第48話 優しい人でいて
陣貝がミース平原に鳴り響いた。戦争の合図だ。
両軍共に正面から一気に突撃していく。
「うおおお!皆殺しだ!行け行け!」
「グライストなんぞに遅れを取るな!進め進め!」
両軍の前衛の騎士隊が激突した。真矢と桜は後衛で待機しているその後ろからどんどん冒険者や兵士達が前衛に出るため走っていく。
死ぬのを覚悟で最前線に突撃していく姿を見た真矢が。
「これが戦争……」
と唖然とした表情を浮かべていた。
いつも余裕がある桜もさすがのこの禍々しい光景には緊張と焦りを隠しきれてなかった。
「まさか私達が戦争を体験するなんて」
前衛からは叫び声や傷を負い助けを乞う者の声が後衛まで聞こえてくる。
それを聞いていた真矢は。
「やっぱり私達も戦わないと……人が死んでいく」
だがそれを桜は止めに入る。
「ダメだよ真矢!私達は誰も殺さずにここを突破しなくちゃ!」
「だけど……こんな絶望の声しか響かない、こんなのおかしい」
真矢はこの戦況を見て、聞いて悲しくなっていた。
戦況は若干カタルシア側が押されている。
グライスト側の後衛がなにやら動き出した。
「そろそろ頃合だ!弓兵部隊準備!」
グライスト側は後衛から弓矢を用いてカタルシアの戦力を削ごうとしていた。
これに気づいたカタルシア騎士団長が叫ぶ。
「弓矢が降ってくるぞ!上に気をつけろ!」
弓兵の準備が完了した。
「よし!一斉射撃!放て!」
一斉に矢が放たれた。空からカタルシアに向かって矢の雨が降り注ぐ。それは後衛にも届くほどの射程距離だ。
戦闘中の者もいるため全員が矢を防ぐことは出来なかった。特に前衛の兵士は矢が刺さる者がほとんどだった。
真矢と桜は当たらないよう回避や魔法を使い防いだ。
この攻撃によりカタルシア側の前衛が薄くなった。そこをグライスト軍の前衛騎士達が突破し中衛まで流れ込んできた。
ここでようやくカタルシア側の弓兵部隊が動き出した。
「我々も弓矢で対抗する!弓兵部隊準備!」
カタルシア軍が弓で対抗しようと動いた時それを見計らってグライスト軍も動き出した。
カタルシア軍の弓兵の一斉射撃が行われた。
「一斉射撃!始め!」
グライスト軍の前衛から中衛にかけて攻撃が行われた。
だが、グライスト軍中衛から魔法騎士部隊が姿を現し空の矢に向かって炎魔法ファイアが放たれた。
これによりほとんどの矢が燃え無意味な攻撃になってしまった。
「くそ!グライスト軍め!」
不発に終わったカタルシア軍は相手の戦力を削げずどんどん押されていく。
真矢は中衛で倒れていく兵士や冒険者を見て涙が止まらなくなっていた。
「炎……魔法……ファイアディザ……」
真矢は無意識に魔法を詠唱し始めた。
それを見た桜が。
(やっぱり真矢は優しいな、こんな優しい人に殺しは似合わない--覚悟決めるしかないな)
「真矢!何してるの!魔法はダメ」
「え?あ……私なんで詠唱してるんだろ」
「ねえ真矢、真矢はすごく優しくて可愛いくて葉留には勿体ないなって思ってたんだ」
と笑顔で真矢に話した。それを聞いた真矢は顔を赤くした。
「ちょっと桜!こんな時に何言ってるの!」
「こんな時だからこそだよ、そんな真矢に殺しなんて似合わない……真矢は今のままでいて欲しいんだ」
この言葉に真矢は返事に困った。
「どうしたの桜?」
「真矢は私が守るって事!……命に替えてもね」
真矢が桜の言葉の意味に気づいた時には遅かった。
「スキル、インビジブル」
桜はスキルで真矢の目の前から消えた。
「桜……どこに行ったの!私を1人にしないで!葉留も桜もなんでそこまでして自分を犠牲にするの……なんでよ」
真矢は全身の力が抜け、しゃがみ込み涙を流しながら戦況を見てる事しか出来なかった。
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