第三話 妖精の紅茶屋さん

 おいしい紅茶を淹れましょう。

 妖精とおしゃべりしながら、楽しく、笑顔で、心を込めて。


 妖精が紅茶やハーブティーを好むことは知っていますね。今回は、妖精印のフレーバードティーの淹れ方を紹介しましょう。

 淹れ方は、ごく普通の紅茶とそんなに変わらないわ。ただ、ときどき妖精にお手伝いを頼むだけ。

 まず、重要なのは最初の茶葉選び。自分の、またはお客様の要望をできるだけ詳しく伝えて、妖精に茶葉とドライフルーツ、エディブルフラワー、スパイスを選んでもらうの。

 気分をリフレッシュさせたい時は軽い酸味のあるフランボワーズ、美しくなりたいなら楊貴妃が愛したと言われるライチ、オリエンタルな気分に浸(ひた)りたいならジャスミンなんかね。

太古からの知識を受け継ぐ妖精はとても紅茶に詳しいから、全部お任せでも大丈夫。

 さて、人間が頑張らねばいけないのはここからです。

 まず、ポットは事前にお湯をいれて温めておきましょう。こうすることで紅茶を淹れる時にお湯の温度が下がるのを軽減することができるわ。そうそう、ティーフィルターを温めておくのも忘れてはいけませんよ。

 え? 茶こしじゃだめかって?

 だめではないけれど、ティーフィルターを使うと紅茶の味が均一になるからおすすめよ。

 それじゃあ続けるわね。ポットが温かいうちに、ティーフィルターをセットして、カップ一杯につきティーメジャーひとさじの茶葉を淹れます。そう、一杯。フレーバードティーはストレートで飲むのが基本だからそれでじゅうぶんよ。

次に、茶葉の上から熱湯を注いで一分から三分蒸らします。熱湯を注ぐときにティーフィルターをちょっと持ち上げるのがコツよ。

 蒸らす時間は茶葉の大きさで調整すること。大きめの茶葉は長く、小さめの茶葉は短くね。だいたい蒸らしたら、ティーフィルターを持ち上げて、カップの中をかき混ぜます。紅茶の濃さが均等になるようにね。

 蒸らし時間が終わっても、慌ててカップに注いではだめよ。必ず味見をして、濃さを確かめるの。薄かったらもう少し蒸らして、ちょうどよかったらティーフィルターを取り外します。

 そうしたらいよいよ紅茶を温めておいたカップに注ぎましょう。ここでもう一度、妖精にお手伝いを頼みます。

「美味しくなる魔法をお願いね」

 と言えば、妖精はこころよく紅茶に魔法をかけてくれるわ。

表面がきらきらとしていたら、正しく魔法がかかっている証拠。たまに悪戯好きの妖精が珍妙な味になる魔法をかけたりするけれど、そうすると表面が少し濁(にご)るからすぐ分かるわ。そんな妖精はごく稀だけれど、気を付けましょうね。

 そうそう、紅茶を人間に出す前に、妖精にお礼の紅茶を出すのを忘れてはだめよ。彼女たちはストレートティーよりもミルクティーが好きだから、小さな妖精用のカップに五滴の紅茶と一滴のミルクを淹れてあげればいいわ。

 これで基本のフレーバードティーの淹れ方は終わり。それほど難しくないでしょう?

妖精が見えない人間には難しい?

 ふふ、そうね。でもね、妖精が見えなくても、紅茶を淹れる時にどこからともなく妖精は寄ってくるものなの。茶葉選びは自分でしなければいけないけれど、最後の魔法だけなら、「姿が見えない可愛い妖精さん、お手伝いをお願いします」って頼めば、たいていの場合は聞いてくれるわ。

 本格的な妖精印の紅茶が飲みたいなら、是非うちのお店に来て。お店の雰囲気もきっと気に入りますよ。

 あら、分かってしまいます? ええ、ええ、旦那さまが手ずから建てて下さったものなの。主人と、妖精と私でじっくり相談して設計してね。天然木の良い香りと漆喰しっくいの壁が私のお気に入りなんですよ。まるでお店全体が呼吸しているみたいで。

 ドライフラワーやハーブをたくさん飾っていて、大きくとった窓からはたっぷりの優しいおひさまの光が入ってくるの。ええ、直接日光が入ってくると暑いときもあるから、クッションにサンルームを付けてもらったんです。お庭も妖精が見える庭師さんに設計してもらってね。まさに店全体が妖精印なんですよ。

 常連さんになってしまいそう? まあ、大歓迎だわ。妖精には人見知りの子も多いの。そういう子は、いつも来て下さるお客様にぴったりとくっついて離れないのよ。想像すると微笑ましいでしょう? 私も見るたびにほっこりしてしまうわ。

そうそう、妖精に選んでもらった茶葉のお持ち帰りも出来るから、家でもあなたのためだけのブレンド紅茶を淹れられるわ。

 ふふ、営業トークはこれくらいにしておくわね。さあ、紅茶が冷める前にいただきましょう。

 でも、本当に、是非一度はお店に足を運んでいただきたいわ。

美味しい紅茶とお菓子と、たくさんの妖精があなたを待っているから。



※参考資料:おいしい紅茶のレシピ (株)スタジオタッククリエイティブ

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