第2話 アウトオブサークル

 アクア&アクア(いわゆるアクア&アクア)は東京に向かっていた。


 彼女たちの水上移動手段は非常にエコである。水生生態系に大きな影響を与えることなく、「モスキート」の繁殖地から領土を保護することができるというものだ。


 その個人用水上機械の名前は彼女たちのヘルメットの中央に刻印されている「アウトオブサークル」


 アウトオブサークルの外観はウォーデビル的である。ルパールがアクア&アクアの商業的成功を度外視し、トライベッカ映画祭でのC.E.Oの意見を全く取り入れなかったためにそうなったのだ。悲しい事件だった。


 アクア&アクアのメンバーたちはそれぞれの適性にみあったアウトオブサークルを使う。


 例えば今波しぶきを上げて先頭を走っている姫子のアウトオブサークルはフローティングアームによって構成された空飛ぶ烏賊の足のように見える。中央のやや大き目な流線型のユニットの中に姫子が搭乗しており、その周囲を守るように10本のアームが空中に浮きながら随伴している。


 突然、ワイヤードイメージされた、ジョン・オルテガの映像がアクア&アクア達の前に立ち現れた。


「もうすぐ日本の近海だ。彼らの土地が侵略から守られていることについて非常にうれしく思っている」


 ジョン・オルテガは世界中の「バード」たちを監視するラロトンガプログラムの責任者であるザックの言葉を借りてこう言った。


「君らのわずかな努力で、多くの絶滅危惧種の状況が改善を得ているのだ」


「大陸のバードたちのごく一部だけがIUCNの基準でそのプロファイルを改善することができたんでしょう?」


 姫子がアウトオブサークルを操りながらそう返す。


「とはいっても、IUCNのレッドリストに載った種だけだがね」


 オルテガが何かをすすりながら通信越しに答えた。おそらく彼の好物であるアーノルドパーマーダブルショットである。勤務中は彼がアーノルドパーマーダブルショット(ANPD)の特大マグを手放すことはない。


 ANPDはスペイン料理では物議をかもす飲み物だ。一部のシェフはそれが不敬な量の酒に相当すると言って激しく敵視している。


 I(アイ)はイルカに似たアウトオブサークルに乗りながら、ショックを受けた表情で姫子の隣でオルテガに答えた。


「オルテガ、ちゃんと姫子のいってることを理解している?」


 オルテガは口の中の小さな白いボールに手を伸ばす前に単に「うーー」っとうめき声を出すだけだった。


「わかってるわ、オルテガ。私は元DHAの職員だったのよ?ハルマンと私が初めてインドネシアで100近いマップを作成して、インドネシアブレイクスルーを起こしてなお20種以下の変異改善しか確認できなかった」


 姫子はそこでいったん言葉を切った。


「さらにその中の半数は失敗だった。本当に知能と行動の改善が見られたのはたったの3種」


 オルテガとは別チャンネルからヒョンスが通信に割り込んできた。


「姫子。私たちがここにいる間、効率的に感情的な重心を使ってムーグルを判断できる簡単なトレーニングケースを作ってください!」


「ヒョンス、テストケースはプラズマ情報媒体いっぱいに用意しておいたはずだけれど」


 ムーグルとはIUCNの用いる簡単な作業を行うことのできる使役生物の事である。ムーグルは脳の活動電位を読み取り、すばやく主人の意図する作業を行うことができる。


 ムーグルたちは元々はモゴスのあたりで生まれた変異生物であり、ハイリアンの村の近くで使役されていた。未知の理由で野生化し犯罪行為を働くことが多く、手を焼いていたのだが、それかつてIUCNが引き取って、穏やかな就労関係を結んでいる。


「姫子のせいじゃないわ。まだヒョンスはムーグルに命令することに慣れてないだけよ。視覚イメージのリンクがうまくできていないから」


 アイが肩をすくめた後通信機に大声で言った。


「練習あるのみ!」


 返事代わりにヒョンスが何かをひっくり返す音が聞こえてきた。


「アイありがとう。でも、本当に…今日は大丈夫だったの?」


「ふふ、気になる?それじゃあ試してみましょうか」


 アイの駆るイルカ型のアウトオブサークルがカカカカとエンジン音を高めると、波間に飛んだ。

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