第Ⅶ章 勘違いの大海戦(4)
「――アチョォォォ~!」
「うぐぁあっ!」
また、それより若干離れた場所でも、パイクやマスケット銃で武装する水夫相手に露華が素手で暴れ回り、無敵の強さでドカ! バキ! と殴る蹴るの暴行を繰り広げていたのであるが……。
「セヤァアアッ!」
不意に上方から、鋭い跳び蹴りを食らわせて来る者がある。
「……っ!?」
バガァァァァーンっ! と砕け散る木片……その不意打ちにも素早く反応し、円を描くような滑らかな動きでそれを紙一重で避けると、露華を蹴り損ねたその足は当たった甲板の床板をあっさりとブチ抜いてしまう。
「アイヤ、なかなかにイイ蹴りネ…」
「オラ! オラ! オラ! オラっ!」
だが、跳び蹴りを回避したのも束の間、今度は背後から何者かが、強烈なパンチの連打を繰り出して来る。
「くっ……そっちの打撃もなかなかネ。オマエらもヒツジ達の仲間カ?」
それも腕でうまいことガードし、力を受け流すようにしてすべてを退けると、彼女同様、兵士には珍しく徒手空拳で攻撃をしかけてきた彼らに露華は尋ねた。
二人とも引き締まった半裸の肉体にハーフアーマーの胸当てだけを着け、羊角騎士団のシンボルである紋章入りの白マントも動きやすいよう極端に短いものとなっている。
ともに丸くつるんとした古代風の兜をかぶり、似たような彫りの深い顔をしてはいるが、若干、背の高い方は長い脚にプレートアーマーの脛当と鉄靴を穿き、背が低く腕の長い方は逆に、ガントレットを着けるという対照的な装いだ。
「ああ。武闘大会出場のためにしばらくし団を離れてたから、おそらく会うのは初めてだろう。俺は兄のカリスト・デ・オスクロイ、そっちは弟のポルフィリオ・デ・オスクロイだ」
「よく防いだな。さすがは〝東方のアマソナス〟。一度てめーとはやりあってみたかったんだ」
露華の質問に、背の高い跳び蹴りをした方が自己紹介をし、もう一人はそう嘯いて拳同志をガツン! と胸の前で打ち合わせてみせる。
「アア、ナルホドネ。ナンカ似てる思ったらオマエら双子カ?」
「ああ、その通りだ。双子でオスクロイと言えば、さすがにおまえも察しがつくだろう?」
「帝国一武闘大会で優勝・準優勝を独占したオスクロイ兄弟とは俺達のことだ!」
なんだか違う所に関心を抱き、納得といった感じでポンと手を打つ女武闘家に、自意識過剰な物言いで自信満々に胸を張る双子だったが……。
「おふくろさんノ兄弟……叔父さんカ? イヤ、オマエ達みたいな親戚知らないネ」
異国人の彼女はエルドラニア語を聞き間違い、大きな勘違いをして小首を傾げる。
「オ・ス・ク・ロ・イだ! どんな聞き間違いだよ!」
「そもそもエウロパ人の俺達とじゃ、明らかに顔立ちが身内じゃねえだろ!」
そんな露華に声を荒げると、プライドを傷つけられた二人は厳しくツッコミを入れる。
「……ま、知らねえんなら仕方ねえ。俺達の古代イスカンドリア拳闘術…」
「今からたっぷりと教えてやるぜ!」
「ナンダカ知らないけど、叔父さんデモおふくろさんデモ容赦しないネ!」
そして、腹癒せとばかりに再び足技と拳打で襲いかかると、まだよく理解してない露華との船上異種格闘技マッチのゴングを鳴らした――。
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