幼なじみ

麗華

第1話 まさかの再開

「じゃぁ、とりあえず、自己紹介。

 幹事の武人タケトです!え~と、こっちは全員同じ会社で……」


ニコニコとした男性が何か話しているけど、全く私の耳に入ってこない。

目の前の切れ長の目が、面白そうに下がり、口元が軽く上がるのを黙って見ているだけで精いっぱい。

来なきゃ良かった。

本当に、来なきゃよかった。





一時間ほど前……

週末の就業時間、一週間がやっと終わった事に安堵。

この連休は何をしようかな、なんて思いながらデスクを片付けていたら、同期の愛衣に呼び止められた。


由夏ユカ、今日暇?ねぇ、暇でしょ?」


こらこら、決めつけるな。

愛衣メイがこういう時ってろくなコトないんだよねぇ。


「なに?」


自然と、警戒いっぱいの声がでる。


「それがさぁ、今日合コンに誘われてたの。

 学生の時のコの誘いで、断れなくって……。

 で、つい会社の同期も一緒ならいいって言っちゃったんだ。

 そしたら、男性陣も人数増やしたから大丈夫って返事来ちゃって。」


「はぁ?」


いや、私、遠距離とはいえ、彼氏いますよ?

そりゃぁ、最近会ってないけど……。

連絡も、あんまり取ってないけど……。

でも、社会人同士だし、付き合って3年たつし、そんなもんでしょう?


それに、私がそういうの苦手だって知ってるくせに……。

合コン来るようなタイプ、駄目なんだよねぇ。


「ほんと、ごめん!

 でも、言っちゃった手前、私一人で行けないの。お願い、付き合って!」


目の前で、両手を組んでお願いされる。

愛衣だって、ホントは合コンとか苦手なんだよなぁ。

可愛いのに、女家族で育ったせいで男慣れしていない愛衣。

それなのに、強く断れないせいで人数合わせに誘われることが多いって愚痴ってたなぁ。

仕方ない、かぁ。


「お金、出さないからね」


「もちろん、私出す!」


「来週、ランチおごってよね」


「はい!」


「仕方ないなぁ……」


「ありがとう!由夏!」


ぐわしっと音が出そうな勢いで抱きつかれた。

女同志なんだけど、可愛いからまぁいいか、なんて思ってしまう私も、結構なお人よしだと思う。


ついたお店はセンスのいいイタリアン居酒屋。

ワインが豊富で、食事もおいしそう。

でも、当然皆さまの目当ては食事でもワインでもなくって……。

みんなの視線は、向いに座る男性陣。


イケメンぞろいだねぇ、なんて愛衣がつぶやく。

確かにイケメンぞろい。

中でもひときわ目をひいたのは……


男のくせに、サラサラの綺麗な黒髪

長いまつげ、切れ長の瞳、白い肌。

隣に並ぶのが嫌になるぐらいのこの男は、私の幼馴染で間違いない。



小さい頃は、いつも一緒に遊んでいた。

子供のころからしっかりものだったトオルは、ママからも信頼があって、

徹と一緒なら大丈夫、なんて言われて小学校に上がる前から、少し遠くの公園に一緒に行った。

知らない人ばかりの公園が、とても新鮮で。

知らない所にきた自分がちょっと大人になったような気がしていた。

はしゃいではしゃいで、帰らないと駄々をこねた私に、困った顔をして、


「また連れて来てやるから、今日は帰るぞ」


なんて言って、手をつないで一緒に帰ってきたなぁ。

今思えば、ませたこと言うガキだったよなぁ。


小学生になったらお互い同性の友達と遊ぶようになって、だんだん一緒にいる時間は減っていった。

でも、毎朝一緒に学校に行って、

お互い親が働いていたから、一緒に夕ご飯を食べることも結構あった。

しっかり者で器用な徹が作ってくれて、私は食べるだけ。

それでもそんな私に文句も言わなくって

当然のように、私の面倒を見てくれていた。


中学に入ると、周りの女子が、徹の事をカッコイイ、なんて言いだした。

自分と徹が並んでいることに違和感を感じ、徹の横に並ぶときは、いつも下を向くようになっていった。


朝は、部活があるのをいいことに一人で登校。

当然、帰りも友達と一緒。

夕食も、親が忙しくて作れない時は自分で作るようにした。

当然、徹はどんどん機嫌が悪くなって。


「なんだってんだ?俺が何かしたのか?」


「別に」


何も言わない私に不満そうだったけど、察してくれたのか面倒になったのか、黙ってそのまま離れて行った。

そのまま、別々の高校へ進んで

高校卒業後、私も徹も地元を離れた。

クラス会、なんてもののない私の中学校。

自分の生活が楽しくって、地元に帰ることも少なく、大人になった。

時々、思い出すことはあっても、きっと二度と会わないだろうなぁって思ってて。


それが、まさかこんな所で……。


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