第7話 ガヤガヤしたお店
お店につけば、私の心配なんていらなかったことにホッとする。
ガヤガヤとして薄暗い店内。
カウンターからは肉を焼く、いい匂い。
若干、店内で煙がくもってる感じ。
こないだのお店とは全然違う。
さすが、修さんのお勧め。
口に食べ物を入れ続けていた姿を思い出すと、笑いが漏れる。
「え、と。どこだろう? 」
忙しそうな店内には、場所を案内してくれるようなスタッフはいない。
電話したらでるかなぁ、なんて言いながら愛衣が電話をとりだした。
「お、もう来ていたのか?早かったなぁ」
いつの間に来たのか、後ろには正樹さんと修さんが立っていた。
武人さんと徹の姿は見えない。
ホッとしたような、残念なような。
「ひさしぶり。武人と徹は仕事残ってるみたいでさ、先に呑んでてくれって!」
ニッコリ笑った笑顔が、ほんとに可愛い正樹さん。
うん、今日も修さんにくっついていよう。
失礼なことを考えながら、修さんの後について店内を歩き回る。
ああ、予約とかをしてるわけではないんだなぁ。
修さんらしい。
少し笑うと正樹さんも笑った。
「修、予約とかしないんだよねぇ。この時間なら大丈夫、って言いはっちゃって。
席なくって、ちっちゃい席にムリヤリ座る、なんてこともあるしね」
「ここでいっかぁ」
前をあるく修さんが落ち着いたのは4人掛けのテーブル。
いや、今はいいけど、あとで2人来るんだよねぇ?
しかも後の二人、大きいよ?
同じ事を考えているらしい愛衣は座っていいものか迷っているが、正樹さんはニコニコしながらストン、と座った。
「早い者勝ち!あとの二人は来た時に適当な椅子出してもらうか、はなれてカウンター、かな?」
ああ、可愛い顔してるのに。
黙っていたら、天使なのに。
でも、なんかこのヒト、面白いかも?
苦笑する私達には一切かまわず、店員を呼んであれもこれもと注文する二人。
あれ?私も愛衣も、飲み物決めていないけど?
あっという間にビールが4つに、なぜか一緒にピッチャーにはいったビールまで出てきた。
「最初はビール!2杯目からは好きなの頼んでいいよ。っていっても、ここじゃぁこないだみたいにワインとかはないんだけどさ」
ニコニコしながらビールを手渡す正樹さん。
なんだか、こないだとはイメージ違うなぁ。
「なに?ほら、とりあえず乾杯!お仕事おつかれ~」
正樹さんの勢いにつられてジョッキを合わせて一口。
私がジョッキから口をはなす頃にはどういうわけか二人のジョッキは空になっている。
一気呑み?ジョッキだよ。
愛衣からも同じ心の声が聞こえた気がする。
二人で顔を見合わせてる間にピッチャーまで空になった。
「お前らもなんか呑むか?」
って笑顔で聞いてきた修さん。
意外に気づかい屋さん?っていやいや、違った
「まだ、いいです。ってか二人とももう呑んだんですね。ペース早いですけど、いつもですか?」
「そうかぁ?俺らはいつもこんなもんだなぁ。徹も武人も」
そうなんだ。
徹も?
もう、絶対二人では呑みません!
最近みたテレビの話しとか、好きなタレント、気温まで。適当な話しをしながら時間がどんどん過ぎて行く。私達の話を正樹さんが面白可笑しく拾ってくれるから、どんどん会話が弾んでいく。あ、楽しい。
これだけ可愛くって、話も面白いんじゃ、人気もあるだろうなぁ。
合コンで、私を睨んでいた女の子の気持ちが、わかるなぁ。
ビールがどんどん進み、会話の合間にチラッと見れば、ニッコリと笑顔がかえってくる。
ああ、心臓に悪いかも?
「武人さんも徹さんも、遅いですねぇ仕事、今日大変なんですか?」
愛衣が聞けば、ニッコリと笑った正樹さんはとんでもないことを口にした。
「ああ、もう帰ったんじゃない?実はさっきのメール、武人の携帯借りて勝手に送ったんだ。だから、あの二人はここで呑んでるの知らないんだ!」
「「「は?」」」
「ビックリした?でも、いきなりオレが誘っても来なかったでしょ?ちょっとゆっくり話してみたいな、と思ってさ」
カラカラと笑う彼には、悪気なんて微塵も感じられない。
いや、あの?ええと、人の携帯は勝手に触ってはいけないのでは?
修さんも知ってたのかなぁ、と視線を向ければ大慌ての修さんと目があった。
「俺は、関係ねぇぞ。今日は帰りに正樹に誘われて、徹と武人も後から来るからって」
ホントだって、と繰り返す修さん。
嘘は、つけないタイプみたい。
信じますよ、と笑えば少しホッとした顔を見せる。
ああ、やっぱりいい人だなぁ。
修さんも一緒だし、徹と顔合わせるよりいいかも、なんて思っていれば
愛衣がちょっぴり不満そうな声をあげた。
「じゃぁ、武人さん、来ないんですねぇ」
忘れてた。
愛衣は武人さんに会うの楽しみにしてたんだ。
2人では会うのはハードル高いけど、皆でならって。それなのに、武人さんが来ないなんて。
「あれ?武人に会えないの残念なの?何回誘っても出てきてくれないって嘆いてたから、てっきり武人を避けてるのかと思ってたぁ」
本気で言っているのか、武人さんに答えないことを責めているのか。
正樹さんの言葉と笑顔は、真意がつかめない。
修さんが気まずそうにビールをあけて、次の注文をしようと店員を呼ぶ。
「ビール、と串焼き盛り合わせと……」
「私も、ビール!愛衣もビールでいいよね? 」
注文するってことはそれが来るまで、食べ終わるまで帰れないってことで、
『ゆっくり話したい』の真意はまだつかめないけど、私も正樹さんに一言、言いたい。
でも、あの可愛らしい正樹さんに一言物申すには勢いってヤツが必要。
これは、あと2,3杯は呑まないと、ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます