第61話 フカフカな毛並みに包まれて

朝になり酒で酔いつぶれた科学者は目を覚ました。


「昨日は呑みすぎたな、さあ今日から実験だな!腕がなるわい!」


宿屋から外に出た科学者は何かおかしい事に気づく。


昨日はたくさんのフェンリル達が村の外にいたはずが今日は1匹も居ないのだ。


科学者はすぐ村の長の所に行きフェンリルがどこにいるのか聞いた。


「遠い国からわざわざこんな何も無い村まで足を運んでもらったのに申し訳ない--昨日の夜フェンリル達と喧嘩をしてしまいまして、森に帰ってしまったんですよ」


それを聞いた科学者は怒り狂った。


フェンリルのいない村などなんの価値もないからである。村の長を怒鳴りまくる科学者は言いたいことを言うと自分の国へ帰って行った。


村の長はホッとしたがこれで終わりではなかった。


科学者が去った一週間後に村の長は何者かに殺害されたのである。


村の住民達はみんな泣き崩れた。殺害現場にはフェンリルのものと思われる足跡が複数あったのだ。


これを見た村人達はフェンリルに殺されたのだと確信しフェンリルを敵対視するようになった。


「これが俺の知っている事だ」


フェンリルの話は終わった。


「君はなんでそこまで知ってるの?」


「科学者が酒の席で話してる所を偶然聞いたんだ」


「そっか……大変だったんだね」


桜は俯きながらいった。


「俺達フェンリルはあの村に嫌われようが住人を殺しはしない、だが俺達も食料不足で生存していくのもやっとの状態なのだ、だから収穫期に村の農作物を頂き冬を越すんだ」


フェンリルがひと通り話し終わり桜を見た。


そこにはフェンリルのフカフカな背中を枕代わりにして寝てしまっている桜がいた。


「やれやれ、俺はお前の敵なんだぞ、よく敵にもたれかかって寝るな……とんだ冒険者だな」


フェンリルは笑い桜が風邪を引かないよう丸まって桜を包み自分も眠りについた。

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