第11話 気づかなくて、ごめん
武人の家での料理教室。
由夏が不器用だと言うのは知っているが、友達だという愛衣も見事なぐらいに不器用だった。
案の定、出てきた料理は変わった形のものばかり。類は友を呼ぶっていうのは、本当なんだな。
まぁ、武人がついてただけあって、味は悪くない。
緊張した顔で居心地悪そうにしていた由夏は、さっさとキッチンに避難して武人とサシ呑み。しばらくしてからやっとリビングで呑み始めたと思ったら、30分もしないで帰りやがった。
少しだけ、苛立ちが残ったものの来ただけでもまぁ良しとしたい。これ以上は、可哀そうだろう。
正樹は、愛衣に根ほり葉ほり聞き出そうとしているが、昨日の件ですっかり警戒されたらしく、困った顔で濁されている。
結局、わかったのは彼氏とは遠距離だということぐらい。
「そっかぁ、彼氏いるんだぁ。残念だったね、徹。でも、遠距離ってことは望みあるかもよ?」
「そういう相手じゃねぇよ」
正樹と千夏が帰り、武人とサシで呑み始めれば気まずそうに俺をチラチラとみる。
「なんだよ?」
「由夏ちゃん、さぁ。俺らのこと、なんで苦手なのかと思ってさぁ。
徹、幼なじみなんだろ?なんでか、わかるか?」
キッチンでの由夏との会話を聞かされた。
苦手、なんだろうなぁ。俺とつながってるのが、苦手なのかねぇ。
「お前らに対して『なんで?』なんて、知らねぇよ。俺の事は、なんとなくわかるが……」
俺が知ってる範囲での中学時代の話しを少し、してみた。
どうも、俺に好意を持っていた女に嫌がらせをされていたらしい、と。
あっけにとられている武人。モテるってのもイイことばっかじゃねぇんだなぁ、なんて感心している。
バカか、女に好かれるのをイイことだなんて思ったことねぇよ!
「いやいや、それ嫌みにしか聞こえないから。でも、困ったなぁ。苦手意識もたれると、なんか俺も悲しいよなぁ」
「お前の事は、単純に嫌ってんじゃねぇのか?」
笑ってやれば、そりゃねぇよ、と笑っている。何を言っても笑って返してくれるコイツは、こんな時、少しだけ、少しだけ、ありがたい。
千夏の事まで苦手だと言った由夏に、それ以上連絡することもできずに一週間が過ぎた。土曜の料理教室には由夏の友達は来るらしいが、由夏は、『行けたら、行く』と言っていたとか。
そんな都合のいい言いわけしているあたり、来る気もねぇんだろうなぁ。
そう思っているのに、酒を買いに出れば、アイツでも呑めそうな酒をと、あれもこれもと手に取っている俺は、一体何がしたいんだろう。自分達の酒も買えば、あっというまに車の後部座席にびっしりと並ぶ酒と焼酎。
「にいちゃん、これ彼女にあげなよ。甘口で最近女に人気の日本酒だよ。いつもいっぱい買ってくれるから、おまけしてやるよ」
店主のおっさんはニコニコと笑いながら、小さな日本酒の瓶を差し出した。
一瞬、浮かんだ由夏の顔。彼女どころか、思いっきり嫌われてんのになぁ。
「そんな女はいねぇが、ありがたくもらっていくよ。ワリィな」
笑っているおっさんから酒を受け取って車に戻る。エンジンをかけると同時に、正樹からメール。
「徹~、チーズ買ってきて!徹のセンスで!ワイン、いっぱい買い込んだからね」
この近くにあるチーズの専門店は正樹もお気に入り。なんで、アイツは俺がココにいるの知ってるんだか。
しかたない。
チーズの専門店にはいってガラスケースの中のチーズを見ていれば横の女がチラチラとこっちを見ている。軽く睨めば、どこかで見たことのある顔だ。
「徹君、だよねぇ?私。アサミ。わかる?」
「……ああ、中学の」
名前を聞いてすぐに思い出した。
俺が話しかけた時の由夏は、必ずコイツを見ていた。
「やっぱり徹君だよねぇ!うわぁ、ビックリ。こっちに出てきてたんだねぇ。私の家この辺なんだけど、徹君も?なつかしいねぇ」
聞いてもいないのに、高い声でべらべらとまくし立てる。
ちょうどいい。苛立ちをおさえながら、適当に返事をしながら、コイツが由夏に何をしたのをどうやって聞きだそうかと頭をフル回転させていた。
「懐かしいよなぁ。今日、これから暇か?」
「うん!」
「じゃぁ、飯でもいくかぃ?」
ちょっと誘えば嬉しそうについてきた。
大人になっても、この程度。
チーズを買うのは中止にして、店をでる。正樹のふてくされた顔が一瞬ちらついたが、すぐに頭から消した。まだ暑い季節でもないし、酒は車の中で問題ないだろう。どこに行こうか、と嬉しそうに横を歩くアサミ。
さっきまで左手にはめていた指輪がいつの間にか右手に移動している。
言われるままについてきた店は割と大きな居酒屋。仕切りがあるので、隣の席のヤツから顔がみえることはない。流行りの半個室ってヤツか。
何食べる?とやたらに顔を近づけるアサミの甘い香水の香りにむせかえる。
酒もつまみも適当に頼んだ。
「あれ?お酒でいいの?車は?」
そう思うならこんな店選ぶんじゃねぇ。
心の声は隠して、代行で帰るからと言えば、そうか~なんて笑っている。
どうしようもないな。
酒も入り、アサミは上手く嘘をつけない程度に酔ってきた。
そろそろ、いいかな。
「お前、俺の幼なじみの由夏、覚えてるか?」
「うん、覚えてるよ。いっつも徹君と一緒にいたよね~」
「こないだ由夏に会ってな、あの頃お前ら割と一緒にいた気がしてなぁ
懐かしいかと思ったんだが、そう仲良かったわけじゃねぇのかぃ?」
「仲良かったよ?そうなんだぁ、由夏に会えて、すぐに私に会ったんだ!
すっごいねぇ、ついでにクラス会とか企画する?」
クスクスと笑っているが、一瞬目が泳いだのは見逃さなかった。
「俺は、正直あの頃は苦手だったがなぁ」
誰が苦手だったなんて一言もいっていないのに、由夏の事だと思ったアサミは嬉しそうに目を開いた。
「やっぱりぃ?いっつも徹君に頼ってて、迷惑そうだなぁって思ってたんだぁ。
ほんと、幼なじみってだけであんなに頼られたら迷惑だよねぇ」
勢いづいたアサミはあの頃由夏をどう思ってたか、少しずつ追い詰めて行った嫌がらせなんかを話しはじめた。
嬉しそうに、楽しそうに、笑いながら。
「俺が苦手だったのは、由夏じゃねぇ。おまえらだよ!」
聞いていられなくなって、勢いよく席をたてば何が何だか分からない、といった顔をしている。もう少し、何をしたのかはっきりさせたかったが、我慢できなくなって金だけおいて店をでてしまった。
ある程度は想像していたが、女同志ってのは、気持ち悪い。
あんなに嬉々として、人の悪口を言えるもんなのか。
あんな単純な奴が、そんな嫌がらせなんて受けたら、俺の側になんかいられないよなぁ。
単純に笑って後ろをついてきていた頃の由夏を思い出す。
何も知らずにいた自分が、腹立たしい。
ごめんな。
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