第12話 関係のないヒトなのに
まぶしい。
遮光カーテンは嫌いだから、寝室の窓からはカーテン越しの日差しが入り込む。
いつも起きる時間なら柔らかい光なんだけど、今日は、まぶしい。
頭痛い。
喉、かわいたなぁ。
やっぱり、予想通り、二日酔い……。
昨夜の電話、なんだったんだろう。
昨夜は気づかなかったけど、あの時間に徹は一人でいたんだろうか?
一人で、ってことは、アサミとは?
そもそもアサミとあった後で、私に電話してきたのは、何で?
考えても、徹の行動なんて全然わかんない。
楽しそうに、歩いていたと思ったんだけど。
一緒にいて、電話してきた?
ううん。
違う。
昨夜は酔っ払った頭で、アサミと徹が私を笑っているトコなんて想像しちゃったけど、違う
徹は、そんなことを楽しむようなヤツじゃない。
意地悪なトコもあるし、徹の考えてることなんて全然わかんないけど、それでもそんなことはしない。
それに、誰かといる時に自分から電話かけたりすることも、ない、と思う。
昔から誰かといる時に、うわの空になる事も、別の事をすることもなかった。
一緒に呑んだ時、徹も徹の友達も携帯は、テーブルにおくこともしないのをみて、『変わらないなぁ』と思ったんだ。
きっと、私に電話してくれた時には、もうアサミとは一緒じゃなかった。
アサミとどんな関係なのかとかは、私にはわからないけど。
まぁ、いいや。
頭も痛いし、気持ち悪いし、とりあえず徹に会うことも、そうはないだろうし。
あっても、徹が普段誰と遊んでるかなんて、私が聞くこともないだろうし。
ましてや、徹に彼女がいるかどうかなんて、私が知ることもないだろうし。
ゴロリ、と寝がえりをうって窓に背をむけて布団をかぶる。
もう一回寝たいのに、具合が悪くて眠くもならない。
そのままゴロゴロとベットの中を転がるけど、体調が良くなる気配も眠くなる気配もない。
仕方ない。
痛む頭を抱えて、とりあえずペットボトルの水を一気に飲み干す。
そのままお風呂にお湯を張って、お湯が入るまでに紅茶を2杯呑みほして
お風呂の中でもペットボトルで水を呑む。
いつの間にか定番化した、私の二日酔い対策法。
とにかく水分を取って、お風呂でゆっくり汗を出す。
ココまでやると少し眠れる。眠れば目がさめるころにはすっかり治ってる、はず。
太陽の位置が変わったのか目が覚めた時よりは眩しくない。
ベッドにもぐりこんでウトウトしていればあっという間に差し込む光はオレンジ色に変っていた。
いい加減起きないと、人としてダメだよねぇ。
もそもそとベッドから抜け出せば、とりあえず頭痛は治まっている。
お腹すいたけど、一歩だって外には出たくない。
白菜のコールスロー、作ってみるかな。
キッチンに立って武人さんがやってたことを思い出しながらゆっくりと白菜を切って行く。
白菜のコールスロー、キュウリとササミでバンバンジーが出来上がるころにはもう外は暗かったけど、一歩も外に出ないでお腹を満たす、という目的は達成。
自力で作った夕食を、記念に撮影。そのまま彼氏に送ってやろうと思ったけど、やめた。
会えなくなったからって、料理作って写真送るんじゃ、なんか、ねぇ。
来月こっちに来るって言ってたんだから、その時に作って、びっくりさせてやる。
こんな時、話したい。
ちょっとだけでもいいから、私の話を聞いてほしい。
会いたい、のかなぁ。
明日は、元気に会社に行こう。
昼間ずっと寝てたんだから当然だけど、中々眠くならなくって、ウトウトしながら朝を待った。いつもは休みが終わっちゃうの嫌で嫌で仕方ないんだけど、今日は早く仕事に行きたい。
誰かと喋って、笑って、嫌な自分を忘れちゃいた
まぶしい。
目が覚めて、部屋のまぶしさに一瞬で飛び起きた。
やばい、いつも起きる時間なんて余裕で過ぎてる。
それどころか、始業時間まで後15分。
絶対、間にあわない。
と思った瞬間携帯が鳴った。
やばい、上司か?
「すみません、今起きちゃって、すぐに向います!」
電話の相手も確かめずに一気にまくしたてれば電話の向こうからはクツクツと笑い声。
「なんだ、由夏も寝坊か?奇遇だなぁ」
徹?なんで、こんな時間に?
ってか、奇遇ってことは徹も寝坊?
なんでそれなのに電話なんかする余裕あるわけ?
パニックを起こして電話を切ろうとする私に、まぁ落ち着け、と笑う。
「サボっちまえよ、たまには。どうせ有休残ってんだろ?今から電話して、電車の中で気分が悪くなったとかいえば、ばれやしねぇ。由夏なら、会社のヤツラも信用するさ、遅刻より、いいんじゃねぇ?」
……。
丈夫な私はここ3年欠勤というものをしていない。
もちろん、遅刻も、ない。
それなのに、この歳で寝坊で遅刻、は確かに連絡しにくい。
迷っていれば徹が笑う。
「ほら、早く電話しねぇと仕事始まるぞ。じゃぁ、後でまたかけるな」
切られた。
どうしよう。
寝坊したからサボるって社会人としてどうなの?
でも、幸い今は忙しい時期でもないし。
いいか。
徹から言われたとおりに、電車の中で気分が悪くなったことにしてみれば人のいい上司は心配してくれて、『病院行った方がいいんじゃない?』と言ってくれた。
午後になっても調子が悪かったらそうする、と言って電話をおけば少しの罪悪感と、大きな解放感。
有休はとりやすい会社に勤めているので、当日欠勤してまでゆっくりしようなんて思ったこともなく
社会人になって初めて『サボり』、というものを経験した。
何しようかなぁ?ココで寝ちゃったら昨日と同じになっちゃうし。
とりあえず、とテレビをつければ徹から着信。
「上手くサボれたか?お前は普段から真面目だから誰も疑わなかっただろ?」
「うん、まあね。ご助言ありがとう。徹も寝坊したの?会社は?」
「今日は大した仕事残してねぇから、サボり。明日まとめて片付けるさ。俺の場合はよくあるからなぁ、今日はサボるって言っても誰もなんにもいわねぇ」
サボる、なんてどうどうと言っても誰もなんにも言わない。
それは、やるべきこと以上の仕事をしているからなんだろうなぁ。
『人よりも仕事してるくせに必死そうな顔はみせないの。余裕のあるふりしてる』
千夏さんの言葉を思い出す。
徹も、そうなんだろうなぁ。
「で、お前、サボって何するんだ?」
「何って、別に、なにも。ランチとか買い物とか、行こうかなって思ってるけど」
「会社のヤツに会うかもしれねぇのに、近くで買い物か?行けねぇだろ?」
私の小心者っぷりをよく知っている徹は、さも可笑しそうに笑う。
たしかに、嘘ついて休んで誰かに会ったら、気まずい。
「1時間後には迎えに行くから支度しとけ」
「え?」
私が聞くころには電話は切れていて、慌ててかけ直しても出てくれない。
徹は有言実行。
1時間って言ったら1時間以内には絶対来る。
電話を切ってから40分。
徹からの着信。
「家ついたぞ、早く出て来いよ」
いや、まだ1時間たってないし、私、徹と出かけるなんて言ってないし。
イイタイコトは呑みこんで、ふてくされながら出て行けば車の横で煙草を吸っている徹がいる。
「早かったなぁ、これ吸ったら出るから乗ってろよ」
自分の車なのに、禁煙車なのか?
煙草の匂い、したけどなぁ。
思ったことをそのまま聞けば、徹が笑う。
「別に禁煙車じゃねぇさ。天気もいいから、なんとなく、な。由夏が煙草吸いたいなら吸ってもいいぞ」
はぁ、そうですか。私は煙草、吸いませんけどね。
相変わらず、わかんないヤツ。
でも、いつも通りの徹に少し、ホッとする。
土曜日の事は、やっぱり見なかったことにしておこう。
「何処行くの?」
「買い物」
「え?」
さっき私の小心者っぷりに理解を示してくれたのは、気のせいだった?
病欠なのに、元気に買い物なんて。
何考えてるんだ、と言わんばかりの視線を送れば、心配するな、とクツクツと笑う。
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