第1話

僕は昴。都内の私立K大学の大学生だ。

明日から夏休みだが、バイトの予定も旅行の予定もない。


大学生になったらあれもやろう、これもやろうとリストアップしてそれを楽しみに受験勉強を乗り切ってやっと手に入れた合格通知。


でもいざ大学に通いはじめて見ると、想像とは違っていた。さすがK大ともいえば、政治家や大企業の息子や娘も多く、いつも華やかな彼らとは友達になることもない。相手にされてもないだろう。彼らは同じ世界の人間を生まれながらの臭覚で嗅ぎ分けてグループを作っていく。


そう彼らは卒業後のネットワークをここで構築していくのだ。政治家、医者、弁護士、警察庁、商社、日銀、放送局、新聞社。ありとあらゆる職業に散らばっていくが、いずれ上層部になる連中のネットワークが出来上がっていく。


勿論親の七光は充分活用していく。


僕はかといって何故か普通の家庭の普通の会話をする学生にも興味はもてなかった。


こんな何万人もの学生がいるなかで一人孤独感、喪失感を感じていた。


平凡な家庭で生まれ育ち、人生に大した希望も野望もなかったが、いつもなにかしら考えていた。


少し冷めた気持ちで人や自分を観察していた。


だから特別話せる友達がいなくても寂しいとは思ったことはない。


ただ時々無性に話したくなる。唯一僕の祖母だけはなんでも話しができていた。


92歳という年齢でも生きる為の哲学を教えてくれた。祖母の宇宙の法則というはなしは興味深かったので、本屋で自分で探したりして、なにかを見つけ出したいといつも思っていた。



その答えが見つからないまま大学生活を過ごしていた。


唯一話しができる祖母も去年他界した。


喪失感はその時からだったかもしれない。


しかし、


7月の暑いある日、私の目の前に現れた。


私に話しかけた者がいた。


すれ違う瞬間にテレパシーでこういったのだ。


「昴君だね。私はサムリー。少し話しをしないか?」と。


蝉がやたらとなく暑い夏の日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る