第Ⅴ章 無敵の護送船団(4)
「――なんだ? あの光は? 神の奇蹟か? それとも悪魔の仕業か?」
一方、そうして海賊船の取り囲むエルドラニアの側にしても、当然、その花火は目撃されており、初めて見る美しくも怪しげな夜空の大輪に、6隻のガレオンに護衛された旗艦サント・エルスムス号のパトロ提督は訝しげに小首を傾げていた。
「ふーむ……特に悪魔の気配はいたしませんな。無論、神の奇蹟でも自然現象でもないでしょうし、どうやら火薬で起こされた現象……ま、狼煙のようなものですかな? 少々美しすぎるきらいはありますが」
そのとなりでは魔法修士のコラーオ・デ・ミュッラも夜空を見上げており、職業柄の深い見地からそう判断を下している。
「狼煙? ……というと、新天地も近いことですし、もしや海賊がこの艦隊を狙って……」
「ハハハ…まさか。世界最強を誇るヒッポカムポス艦隊でずぞ? それにケンカを売ろうなどという愚かな海賊がどこに…」
同じく今夜もカードゲームをするため、クルロス新総督も上甲板に顔を出しており、〝狼煙〟という言葉を聞いて不安な表情を見せる彼に、パトロ総督がそう高笑いを上げたその時。
「大変だあ~っ! こちらへ急速接近して来る船影を確認~んっ!」
フォアマストの
「なんだと? 数はいくつだぁーっ? まさか海賊ということはあるまい。新世界に我らを相手にできるほどの敵国の艦隊もいなかったと思うが……」
「か、海賊旗が見えます! 数は1、2、3……6、いや7! こちらを囲むようにして近づいてきます!」
その大声に一瞬にして表情を強張らせ、こちらも大音声で尋ねるパトロ提督に、見張りの水夫は再び望遠鏡を覗き込むと、月明かりに照らされた蒼白い太洋上をあちこち見回しながらそう答える。
「海賊だと? フン…どうやら本当にその愚か者がいたようですな。よほど早く天国へ行きたいと見える。いや、地獄か? ハーハッハッハッ…」
「囲むようにして襲って来たのはこちらに戦列を組ませないための工夫でしょうな。愚か者といえど、なかなか悪知恵は働くようだ」
だが、海賊と知れるやむしろなんだか安心した様子で、再び大声で笑い出すパトロ提督の傍ら、コラーオも海賊達の作戦を暢気に感心してみせたりする。
「ま、それでも残念ながら、例の新兵器と〝海運の守護聖人〟と称されるコラーオ殿がいるこの艦隊とでは、その戦力も魔術力も雲泥の差……早々に海の藻屑と消えていただきましょう。コラーオ殿、いつもの調子でヤツらを近づけぬようお願いいたします」
「承知……」
そして、自身満々に微塵も慌てる様子なくコラーオに指示を出すと、彼らの守護聖人は自らの職務を果たすべく、気合充分に頷いてパトロの前を颯爽と去ってゆく。
「そういえば、〝あれ〟の威力を試すのにはちょうどよい機会だな。海賊どもめ、わざわざいい実験台になりに来てくれるとはご苦労なことだ……さあ、我らも戦闘準備だ! 戦列は組まず、このまま輪形陣を組んだまま、各個近づいて来る敵船を撃破するよう他の艦に伝えよ! クルロス総督、旅の終わりを飾る出し物に今宵は最高のショーをお見せいたしましょう」
「は、はあ……」
艦隊同様、帝国最強の魔法修士を見送り、部下の水夫達にも命令を下した提督パトロは、ただ独り不安げな顔をしている戦争は素人の新総督に、そう言ってひどく残酷で愉しげな笑みを浮かべた――。
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