第五十二話 商業ギルドへ行く
明朝、魔導ギルドに行く前にガードの妻であるドレスが経営している店に向かった。バッグについては直接やり取りして構わないと許可をもらっていたからな。
名前は、ドレスショップだ。どっちの意味かわからんがとりあえず入る。
「ようこそいらっしゃいました。ふふ、それにしても相変わらず可愛らしい……お菓子食べます?」
「いらない。あと、子ども扱いはやめてくれ……」
何故か頭もなでなでされている。なんとも恥ずかしい気持ちになるのだ!
ドレスの店では自作の衣類も販売しているようだった。中々広い店で、奥から作業場にも行くことが出来た。
そこでは裁縫の職人がせわしなく作業を続けていた。しかし、見たところ手縫いのようだな。基礎工程からすべてが手作りでは時間も掛かるし大変だ。
「忙しそうだな」
「ふふ、おかげさまでね。実はエドソンくんのおかげで助かったことがあるの」
「私のおかげで?」
「えぇ、だってあのドイルって男、私のやり方にまで口を出してきていたんだもの。賃金も払いすぎだ職人に休みを与えすぎだ、朝から晩まで休まず手を動かさせろとか逆らうならいつでも奴隷にしてやるから言えとかもう無茶苦茶、本当いつぶっ飛ばしてやろうかと、あ、ふふふ、これは冗談忘れてね」
握りこぶしを作ったがすぐに取り繕う。まぁ冒険者だったのはこの間の話で知っていたがな。
そしてそれからも文句が出てくる出てくる。案の定素材の質を下げて見た目だけそれっぽくした上で価格は上げろなどとさえ偉そうに口を出してきたそうだ。
だからあのドイルに対してドレスはもともと懐疑的だったようだ。確かに影響力はかなりのものなようだが、あのやり方だと着実に顧客が離れるとな。聞いている限り私も同意見だ。
「エドソンくんは自分でブランドを立ち上げるつもりなんでしょう? 私、断然エドソンくんのブランドを応援しているから」
「そう言ってもらえると助かる。ところで本題だが、ちょっとこれを見て欲しい」
「あらあら、え? これは……」
素材を見るなりドレスの目つきが変わった。私が見せたのは勿論、昨日狩ってきたヘヴィーバイソンの皮だ。
「これ、すごく状態がいいわね。それにしてもヘヴィーバイソンって、討伐ランクBクラスよ。しかもパーティー必須の……冒険者を雇ったとしてかなりの費用が掛かったのでは?」
「確かに1人は雇ったようなものだが、まぁ想定の範囲内だ」
「え? 1人? 冒険者1人でこれを? え? 凄腕のAランク冒険者か何か?」
「Bランクだ。後はうちのギルドの残念魔術師が1人。私とこのメイも多少はサポートしたがな」
「ですが基本的にはお2人が狩られました」
「……なるほどね。夫が言ったとおりですね。ふふ、きっとお2人の力添えがあったからこそなのでしょう。実際に戦わなくても指揮官が優秀なだけで戦闘が有利に働くこともありますから」
そこまで指揮官らしいことをしたわけではないのだがな。
「え~! これもしかしてヘヴィーバイソンの皮?」
「久しぶりに見たわね。これを扱うの?」
「あれ? もしかして貴方が例のエドソンくんとメイドさん?」
「あのドイルを追っ払ってくれたんでしょ? あいつ私にもなんかしつこくてね。初めては貰ってやるとか気持ち悪くて気持ち悪くて」
どうやら休憩中の職人が集まってきたようだ。いるのは女性ばかりだな。素材に興味を持っているのもいればドイルへのお礼を述べてくるのもいる。
一番若そうな女の子は肩を抱きながら険しい顔を見せた。よほど嫌だったんだろうな。
とはいえいい加減こちらも話を進めなくてはいけない。
「この皮でバッグはできそうか?」
「十分だよこれは興奮してきたねぇ! あ、いえ、大丈夫だと思いますよオホホ……」
う~ん、これはもしかして猫をかぶってるパターンなのかな? 冒険者としては優秀だったぽいしな。その時はもっと男勝りだったのかもしれない。
そう考えてみたら、ここにいる女職人は美人も多いが、素材を見る目はどちらかと言えば戦う人間のソレな気がしてきた。
もしかしたら元冒険者も多いのかもしれないな。
「この量なら8個は鞄が作れますね。それにこの皮は染めやすいので色も自由がききやすいですがどうしましょう?」
「そういえば革にするのもここで?」
「はい。裁縫だけじゃないですからね」
さすが元冒険者だな。そしてこの素材は鞣す工程で色に変化を加えられる。染料を加えなくても茶色系統は比較的簡単だ。
「前に卸したのは茶色だったからそれで頼む。後々は注文次第で色に変化をもたせるかもしれない」
「わかりました! おまかせを! う~ん、腕が鳴るぅ~」
しかし、ドレスはところどころ地がでてるな。さて、とりあえず話はまとまった。支払い金額もメイが試算した範囲内で収まっている。
「ところで手作業だと色々と不便なこともないか?」
「え? う~ん、そうですね。急に急ぎの発注が増えたりすると対応しきれなくなってしぶしぶお断りしたりすることもあるかな」
「ふむ、なら作業が楽になれば大助かりなわけだな」
「それは、まぁ……あ! もしかしていい魔導具があるとか?」
「ないこともない。まぁ作成などはギルドで行うのとブランド化とやらを終わらせる必要があるがな」
「そうかい! あ、いえ、そうなのですね。ならいい魔導具が出来たら是非みてみたいです」
どうやら興味は持ってくれたようだ。上手く行けばここの設備分も仕事に繋がるな。
そして一通りの話と依頼を終え、店を出た私たちだが。
「エドソンさん! 良かったここにいた」
私を呼ぶ声に振り返ると、そこにはフレンズの姿があった。どうやら私に用があるらしい。
「例の、ブランドの手続きに必要な書類が出来たのですよ。あとは内容を確認頂き、サインを頂ければ完成しますがこれからお時間は?」
「あぁそうだったか。いやありがとう。時間は大丈夫だ」
魔導ギルドは後でも問題ない。先にフレンズの店に行き、メイと書類に目を通し、問題もなさそうなのでサインする。
「はい、これで書類は大丈夫ですね。後は商業ギルドに提出すればブランド化が成立します」
「意外と簡単なのだが」
これだけで可能なのに誰もやらないのは、やはり冒険者ギルドの影響力が強すぎる故か。
「どうしましょう? 商業ギルドまで行かれますか?」
「あぁ、こういうのは早いほうがいい」
フレンズの店を出て、その脚で商業ギルドへ向かった。当然だが、商業ギルドも大通りに面した場所にある。
建物も魔導ギルドと比べるのもアホらしくなるぐらい立派だ。中に入ると冒険者ギルドと同じようにカウンターがあり、円卓も幾つか用意されてるが、流石に冒険者ギルドみたいにいかにも物騒といった風貌の者はいない。
円卓も何か商談の為に利用されてるような節があるな。
さて、ここは慣れているフレンズに任せ私達は後から付いていき、受付担当の男性に要件を伝える。
席に付き、書類を見せるが。
「エドソン……ブランド化ですか?」
「はい、そのとおりです。扱う品は魔導具でして、作成は主にここにおられるエドソン氏監修の元――」
そしてある程度フレンズが話してから私とメイで細かい点を話して聞かせる。
その後は書類のチェックに入るが。
「書類としては問題ありませんね」
「それは良かった。ならブランド化は可能なのだな?」
「……その件ですが、実は最近になって制度が少々変更になりまして――」
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