第4話 意外に、楽しい?
車に乗り込むころには、白い月がでていた。
半月よりも少し丸みを帯びた月は、不格好であまり好きな形ではない。
綺麗に丸いか、消えそうに細いか、の方が綺麗。
そういった私に、
「
「私らしい?」
「ああ、由夏らしい。俺は、月なら何でも好きだなぁ、月の無い夜も悪くねぇし」
「それはそれは。そういうところは、徹らしいよ」
本当に、徹らしい。なんでも受け入れることができるのは、自分が誰からも受け入れてもらえるからで、自分に自信があるからだってことを、きっと徹はわかっていない。
家まではの道のりは、2時間弱。
暗くなった車内では周りからの視線も感じない。おかげで、社内の空気が少し軽くなった気がする。子供の頃のように無邪気にとまではいかないが、少しだけ幼なじみとして会話を楽しめる。このままなら、『今日は楽しかった』で終われそう。
「腹減ったなぁ。由夏の家の近くで、なんか旨い店あるか?」
「は?」
「帰り道にある店はどこも混んでいそうだし、どうせ送っていくんだ。お前の家の近くで食ったほうがいいだろ?」
確かに、土曜日だけあって国道沿いの飲食店はどこも満員っぽい。
ウチの近所なら、住宅街の中だから空いてるかもしれない、けど……。
「私、あんまり店知らない」
今の会社に入社が決まってから引っ越してきたマンション。近所に友達がいるわけでもないし、彼氏も近所のお店の開拓なんかに付き合ってくれるタイプではないので、気になるお店はあるものの、行けずにいる。
「じゃぁ、俺の家の近くでいいか? 帰りは送ってやるよ」
「は?」
「店しらねぇんだろ?旨いかどうかもわかんねぇ店行くぐらいなら、知ってる店に行こうぜ。それほど遠くないから心配すんな」
「……」
子供のころから思っていたけど、徹は言い出したら聞かない。穏やかな物言いで、言ってることはかなり強引。こうと言いだした徹に、私が勝てたことなんて一度もなかった。
何を言っても無駄だろうと黙っていれば、車はウチの側を離れて、どんどん進んでいく。
ご飯なんていいから、もう帰りたい。
徹の家は、ウチから車で20分程度のところにあった。
沿線が違うから今まで一度も会ったこと無いとはいえ、こんな近くに住んでいた幼なじみを知らなかった事に驚いた。
本当、世間って狭い。
徹の家に車を置いて、歩くこと5分程度。着いたところは、焼き鳥屋……。
ポカンとしている私に向かって、嫌いか? と眉間にしわを寄せた。
いや、焼き鳥は好きだけど、アンタ私を送っていくって言ってなかったか?
帰りは? と聞けばカラカラと笑ってタクシーぐらいは呼んでやる、とさっさと店に入って行く。
ああ、やっぱり徹だ。
慌てて追いかければ、一人でさっさとカウンターに座っている。溜息をこらえながらも隣に座ると同時に出てきたビール。
私、ビールなんて言ってないけど……。
お疲れ、とグラスをあげて一人呑み始める徹に、こらえた溜息が漏れてしまった。
ほんとに、勝手なヤツ。昔から、勝手なヤツ。
変わらないねぇ、と言えばクツクツと笑ってジョッキを煽る。
「お前も、中身は大して変っちゃいねぇよ」
仕方ねぇよなぁ、といって笑った徹の顔は少し寂しそう。
周りは男の人ばかりの焼き鳥屋。人目の無さが気楽で、ビールの助けもあって、思いのほか話ははずむ。昨日一緒にいた徹の友達の話とか、私が合コンに行く羽目になった話とか話題に詰まるなんてことが無いくらいに、楽しい。
徹といるのが楽しいなんて、いつ以来だろう。
「合コンであんなに食べてる人初めて見たよ」
「あぁ、
「あ、見てた?」
そんなに食べてたかなぁ?だっておいしかったんだよねぇ、と言えば
「気に行ったんなら、また今度行くか?」
「……」
話題を上手くそらす事もできず、黙ってビールをあおる。
申し訳ないが、あんな素敵な店で、徹と二人はきつい。無理だ。なんの罰ゲームだ。
徹は悪くない、わかってる。
でも、徹と並ぶのは、嫌、なんだよなぁ。
我ながら、情けないんだけどさ……。
「嫌なら、無理にとはいわねぇがな。修も正樹もまた会いたがってたからなぁ。まあ、アイツらと呑みに行く時に声かけるさ。気が向いたら顔だしな」
うわ、正樹さんって……。
あの、かっわいい人だよねぇ?徹と正樹さん。そこに混じる私……。
どんな嫌がらせだ?
「横に並ぶの、きっついなぁ」
つぶやいた声はオジサン達のご機嫌な声にかき消されていった。
その後、私はカパカパとビールを飲み干した。
「由夏?呑みすぎじゃねぇか?」
「うん?へーき、へーき……」
「平気、ねぇ」
徹の呆れた声が遠くで聞こえる。
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