときにクレーム対応に負われるのはだいたい私達商業ギルドです。故に、そういったリスクを少しでも減らすため、金貨5000枚を預からせていただくのです」

 

 随分ともっともらしい事を言っているようでもあるが、だとしても金貨5000枚は取り過ぎだろう。


「その金貨5000枚は戻ってくるのか?」

「その予定です」

「予定?」

「まだそこまでは正確に決まってないので」

「正確に決まってないのに負担を強いるのですか?」

「嫌ならブランド化などしなければいい。大体扱う品に魔導具とありますが、魔導具であれば冒険者ギルドを通して販売すればいいではありませんか」


 この言い草……冒険者ギルドと裏で通じているのか? いや、だとしても商業ギルドが冒険者ギルドから何か言われたとしてそれに従うか?


 確かに商業ギルドと冒険者ギルドは持ちつ持たれつという関係でもあったが、同時に互いをライバル視しているところがあった。


 つまり冒険者ギルドから話を持ちかけられた程度でこんな真似をするとは思えない。

 それに、ブランド化を阻止してきそうな相手は他にもいる。


「……もしかしてドイル商会から何かあったのか?」

「……そのような質問にはお答え出来ません」


 忍ばせた嘘発見器を見たがこの答え方だと反応は見られない。だが、答えるまでに間はあったな。ほぼ間違いなくドイル商会が絡んでいるだろう。


 ブランド化の話はガード商会やその妻も知っていたが、彼らから漏れたとは考えにくい。一応後で確認してみるが、ただ、別に口止めしていたわけでもないので、話をどこかで聞かれていたとしてもおかしくはないな。


「ここは商業ギルドということで一つ聞くが、もしこのブランド化を私がやめることで、商業ギルドが本来得るはずだった利益が失われるとしても同じようなことが言えるか?」

「はは、まさか。そんなことがあるわけありません」

「私はすでにマジックバッグをフレンズ商会に何個か卸している。そうだなフレンズ?」


 すると眼鏡の男の眉がピクリと反応した。


「え? あ、はい。おかげで随分と儲けさせて頂きました」

「……フレンズさん、貴方がマジックバッグを扱いだしたという話は確かに商業ギルドにも伝わっていましたが、その子が?」

「はい。勿論そのマジックバッグに関しては登録済みですよ。そして今も追加分を発注しているところです」

「……なるほど。ですがだとしても制度の変更は決まったことですから。それだけで・・・・・どうこうできることではありませんので」

「そうか。どうやら今ここで話していても埒が明かないようだな。出直そう」

「いいのですか?」

「あぁ」


 そして私達は一旦商業ギルドを後にした。


「もうしわけありませんエドソンさん。まさかこんなことになるとは……」

「別にお主が悪いわけではない。気にしなくていいさ」

「ですが、これでブランド化は遠のいてしまいましたね。魔導具の販売にも差し支えが」

「それも大丈夫だ。確かに今すぐ申請は出せないが、それならそれでしっかり実績を集めてから改めて出直せばいい」

「へ? 実績、ですか?」

「そうだ。あの男もマジックバッグだけでは融通はきかせることが出来ないと言っていた。つまり、それ意外に何か根拠になるものを見せればいい」

「ですがご主人様。あの様子では商業ギルドはドイル商会と繋がっていると見て間違いない気もいたしますが」

「私もそう思います。おまけに冒険者ギルドとも関係がありそうですし」


 メイとフレンズがそこを気にするのは判る。だが、見る限り昔も今も商業ギルドの本質は変わっていない。さっきの質問への回りくどい返し方なんかも含めてな。


「確かにほぼ間違いなく商業ギルドはドイルとも冒険者ギルドとも繋がっているだろう。だがだからといって敵とも限らない」

「敵とは限らない、ですか?」

「そうだ。あの連中の理念は実に単純だ。そこに利益が生まれるか否か。商業ギルドの本質はそこにある。つまり今の商業ギルドにとってドイル商会は無茶を聞いてでも懇意にしておきたい相手というべきだ。冒険者ギルドに関してはその過程で一時的に協力しているといったところか」

「確かに、ドイル商会はやり方はどうあれ、商業ギルドにとって無視できないほどの利益を生んでいる筈です」


 フレンズが私の言葉に納得を示す。


「そう、だから私のブランド化も何かしら奴に吹き込まれ、それを阻害する制度を急遽組み上げたのだろう。だが所詮はそれだけの関係だ。ドイル商会の話に乗ってブランド化を邪魔するより、ブランド化を進めた方が利益になると判断すればころっと手のひらを返すだろう」

「そういうことですか」

 

 うんうんとフレンズが頷いた。尤もその手の手合は返した手のひらを更に返すぐらいは簡単にするものなのでそれも踏まえて利用する必要があるが。


「ですが、実績と言っても、魔導具はブランド化か審査を通すかしなければ販売できません。もし無断で販売すれば罪に問われてしまいますが」

 

 フレンズが心配そうに指摘する。だが、そこは勿論私も考えてある。


「勿論そこは考えてあるさ」

「……ご主人様。まさか、闇商業をなさるおつもりでは?」

「え! それはまずいですよ! 流石にうちも闇商業に手を貸すわけには……」

「馬鹿者! そんな危ない橋を渡れるわけないだろう。ちゃんとした正規のやり方だ。そこで聞きたいのだが、魔導具を許可なしに販売するのはご法度として、試作品としてお金を取らずに使う分には問題ないのだろう?」

「え? それは勿論。それすらも駄目になると、登録するまで何も出来ないことになりますからね。不具合もわからなくなってしまいます」


 うむ、当然そうであろうな。だが、それが判れば十分だ。


「ならばフレンズ、一つ頼みたい。顧客でも知り合いでも、何か不便があって困っているものがいたら紹介してほしいのだ。冒険者ギルドへの依頼に不満を持つものでも良い。そういった相手の依頼を魔導ギルドが格安で請け負うと広めてほしいのだ」

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