第60話 フェンリルとフェオラル村

話す魔物のフェンリルが他の仲間に先に森に帰るように言った。


「まずは俺の仲間達を追わず逃がしてくれたことを感謝する」


フェンリルは頭を下げた。


「逃げる敵を追うほど鬼じゃないよ私は」


「いや、さっきの闘いけっこう鬼っぽかったぞ」


フェンリルは小さい声で言った。桜には聞こえないように。


「さて話を戻すが--あの村はかつて俺達フェンリルと共存していたんだ」


フェオラル村--かつて魔物のフェンリルと仲良く暮らしていた時代があった。


村人は米や野菜を育て、フェンリルは村に魔物が入らぬよう日本で言う番犬のような事や野生の動物を捕獲してきたりと種族間を越えた付き合いをして生きていた。


「だが俺達はいきなり村人達からこの村から出ていけ!と言われた--理由を聞いたが教えてくれなかった」


フェンリルは悲しそうに話した。


「今まで仲良くやってたのにいきなり追い出すって……意味わかんないね」


桜は首を傾げた。


「お前はルー……」


「お前じゃない!私は桜!名前で呼んで」


そう言うと桜はゆっくりフェンリルに近づいた。


フェンリルは襲いかかって来るんじゃないかと1歩下がった。


「フェンリル、おすわり」


フェンリルは逆らったら殺されると思い素直に従った。


それを見た桜は座ってるフェンリルにもたれ掛かるように座った。


「おお!意外と毛並みフサフサ!気持ちいい」


桜はフサフサな毛並みに癒された。


「お前、よく今戦った相手にこんな事ができるな」


「君は良い魔物だと思ったからだよ」


フェンリル話を続けることにした。


「ところで桜はルーンを持っているか?」


桜は頷きルーンを見せた。


「やはり持っているか……お前はルーンが何なのか知っているか?」


「冒険者の資格!あと今どのレベルかがひと目でわかる石でしょ?」


桜はフサフサの毛に頬を当て癒されながら言った。


「違うな、これはあくまで聞いた話で信憑性は薄いかもしれんが--ルーンの素材は魔物だ」


桜は驚いた。


ルーンがない時代の人間は弱く、魔物を恐れていた。


冒険者と名乗る輩はいたが小さい低級の魔物くらいしか倒す事は出来なかった。


だがある国の科学者が冒険者が倒し捕まえた魔物を使い何度も実験を繰り返していた。


そして奇跡が起きた。


科学者は魔物を小さい石に変えることに成功したのだ。その石は職業によりスキルを使え、魔法職なら魔法を使える事が出来るようになった。


だがまだまだ人間が魔物に対抗するのは難しく石を量産する事は困難だった。


ある日科学者の耳に魔物と共存している不思議な村があると聞いた。


すぐ科学者は支度をし数名の冒険者を雇いその村に向かった。


幾度も魔物に襲われたが何とか退き、村に着く頃には科学者1人しかいなかった。


村にたどり着き村の光景を見たとき科学者はここは楽園だと思ったという。


実験し放題だからである。


さっそく村の長に実験の内容を説明しに行った。


だがそれを聞いた村の長は科学者に罵倒雑言をあびせた。


普通に考えれば今まで魔物と仲良くやっていたのにいきなり魔物を実験に使わせてくれなどと言えば誰だって怒りが湧いてくる。


だが科学者には切り札があった。


科学者のいる国とカタルシア城塞都市は仲が良くカタルシア側から実験の了承を受けてる事を伝えた。


国の決定なら逆らうことが出来なかった。


「分かった……国の決定なら仕方がない--とりあえず今日は宿屋でお休みください!明日詳しく聞きましょう」


村の長は科学者を宿屋に案内し、村1番の料理と酒を出しもてなした。


強い酒だけあって科学者はすぐ眠ってしまった。


そして村の長はフェンリル達を村の中央に呼び出し理由も告げずに言った。


「やはり魔物と共存する事はできない……今すぐこの村から出て行ってくれ!」


フェンリル達は戸惑った。そこに話せるフェンリルが言った。


「なぜだ!今まで何年も共に仲良くやって来ただろ!理由を教えてくれ!」


「お前達魔物に話す事など何も無い頼むから今すぐ出て行ってくれ……お願いだ」


村の長は微かに涙が出ていたが気づかれないよう怒りの表情でフェンリルと接した。


「分かった、今さらお前達人間を殺す事もできない……俺達は出ていく--今までありがとう、楽しかったよ」


フェンリルはお礼を言い森に向かい走り出した。


その後ろ姿を見た村の長は涙が止まらず泣き崩れた。



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