第六話 これは魔獣ではありません
「な、なんというか、助けて頂きありがとうございます」
「いやいや、そんなお礼なんてお構いなく。私も街に向かう途中でおみかけし、ちょっとおせっかいを焼いてしまっただけなので」
「そんな! お節介だなと滅相もありません。もし助けがなかったなら今頃どうなっていたか、全滅すらありえましたからな」
全滅とは大袈裟だな。相手はたかがブラックウルフだし、これだけ人数揃っていれば道具次第でどうとでもなる気がするぞ。
「ちょっとオーバーかな」
「は? はあ……」
笑いながらそう伝えると、何か不思議そうな顔をされた。う~ん、初対面だから緊張しているのだろうか?
「それにしても……これはまた凄い魔獣を使役されておりますな。このようなまるて胴体が鉄のような魔獣、私初めてみましたぞ」
「はい? 魔獣?」
なんだ? 魔獣なんて一体どこにいるんだ? 首を巡らせて周囲を窺ってみるけどそんなものは一匹もいない。
「ご主人様、恐らくこの方々はご主人様のお造りになられた、この
……これを? 本当に? 信じられないな。この程度の代物、流石に今の時代なら当たり前にあるだろうし。
「念のため確認だけど、まさか魔獣ってコレのこと?」
だから、私は念のため魔導車に手を置いて彼らに確認してみることにした。
「ええ、そちらでございます。いやはやそれにしても随分と大人しい魔獣ですな。よほど高位の魔獣使いの方とお見受けいたします」
いや、魔獣使い……確かにそう呼ばれるような人がいるのは知っているが、勿論私はそんな大層なものではない。
まあ、魔獣を使役するぐらいなら魔導具でなんとでもなるのは確かだが。
「え~と、これはマジローダーなんだが……」
「おお! マジローダーという魔獣ですか。恥ずかしながら私、そのような魔獣初めて目に致しましたぞ」
うん、駄目だな、話が噛み合わない。
「ルイス! 一体どうなっておる! いい加減うんざりなのじゃ!」
すると、馬車の中から可愛らしい声が外に響き渡った。ルイスと呼ばれ、私と話していた執事服の彼が振り向いたから、彼がルイスなのだろう。
「あ、こらアリス、駄目ですよ勝手に出ては」
「いやじゃいやじゃ! 外の様子を見に行くのじゃ!」
そしてガチャリと木製のドアが開いて、中から金色の髪を左右で纏めた女の子が飛び出してきた。
うん、ツインテールというやつだな。左右は短めに纏められていた玉のように膨らんでいる形だ。
「お、お嬢様いけません、まだ危険があるかもしれませんし」
「え~い黙るのじゃ! それに見たところ特に何もなさそうなのじゃ! 空気が美味しいのじゃ!」
う~ん、随分とのじゃのじゃ言っている子だ。でも年がいっているというわけではない。それ以前にかなり若い。
碧眼で目が大きくて四頭身ぐらいだ。可愛らしいと思う。
何歳ぐらいだろうか? 見た目だけなら私より少し下ってところかもしれない。ヒューマ族という点を考慮すると10歳ぐらいかもしれんな。
「ほら~駄目ですよアリス~ルイスさんも困ってるじゃない」
「大丈夫なのじゃ! お姉ちゃんも出るといいのじゃ、もう安心なのじゃ」
「いえ、あの、まだ安全が確保されたわけでは……」
執事のルイスが困っているようだ。そして馬車から顔だけ出している方がこのアリスという幼女のお姉ちゃんなのか。
確かに面立ちは似ている。年齢はアリスより5、6歳は上かもしれない。
金髪碧眼という点では一緒だが、お姉ちゃんの方は髪を背中まで伸ばしていて、着衣は銀糸の刺繍をアクセントに加えた白ドレス。
妹のアリスの方はオレンジ色のドレスだ。
とは言え、他に危険が潜んでないか気にしているようだし――
「メイ、マップに何か危険な反応はあるかな?」
「いえご主人様。少なくとも数km圏内に危険は潜んでおりません」
「うん、ありがとう。ルイスさんだったかな? 確認してみたけど危険はないみたいだから外に出ても問題ないと思いますよ」
「へ? ど、どうして判るのですか?」
「う~ん、なんといっていいかな? このマジローダー、簡単に言うと魔導車なんだが、これには感知系の魔導具が搭載されていて、それで周囲に危険がないか判るようになっているのだ。魔物や猛獣がいたら反応するからすぐに判るのだよ」
私がそこまで説明すると、ルイスが目を白黒させた。周囲で聞いていた冒険者もどこか唖然とした様子だ。
「え~と、つまり話を要約するならば、この魔獣はマジローダという魔獣であり、名前はマドウシャという事ですな。そしてこの魔獣には周辺の危険を感知出来る能力が備わっていると――」
「な、なるほどそういうことか」
「正直言っている意味がよくわからなかったが、魔獣の能力だって言うんなら納得だな」
「それにしてもまだ若そうなのに、こんなすげー魔獣を従えさせるなんて、何者なんだあいつは?」
……いや、なんだろう? このそこはかとなく話が通じていない感覚は――
「おい! お主!」
「こ~ら~、失礼だよアリス~この御方は私達を助けてくれたんですからね~」
「むぅ、ならば、お主! 名前を聞かせるのじゃ!」
「え? あぁ、私はエドソンだ。ちなみにこっちはアンドメイドのメイ」
「アリス様、どうぞ宜しくお願い致します」
うん、流石にメイは丁寧である。
「むぅ、こんな可愛らしいメイドがいるとは生意気な子供なのじゃ!」
いや、メイドロイドなんだが……そもそも子供って、普通に君より遥かに年上なのだがな。
「こ~ら~アリ~ス~、だ~め~」
「ふにゃああぁああ、痛いのじゃ~痛いのじゃ~頭をゲンコツでぐりぐりするのはやめてなのじゃ~」
うむ、お姉さんの方はかなりのんびりしているけど、妹のアリスには厳しい部分もあるみたいだ。
「エドソンさ~ま~、妹が~大変失礼~いたしま~した~」
う~ん、それにしても本当に間延びした口調だ。そして――おっぱいが凄い、大きいのだ。こんなにゆったりとした喋り方なのに、口の動きに合わせてゆっさゆっさするぐらいに大きいのだ。
「ご主人様は、大きい方が好みなのですね」
「いや! メイ何言ってるのだ!」
だから、私も、とかいいながら胸を触らない! 違うから、そういう趣味とかじゃないからな! いやそりゃないよりは合ったほうがいいとは思うけど――
でもお姉ちゃんの方は首をかしげていた。良かった、どうやら意味を理解していないようだ。
「ところでエドソンよ!」
うん? アリスの方が指をビシっと突きつけてきたな。
「この魔獣、乗れるのか? どうなのじゃ!」
「いや、だから魔獣とは違うのだけど……まあ乗れるか乗れないかで言ったら、乗れるぞ」
これは5人乗りだ。だから私とメイを合わせても後部に3人は乗れる。
「決めたのじゃルイス! 妾はこの魔獣に乗せてもらうのじゃ!」
……て、え?
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