第5話

それは僕が高校二年生の夏休みの時だった。新任の国語の先生に恋心をいだいていた頃だ。


肩まで伸びた髪が風が吹くとサラサラなびかせ、いつもセンスよくブラウスやカーディガンやスカートを着回して教室にはいってくる生徒にも人気ある先生だった。


僕はコーラス部の顧問と知って一年生の夏に慌てて入部した下心組だ。さすがにコーラス部といえば女子ばかりだが、自分と同じような下心組の男子生徒も数人いてとにかく先生を一日見ているだけで幸せを感じる、僕も含めてみんなそんなやつらばっかりだった。



ある日部活が終わり、男子だけが残って片付けをしている時に、同じ部活の浩史が突然、先生の話しをしはじめた。


「明子先生の旦那、知ってるか?


あいつそうとうやばいぜ。」


日曜日に家族と焼肉屋にいったところどうやら

明子先生夫婦がきていたらしい。


生徒家族には気づかず、後ろのテーブルで食事していたらしいが、先生の腕にあざがいくつもあるのが見えたらしい。


すると黙って聞いていた孝介も

「母ちゃんから聞いたけど、明子先生の旦那外務省に務めていて、最近海外赴任から帰ってきたばかりらしい。お見合い結婚してすぐに海外赴任が決まり2年間の滞在を終えて帰ってきたらしいんだ。新婚生活がはじまったばかりのはずだぜ。」


僕はそんなことはつゆ知らず、友達の情報収集力に感心するばかりだった。



それにしてもどういうことだ。明子先生が新婚生活は幸せじゃないのか?


僕は本当のことが知りたい欲求にかられて一週間なんにも手がつかなくなっていた。


夕食の時にも好物のトンカツが喉にはいっていかない。腹が減ってるはずなのに、先生の旦那はどんなやつなんだ?そんなことを考えていたら食欲もなくなってきた。


先生を幸せにするつもりがないなら消えろ!


だんだん怒りがこみ上げてきた!


「ごちそうさま。」


食事をそこそこに自分の部屋にはいった。


頭の中に明子先生に対する純粋な恋心と先生をいじめているかもしれない最低男の旦那のことがぐるぐる回転木馬のように回っていて、心のバランス崩しかけていたかもしれない。


怒りなのか嫉妬なのかわからなかった。


ただ、人として思ってはいけないことを強く強く怒りの感情で思ってしまったのだ。


ゴロンと畳の部屋で心の中で強い気持ちで叫んだ。


(そんな旦那なんか死んでしまえ!)


すると、耳の奥からブーンというなにかヘリコプターが上に上昇するような音と共に横たわっている僕が静かに上昇し始めた。


20センチ位あがっただろうか。まるでマジシャンがマジックしてるような姿だった。


「えっ?僕なんか体浮いてる?」


そう思ったとたんなにごともないように畳に横たわっている僕だった。


そのことをサムリーは知っているんだ。たぶん。

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