岬け家訓第15条『カビが生えても不毛は不毛』
さて、そうなると、わたしもいよいよ覚悟を決めないといけなくなってきた。
岬けの旧家の屋根裏。
最初にレーコさんと出会ったこの場所で、わたしはレーコさんと一対一で向き合っていた。
「岬け家訓第38条! 『もったいぶるのはもったいない』!」
まず第一声。わたしは家訓をレーコさんにぶつける。
蒼馬先輩の推理は、結局聞けずじまいになってしまった。
そしてなにあろう、それを妨害したのはレーコさんだ。
こうなれば、問い詰めるしかない。
レーコさんは、きっと、わたしが知らないことを、いっぱい知っている。
きっと、都合の悪いこともいっぱいあるのだろう。
それでも、わたしはできるだけ、知りたいと思う。
レーコさんは、わたしを守ると言ってくれた。それは、絶対に、まちがいなく、信じられる。
だけど、なにも教えないというかたちでわたしを守るというのなら、わたしはノーをつきつける。
「岬け家訓第112条『真実重みは持ちきれない』」
レーコさんの返答は、わたしの知らない家訓でのカウンターだった。
またあの浮遊感。レーコさんはいつものようにわたしを支えることをせず、仏頂面で宙にあぐらをかいている。
「岬け家訓第95条! 『好奇心は死者をも活かす』!」
そっちがその気なら、わたしだってそれを家訓で打ち返してやる!
「岬け家訓第113条『死なばひとりで知ればもろとも』」
また……浮き上がる感覚……わたしの知らない家訓。
ほほう……徹底抗戦のつもりですか……。
だがね、レーコさん!
岬け期待のホシを、あまく見ないことだ!
「岬け家訓第43条! 『旅の道連れあの世にゃ渡せ』!」
「岬け家訓第28条『行きて帰ればおかえりなさい』」
「岬け家訓第29条! 『カエルの子は田んぼに帰る』!」
「……岬け家訓第15条『カビが生えても不毛は不毛』」
はーっ、はーっ、と荒い息で、たがいににらみあったまま、それ以上の言葉を発さない。
わたしの視界はぐらぐらゆれていた。
ここにきてから、まだ教えてもらっていない家訓を覚えると、こうして浮き上がるような感覚がする……さすがにもう、それくらいは理解できていた。
それに、わたしだけ、『シノカ』を持っていないのに、死神が見える。
もっと言えば、カード自体は持っていないのに、なぜかわたしは『シノカ』の機能を使うことができている。
からだでタッチすれば、ピッと音が鳴る。
わたしのからだそのものが、『シノカ』になっているみたいに。
「優依……おまえは、そのままでいればいいんだ」
レーコさんが、猛獣を落ち着かせるみたいに、ゆっくりと話す。
「おまえがミサキ小学校を卒業すれば、それでいい。その間になにが起きようと……いや、なにも、起こさせない」
「レーコさん、説明して」
「だめだ」
「どうして!」
「おまえにはもう、岬けの……家訓が、染み渡っている」
「それって……毒みたいなもの?」
自分で口にして、その意味に震えあがった。
わたしが今日まで支えにしてきた岬けの家訓が、わたしのからだをむしばむ毒なのだとしたら……わたしはいったい、なにを信じていけばいい?
「それはちがう! 岬けの家訓は、おまえたちが受け継いできた、立派なものだ!」
「じゃあ、わたしが感じる、あのふわっとしたやつはなんなの?」
「それは……」
レーコさんは口を開いたまま、固まった。
ああ、はい。
そうですか。
なにも言えないんですか。
わたしはこれでも、レーコさんのこと、大切なパートナーだと思ってきたのに。
その仕打ちが、これですか。
だったら……。
「もういい!」
わたしは下に通じる階段へと向かう。
「優依! お願いだ、わたしを信じてくれ」
顔も合わさず、無言のまま、わたしは階段の段差に足を入れて、のぼってきたときと同じかっこうで、下におりていった。
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