第8話
「勇者だと! 何でこんな所にいるんだよ?」
「私達と一緒でクエストの準備でもしているんじゃない。 だけど、こんな所で会っちゃうなんて。顔を見られるのはまずいわ。 隠れてやり過ごすわよ」
予定より早いご対面となったようだ。 人相は聞いていた通りだ。 一緒に居る女もドルビスが言っていたのと一致する。しっかし本当に黒髪黒目なんだな。 まぁ黒髪黒目ってのを除けばどこにでも居そうな感じだ。
「あんまりジロジロ見るんじゃないわよ。 バレてしまうでしょ」
「そうだったな。だが、ありゃあちとマズイんじゃあないか?」
「何がマズイのよ?」
「勇者が持ってる剣だよ。 ありゃあ酷いぞ。 剣の作りも素材も最悪なのがこっからでも分かる。 それに火属性魔法の魔石組み込んで、簡易魔法剣にしてやがる。 あんなんじゃ10回、いや5回使えば刀身はボロボロで使いもんにならねぇ」
「勇者様よ。 そんなこと分かってるんじゃないかしら?」
どうだかな……。
「この剣凄え! 剣から炎が出てくるぞ!」
「これはね魔剣って言ってとっても珍しい剣なのよ! それにしても素晴らしい剣だわ! ご主人、おいくらかしら?」
「へい! お目の高いお二人にサービスってことで大金貨10枚にしやすよ!」
「まぁお安い! 魔剣がたったの大金貨10枚!」
向かいの店から能天気な声が聞こえてくる。露天商のサクラ並みの反応だな。
勇者と一緒の女が財布に手を伸ばしてる。 まじかよ!? 大金貨10枚を即決かよ! 金持ってのは羨ましいねぇ。こりゃあ買うのも時間の問題だな。
「勇者様は何が分かってるって?」
「……」
「あんなんでクエスト行ったら途中でお陀仏しちまうぞ。 しょうがねぇ、予定より早いが初仕事といきますか。」
「ちょっと! どこ行くのよ!」
修道服にさっき買った外套を羽織り、フードを被る。 バルガスの仕事用眼鏡と、この杖も拝借しておこう。 ん? 何だこの付け髭は? まぁいい。これも拝借だ。
「ちょっと待ってくださる。 今財布を出しますので」
「ヘッヘッヘッ、幾らでもお待ちしますぜ!」
「すまないが私もその剣を見たいのだが、よろしいかな? 私は旅をしながら宣教師をしておる者です。 この歳になっても珍しい物には目がないのです。 お二人の会話が聞こえてきて、気になって見に来てしまいました」
「そういうことでしたの! どうぞご覧になって! この剣は本物の魔剣なのよ!」
「本物の魔剣ですと! 私この目で見るのは初めてです! ご主人、手に取ってもいいですかな?」
「どうぞどうぞ。 隅々まで触ってみてくだせえ。」
魔剣(仮)を手に取ってみる。近くで見れば見る程粗悪品だってのが分かる。 鍛治見習いのレベルにも達してない奴が作ったな。さっきは5回と言ったが訂正しよう。3回使えば刀身がポキリといっちまうだろう。 魔剣(仮)から魔剣(笑)に格下げだ。
「いやぁ、実に素晴らしい剣ですね! ちょっと試し斬りをしてもいいですかな? 本物の魔剣ならば何でも一刀両断の筈です!」
「まぁいいですぜ。壊さない程度にしてくだせえよ」
おいおい魔剣って言って売ってるんだから、もっと堂々とした態度でいなきゃダメだろ。 コイツは詐欺師としても二流なんだ。
「私ワクワクしてきました! ではこの杖を試し斬りに使いましょう。 この杖は向かいの武器屋から買ったのですが、あの無愛想な店長の品です。 どうせ魔剣にかかれば真っ二つでしょう! そこの黒髪のお方、試し斬りを頼めますか?」
「え、 俺ですか? まぁいいですよ。」
魔剣(笑)を勇者に渡して俺は杖を横に構える。
「さぁ、黒髪のお方! どうぞ杖を真っ二つしてください!」
勇者が魔剣(笑)に魔力を注ぎ、刀身が熱を帯び始める。
……えっ! おいおい、 なんだその魔力量! そんな本気でやれなんて言ってないだろ!
「いきますよ! おりゃあああああ!」
「ちょ、ちょっと待っ……!」
勇者が素早く一歩踏み込んで打ち込んでくる。 感じたことのない量の魔力が奔流し、汗すら瞬時に蒸発する熱を目の前に感じた。
勇者が魔剣を振り下ろすとガキンという鈍い音がした後に、魔法剣の剣先が空中をまい地面に突き刺さる。 辺りには焼け焦げたような臭いが充満している。
「やっべ 魔剣折っちゃった! 弁償しなきゃだめだよねシャルロット?」
「そ、そうですわね。 弁償しなくてわですわ」
おいおい。 わざわざ一芝居うったっていうのに、まだ騙されてるって気付かないのか。 この二人相当平和ボケしてるらしいな。
「お二方その必要はごさいません。 魔剣が鉄で出来た只の杖を切って折れることはあり得ません! この魔剣は偽物だったのです!」
「な、なんだって!」
「ちょっと! どういう事でしてご主人!」
「おかしいな〜? あっしの記憶違いだったのかな〜」
勇者達が言い争っている間に俺は退散させてもらうとする。バスカルの店にもどり変装もとく。
「ふぅ疲れた疲れた」
「疲れた、じゃないわよ! 私達の存在は知ってる勇者様には極力知られてはならないのよ! それなのに貴方ときたら!」
「いいじゃないか。 これでクエスト中に勇者の武器が折れるなんてマヌケな事にならないんだからよ。俺の劇団俳優並みの演技力に感謝して欲しいもんだな」
カンカンに怒ってるライラのなだめていると、丁度いいタイミングでバルガスが戻ってきた。
「ほら持ってきてやったぞ。 全部で金貨5枚ってとこだ。 ん? 表が騒がしいが、何かあったのか?」
「ありがとよ。客と店主が揉めてるってだけだよ。 良くある話だろ? 支払い頼めるかライラ?」
「分かってるわよ。これでよろしいかしら?」
「トルスお前……。 ロクでもねぇ野郎だっての知ってたが、とうとうヒモにまで落ちたか」
「違うんだよ!これには深〜い理由があんだよ!」
バルガスのおっさんにまでゴミを見るような目で見られる。 俺だって好き好んでライラに支払わせてるんじゃあないんだよ。
「そんじゃ、また来るぜバルガスのおっさん。 やっぱりあんたはいい仕事するぜ。 なんたって勇者の一撃を凌げるんだからよ。」
名をにを言われたか分かってないバルガスのおっさんにさっきの杖を投げる。
半ばまで焼き切れてはいるが、しっかりと繋がったままだ。
あの鋭い踏み込みに、莫大な魔力量……勇者って話もあながち嘘じゃねぇのかもな。
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