ラスボス

水谷一志

第1話 ラスボス

 一

 『さあ、ついにラスボスだ…。』

私がこのゲームを始めてから少し。私はついに、ラスボスにたどり着いた。

 私はゴーグルを装着し、そのボスに備える。

 

 二

 『しかし、このボスはどうやって倒せばいいんだ…!?』

 相手は見るからに強そうなボス。私はとりあえず、《sword:剣》を武器として選択する。

 そして私が剣を構えると…。

 そのゲーム内でアラームが鳴った。

 『何々?…剣は…《prohibited:禁止されている》!?』

 …私は武器は種類が違えども剣しか持っていない。なら素手で戦えと言うのか?

 『素手で戦った経験は…ないな…。』

 そうやって私が戦い方に迷っていると、さらに通知がやってくる。

 『何々?…ここで戦えば、《criminal:犯罪である》ことになるかもしれない!?』

 …そんなバカな!それではここまで来た意味がないではないか!私はここでラスボスを倒して上へ上がりたいのに!

 しかしここで私は冷静になる。私はこのゲームをクリアしたいが、それはラスボスを倒すことだけではないはずだ。そう、他にこのゲームを完全にクリアする方法があるかもしれない。

 そう思った私は、とりあえず《retreat:退却》を選択する。すると、場面が変わり…。

 私は1番最初の村に戻った。


 三

 するとそこの村人たちは、私に向けて歓声を送る。

 「ありがとうございます!」

 …何でも、その村ではラスボス率いるモンスターと村人同士がずっと争いを続けていて、その争いの手助けに勇者の私を呼んだ…ここまではこのゲームの初期設定だったのだが、

段々劣勢になっていくモンスター側が、私のいない間に村人に和平を申し込んだらしい。

 それで私がラスボスを倒さなかったので、その和平が完全に成立した…ということだ。

 そしてその村の空には、

 《appreciate》

 という言葉が出る。

 これは、《感謝》という意味か、または私の判断に対しての《評価》という意味か―。


 四

   ※ ※ ※ ※

 今日もこれで、5つの単語を覚えた。

 そう、これは【異世界RPG型の英語勉強ソフト】である。

 しかし、最後の単語の翻訳だけは分からなかった。これは先生に訊いてみよう。

 いや。

 「雄二。ちょっといいか?」

「何?【おじいちゃん。】」

「この場合のこの単語なんだが…。」

 すると高校生の孫は快く教えてくれる。

 そして私は言う。

 「【ありがとな。70の手習いに付き合ってくれて。】」

 そして私はゴーグル、いや【老眼鏡】をはずした。 (終)

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ラスボス 水谷一志 @baker_km

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