第2話 気になる存在ではあるけれど

ちらり、ちらり、とこちらを向く視線から逃げるように、女の子そっちのけにひたすら食べているの人の所に逃げ込んだ。

きっと、この人も人数合わせなんだろう。

同じ会社って言ってたけど、アイツ今なんの仕事してるんだろう。


「ねぇ。同じ会社で、同じ部署なの? 先輩後輩? 」


「ん? 同じ部署、だな。半年ぐらい前に立ち上げた部署だから、先輩後輩って感じじゃねぇけどな」


「へぇ、そうなんだ」


アイツは私と同じだから27歳。幹事の人は、少し上ぐらい?目の前の彼は、どう見ても新卒っぽいけど……。

あんまりこだわらない会社なのかな? それとも、トオルも幹事さんも転職組?


直接は聞けない癖に、気になる。でも、あんまり聞くのも、申し訳ないよねぇ。

まぁ、もう会うこともないだろうし、元気そうだってわかっただけでも良しとしよう。

気を取り直して、目の前に並ぶピザに手をだした。

合コンにちゃんと参加する気がないのに、男性陣に会費を払ってもらおうと思うほど厚かましくはなれない。自腹なんだから、せめて元は取っていかなくっちゃ。


「ねぇ、由夏ユカちゃんだっけ?徹と知り合い?

 あ、俺、正樹マサキ。幹事の武人タケトトオルとは同期入社。

 けっこう付き合い長いんだけど、徹が合コン来てあんなに楽しそうにしてるの初めて見たぁ」


ニッコリと笑って耳打ちしてきたのは、これまた爽やかなイケメン。

耳にかかる程度の柔らかそうな髪、外回りとかないのかなっていう白い肌。

ほんと、この会社、いったい何の会社なんだろう。


アイツ、あれで楽しそうなのかぁ。

昔は、もっと顔いっぱいで笑ってて、素直だったのに。

大人になった、ってことかな?


なにも言えない私を、正樹さんがニコニコしながら見ている。

それを追うような、女性陣の視線が、痛いです。

そうだよね、イケメンを一人占めしたら、ずるいよね。


「うん、知り合い」


そう言って、いったんトイレに逃げ込んだ。

可愛らしい正樹さん。

私の、苦手なタイプ。

彼が悪いわけじゃないけど。



トイレから戻れば、人数合わせの彼は、まだ食べている。

側には愛衣メイ、と愛衣に話しかけている幹事の武人さん。

他の女の子はそれぞれ意中の人の側に。

私、あぶれた?

まぁ、いいかぁ。

元の席に戻って、ピザに手を伸ばす。


「お。おひゃえもくうのふぁ?こふぇ、うふぇぇぞ!」


いいながら、厚切りベーコンのお皿を渡してくれた。

うん、いい人なんだなぁ、この人。

なんだか少し、嬉しくなった。


私のお腹が満たされる頃に、合コンはとどこおりなく終った。二次会のカラオケに行こうとの誘いは丁重にお断りして、愛衣と二人で呑みなおしだ。

行きつけのバーで、とりあえずのビールからやり直し。


「かんぱーい」


「お疲れ~」


これが、合コン帰りのセリフかねぇ。

と、苦笑いしながらビールを飲み干す。

でも、これだから、愛衣とは仲がいいのかなぁ。

私から見ても、可愛らしい愛衣。

なのに、男に対して極端に人見知りをするため、合コンの類はまず行かない。


私は、女のくせにそこらの男よりも高い身長。

肩幅も広く、女扱いされること自体が少なかった。

だから、女を求められる合コンは、元々苦手。

誘われてもひたすら断る事にしていたんだけど、まさかこんなところからお誘いが来るとは、ねぇ。


「ごめんねぇ、急に。せっかくの週末だったのにねぇ」


心底申し訳なさそうに、愛衣がつぶやく。

こういうところ、可愛いんだよなぁ


「全然!どうせ予定もなかったし、たまにはいいよね、こういうのも」


ピザ、おいしかったよ、と私が笑えば愛衣も笑った。


「そういえば、徹さん、知り合いだったんじゃないの?

 全然話してなかったけど、良かったの?」


「いいのいいの、知り合いって言っても子供のころの知り合いだから。

 向こうだって、かわいい女の子に囲まれて、楽しそうだったし」


「そうかなぁ、由夏のこと、見てたけどなぁ。」


愛衣がつぶやいた言葉は、都合よく聞こえなかったことにした。

そんなの、知ってる。視線はしっかりと感じていたからこそ、目を合わさない事に必死だったのだ。


だって、仕方ないじゃない。


徹は相変わらず、人気者で、可愛い女の子がたくさんよってくる。

そんな幼なじみに、私ごときが気安く話しかけたりできないよ。


さすがに、もう顔みてダッシュで逃げ出したりはできないけど。

本当は、一目散に走って逃げたかったなんて、自分でもあきれるぐらいに情けない。



終電ギリギリに電車にかけこんだ。

呑みました、って雰囲気の中帰ってきて、フラフラとコンビニによって、

家に帰ればさっさと寝てしまった。


眼がさめれば、思った通り二日酔いで頭が痛い。

まぁ、いいか。

土曜日だし、このまま夕方まで寝てよう。


そう思ってもう一度布団にもぐりこんだ途端に、携帯の着信音が軽やかに鳴り響いた。爽やかな音楽に無性に腹が立つが仕方がない。


「はい? 」


だれだよ?土曜の午前中に電話なんてかけてくるヤツは。

そう思って不機嫌全開の声を出せば、電話の向こうは思ってもいなかった声。


「なんだよ、相変わらず寝起き悪いなぁ。」


クスクスと笑いながら話す声は、懐かしいあのころのまま。


「徹?なんで、番号知ってるの?」


「ん?さぁなぁ、なんでかねぇ。お前、今日も暇だろう?出て来いよ。」


はぁ?何言ってんだ、コイツ……。

彼氏に怒られるから、と言ってみるが『兄貴が来たって、言っておけよ』って……。

私、一人っ子なんですけど?

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