第6話 モヤモヤ
まぶしい……
顔に陽が当たる感覚で目が覚めた。
ん?
なんか、ベッド広い?
シーツの感触、違う?
枕、硬い?
壁、柔らかい?
「うわぁっっっ!!!」
壁かと思ったのは、徹!
硬いと思った枕は、徹の腕!
なにこれ?なにこれ?
私、昨日焼鳥屋で徹と呑んで……。
覚えてない……。
一昨日も遅くまで呑んだし、昨日は一日遊園地で疲れてたし、それでカパカパ呑んだら、そりゃ潰れるよね。
とりあえず、服は着てる!彼氏持ちとしての、操は守った!
このまま、徹が起きる前にタクシーで帰ろう!
後は、知らない……
そうっとベッドから抜け出して、よしっ!って思った瞬間。
「朝から行動はやいなぁ……。お前は早い時間に寝たもんなぁ」
まだ眠たそうな、徹の声。
それは、ベッドの中で叫ばれたら目は覚めますよね。考えなしに叫んでしまった自分に腹が立つ。
徹さん、眠いなら、ぜひそのまま寝ていていただいて大丈夫です。
そう言おうとして振り向けば、目の前に徹の顔があった。
「うわぁっ!!!」
思わず徹の顔を押した。
私のうろたえぶりをクツクツと笑いながら見ている徹。
「腹減ったなぁ。何食う?」
「へ?」
間抜けな返事をした私の横を通り抜けてキッチンに。
おぉい、徹さん?私、食べるなんて言ってませんよ。
「あ、私、いらないよ?すぐに帰るし。昨日は、迷惑かけてごめん、ね?」
無視?
徹さぁん?と呼びかけても、全く振り向く事はない。
どうしよう、と思っている間にコーヒーのいい香り。
可愛らしいペアのマグカップにコーヒーを入れて、座れよ?なんて笑う。
ああ、なんかちょっと、懐かしい。手際の良さは、変わってないなぁ。
でも、もう小学生ではない。
「それ、彼女のじゃないの?私が使ったら、彼女嫌だとおもうよ?」
こんな女子力の低い私でも、彼氏の家にある私のものを、他の女が使うのは嫌。
見たこともない徹の彼女の恨みを買うのはごめんだ。
そういえば徹はクツクツと笑った。
「元カノの、な。出かけた時にせがまれて、俺が買った。だから気にすんな。」
イヤ、なんか、違う。
そう思っていても、どう違うのか説明もできずにいれば、
あっという間に私の前にはトーストとハムエッグ。
さすが、です。徹さん。
え~と、と言いながらモグモグと食べはじめてしまう私。
昔から、何度も何度も、食べ物でごまかされてきた。だって、お母さんの帰りが遅くてお腹が空いた時、徹は魔法のように食事を出してくれていた。
幼なじみとの久々の再開、お出かけ、ご飯、それに一緒の朝食。
幼なじみは文句なしにイケメンで。
これって、ドラマだよね。
これから恋愛始まっても全然不思議じゃないくらいの、素敵な感じ。
遠距離の彼氏とイケメンの幼なじみとの間で揺れる、なんて少女漫画みたいな憧れのシュチュエーション。
なのに……。
私の頭の中は、卑屈な感情で一杯で、そんなムードはかけらもない。寝起きのくせに綺麗な顔、とか、女連れ込むのなれてるんだろうなぁ、とか。
我ながら、嫌になる。
子供の頃はあんなに仲が良かったのに。
頼りにしてた、大好きだった幼なじみなのに。
徹は今でも、あのころのまま私に接してくれるのに。
どうしたら、あのころみたいに素直に徹を見れるんだろう?
恋愛なんて始まらなくっていいから、ちゃんと徹自身に向き合いたい。
昔みたいに。
「……ご馳走様。これ昨日の分。私払ってないよね?ここ、置いとくね」
「俺が誘ったんだから、いらねぇ」
テーブルに置いたお金は、あっさりとバックの中に戻された。
でも、さぁ。
「男に奢ってもらうと、彼氏怒るから。私、態度にでるし」
「ふぅん」
再度、テーブルにお金を置く。
昨日、私一度も財布開いてないけど、1万で、足りるかな?
痛いけど、仕方ない。
空高く上った太陽に見つめられながら、徹のマンションをでる。送ると言ってくれた徹を振り切って、呼んでもらったタクシーに乗り込んだ。
何だか、朝からひどく疲れた。子供の頃みたいに接してくれた幼なじみに、思春期真っ盛りの反応をしてしまった自分が情けない。
自分が悪いことはわかっているのに、モヤモヤする、
もう、今日は夕方まで寝ていよう。
「おはよう、由夏!」
月曜の朝だっていうのに、愛衣が元気いっぱいに声をかけてくる。
私は、といえば若干寝不足気味。
「おはよう」
「なんか、元気ない? 幼なじみの彼から、連絡来た?」
「……」
やっぱり、徹に私の携帯教えたのは愛衣か。まぁ、仕方ないよね。
私も幼なじみだって言ったし、幹事さんに聞かれたんだろうなぁ。愛衣、かなりべったりくっつかれてたもんなあ。
私のため息に気付いたのか、少し申し訳なさそうな顔をする。
「迷惑、だった?なんか徹さんが連絡取りたがっているって言ってたから、つい。
ごめんね。彼氏に、悪かったかな? 」
とたんにシュンとなる愛衣。
ああ、やっぱり可愛いなぁ。
「ううん、違うの、迷惑とかじゃなくって。徹は幼なじみで、愛衣のおかげでちょっと話せるようになって、嬉しかったよ?土曜日久々に一緒に遊んだんだけど、疲れちゃって。」
年だよね~、と笑ってごまかす。
ごまかせて、ないかも知れないけど、これでごまかされて下さい。
「そっかぁ。由夏の昔の友達の話、あんまり聞かないから、ちょっと嬉しかったんだぁ。一緒に遊びに行ったんだ?良かったねぇ。彼氏とも遠距離だし、たまには遊び行くぐらい、いいよね?」
素直に喜んでくれる愛衣。
う~ん。
そういや、すっかり忘れてたけど、この週末は、電話一本なかった。
まぁ、私もしなかったけどさ。
付き合いも長くなると、優先順位が下がるのは仕方ないとは思う。でも、いくらなんでもこれはなくない?
あ、ちょっと腹立ってきた。
イラついた顔に気づいた愛衣が、困った顔でフォローを入れる。
忙しいんだよ、って。わかってますよぉ。
こっちだって、忙しいですよ?
イケメンの幼なじみと遊園地。
私が悪いけど、ばれたら絶対怒られるけど、でも、誰かにばらしてほしい気持ちがむくむくと起き上がる。ちょっと、ヤキモチとか心配とか、されてみたい。
そう思ったら、なんだかモヤモヤしてきた。
ちょうど良く始業時間となって、そこからは普段の月曜日。
お昼休みまでは、そのままお互い無言で仕事を片付ける。
お昼のベルが鳴ると同じに私の横にきた愛衣。いかにも女の子な見た目なのに、オンとオフの区別ははっきりつけるところも、付き合いやすいと感じる大事なポイントだ。
お弁当派の私達は、晴れていれば歩いて5分の公園のベンチでお昼を食べる。休憩中まで会社にいたくないんだよねぇ。
「昨日、武人さんからメールが来てね」
少し照れたように笑う愛衣。あれ?これは、もしかして?うんうん、と興味深々に耳を傾ける私にはにかむように笑う。
「また、みんなでご飯にいけたらいいね!」
「……そうだね」
これは、なかなか進展しないかもなぁ。武人さん、いい人そうなのに、ちょっとかわいそう。
徹と遊園地に行ってから2回目の週末。
その間、愛衣の元には武人さんから毎日メールが来ている。
最初こそ、「なんて返信しよう」なんて考え込んでいた愛衣も今ではすっかりメールのやりとりを楽しんでいるみたい。
「武人さんから、ご飯のお誘いとかないの?」
からかい交じりに聞いてみれば、困ったように笑う愛衣。
誘われても、なんか用事作って断っちゃうんだろうなぁ。愛衣、軽そうな男性、苦手だもんねぇ。
悪い人ではないみたいなんだけどなぁ。
徹はと言えば、気まぐれに今日はあいてるか? といったメールが来る程度。
あいてるか? と言われれば慌てて予定を入れる。
愛衣とのご飯だったり、マッサージだったり、終いに、単発で料理教室にまで行ってみた。
おかげでこの2週間で私はすっかりお疲れ。
週末は寝るぞ~、なんて思って迎えた金曜日の終業時間。
私と愛衣の携帯が同時になった。
メールの相手は、武人さん。
あれ?間違えてない?そもそも私のアドレス知っているの?
不思議に思ってみれば二人とも文面は一緒
『今日は修お勧めの店に呑みに行くんだけど、よかったら二人もどう?』
二人で顔を見合わせていれば、またも同時にメールがきた。
『正樹です。俺も一緒だから、大丈夫(笑)場所わかる?会社まで迎えに行ってあげようか?』
正樹さんからのメールには、お店のリンクが張られている。いや、だから、なんで連絡先知っているのさ?
しかも、正樹さんも一緒だから大丈夫って……。
いやだぁ~
隣に並びたくない~
なんて言って断ろう? と相談しようと前を向けば、顔をほころばせた愛衣の顔。
……負け。
あんまり、オシャレなお店じゃないといいなぁ。
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