第9話

 

買い物を終えた俺たちはギルドへ向かった。

俺は修道服から着替えて、さっき買った服に着替える。


「ちょうどいい時間だし、飯でも食いながら勇者を待つか」


「ええ、そうしましょう」


 俺たちはギルドの二階にある食事処で飯を食べつつ、勇者達がギルドに来るのを待つことにした。


「そういえばよ、勇者と一緒にいたシャルロットって女は誰なんだ?」


「その名前を軽々しく呼び捨てにしないことね。 彼女はシャルロット・ガレイオス王女。 ガレイオス7世の三女で正真正銘の王族よ」


「こりゃあ、おったまげたな。 とうとう王族まで絡んでくるのか。 でも何で王女様が勇者と一緒にいるんだ? 危険だろ?」


「王女様が強く志願したのと、王女様以上の適任が見つからなかったからよ。 王女様は回復系魔法は最上級レベルまで使えるし、他の魔法も中級程度までは扱えるの。 貴方よりは確実に強いと思うわよ」


 冒険者の間では人を見た目で判断するのは危険だってのが常識だが、驚いたな。 店で見た時は世間知らずのお嬢様だと思ったぜ。


 飯を食いながら暫く話していると、噂の勇者と王女様がギルドに入ってきた。 クエストボードでクエストを探しているようだ。 すぐに何かのクエスト決めて受付に行き、出て行ってしまった。


「トルス、私達もいくわよ」


 ライラは階段を駆け下り、すぐにギルドの外に行ってしまった。 そんな急がなくても勇者は逃げないっての。

 俺は残りの飯を食べながら、ゆっくり階段を降りる。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「ちょっと、遅いわよ! 勇者様達が先に行ってしまったわ! 何のクエストに行ったかわからないじゃない」


「まぁそんなカッカするなって。 勇者達の行き先も、クエストも分かってんだからよ」

 

「何で貴方がわかるのよ? 二階からでは何も見えなかったわよ」


「そこんとこは企業秘密ってことで。 冒険者へ秘密が多いんだ」


「何よそれ。 まあいいわ。 早く行くわよ」


 企業秘密って言ってるが、たまたま受付前に居たドルビスに聞いただけなんだがな。

 俺とライラは門を出て街の外へ向かった。




「それで勇者様はどこへ向かったのかしら?」


「勇者達は豊穣の森へ向かった。 なんでも豊穣の森の滝付近でゴブリンが発生してるんだとよ。 行方不明者も出ているらしい。勇者達はその討伐クエストを受注したようだぜ」


 豊穣の森はガレオスから西へ少しした所にある。 森の中を大きな川が流れているため、植物の実りが良く、それを食べに来るモンスターも多く生息している。 森に生息するモンスターはブロンズ級であれば大体は倒せるレベルだ。 そのため人気の狩場ってわけだ。


 暫く歩いていると、森の入り口へ着いた。 地面に出来たはまかりの、足跡がある。 男女二人分だし、多分先に到着した勇者達のものだろう。

 いよいよ勇者の実力拝見だな。さて森の中へ入りますか!



「そういえばよ、ライラは俺の戦闘方法知ってるのか?」


「貴方に関する情報は大体知らされてるから、勿論知ってるわよ。」


「どこまで知られてるのか怖いもんだぜ。 それじゃあよ、フェアにライラの戦闘方法も教えてくれよ」


「ん〜。 秘密ってことにしておくわ。 冒険者に秘密が多いように、女も秘密が多いのよ」


「なんだそりゃ」


 ライラと他愛無い話をしながら森の中を歩く。 それにしても今日の森は平和だな。 いつもなら既に何回かモンスターと遭遇している筈なんだが。 ラッキーなのか、ライラの魔力にビビってるのかどっちかだな。

 モンスターもそうだが、木の実が殆どないな。 小腹を満たすためによく食べていたんだが。

 結局一度もモンスターと遭遇することなく、目的の滝近くまで来てしまった。




「ユウト、情報によればこの辺りのはずよ」


「そのようだね。」


 滝の流れ落ちる音で、少し聞こえにくいが勇者達の声だ。 しっかり目的地に着いていたらしい。武器もまともな物を買えたようだ。

 俺とライラは素早く草むらに隠れて様子を見る。


「それにしても結構歩いたね。 俺少し疲れちゃった」


「そうですわね。 あのお店のせいで昼食もまだですしね」


「そう言われると腹減ってきたかも」


「モンスターもいないようですし、ここでお昼にしますか? 実は私昼食を作ってきましたの」


「マジで! 助かるよ!」


 信じられないことに、勇者達は腰をおろして飯を食べ始めやがった。


「勇者達はクエストをピクニックか何かと勘違いしてるんじゃねえのか?」


 この行動は流石にライラも驚いたらしく、顔を引きつらせている。

 あ〜あ、周りの警戒もしないで呑気にサンドイッチなんか頬張ってやがる。



 呑気な食事風景を暫く眺めていると滝の奥から、ギャギャギャという耳障りな声が聞こえてきた。


「とうとうお出ましか」


 子供程の背丈に緑色の肌、醜悪な顔は女性不人気一位のモンスター、ゴブリンだ。

 それにしても、いつ見ても不細工な面してやがる。飯の匂いにでもつられて出てきたんだろう。

 勇者達はまだ気づいてないようだ。


「おいトルス、勇者様達はまど気づいていないぞ!」


 ライラが焦って、草むらから飛び出そうとしている。 腕を前にだし、ライラが行くのを止める。


「おいおい落ち着けよ。 バレちゃならないって言ったのはそっちだろ」


「だが、知らせなければ危険だ!」


「仮にも勇者なんだろ? ゴブリン如きに遅れはとらないだろう。」


「それはそうだが……」


 なんとか説得してライラが飛び出すのは防げたな。


「うわ! なんだこいつら!」


「ゴブリンですわ! いつのまに現れたの!」


 どうやら、勇者達もゴブリンに気付いたようだ。勇者達は武器を構える。 ゴブリンの数は20匹くらいだ。さぁお手並み拝見だ。



 勇者達とゴブリンの戦闘が始まる。


「風よ我が敵をはらえ! ウィンド」


  先手を仕掛けたのはシャルロットだ。 風属性の魔法でゴブリンを牽制してる。ゴブリンが吹き飛んで木に叩きつけられた。初級魔法なのにかなりの威力だ。

 

今度は魔法の範囲外に居たゴブリン達が勇者の方へ行った。 棍棒や石、槍などの武器を持ったゴブリンが勇者に襲い掛かる。


「ギャギャギャ!!」


「おっと! 意外と遅いもんだな」


 勇者はゴブリン達の攻撃を難なくいなしながら、斬りつけていく。 頭、首、心臓、喉などの急所を全て一撃で仕留めている。 見事な腕前だ。戦闘は呆気なく終わってしまった。


「最初の敵だし、こんなもんか。」


「ユウト流石ですわ! 素晴らしい剣捌きでしたわ」


 シャルロットの方も既に終わっていたらしい。焼け焦げたり、岩に押し潰されたゴブリンの死体が転がっている。

二人は余裕の様子で会話している。

 今の戦闘だけ見ても、二人ともシルバー上級からゴールド級の実力はあるようだ。



「ほら言っただろ?」


「そうね。お二方とも流石の実力だったわ。」



 

しかし妙な気がする。 ギルドは20匹程度のゴブリンにわざわざクエストを出さないし、その程度の数のゴブリンで行方不明者が何人も出るのか……。


「ライラ何か妙じゃないか? ゴブリンの数が少な過ぎじゃないか」


「そうかしら? 確かにちょっと少ない気はするけれど、そういう時もあるわよ」


「でもよ1匹居たら10匹はいるって言われてるゴブリンだぜ」


「考えすぎよ。 繁殖する前に倒せたってことでしょ」


 

そう言われると、そうかもしれない。 俺の考え過ぎかもしれないな。久々の仕事で過敏になっちまってるのかもな。


「予定より早くなったけど、帰ろっか」


「ユウトの実力が高過ぎたのですわ」


 

勇者達はゴブリンの討伐証明である耳を切り取り、帰り支度を始めている。



「勇者様達も帰るし、私達も帰るわよ」



 やはり、何かが引っかかる。 モンスターと遭遇しない森……食い尽くされた木の実……少な過ぎるゴブリンの数……行方不明達……!



「あんまり手応え無かったな〜。 もう少し出てきても良かったのに」


 

勇者がそんなことを言った時、滝壺から何かが大量に湧き上がってくる。



 まずい……まずいぞ! やはり俺の考え過ぎなんじゃない!!


「ライラ! ゴブリンの大量発生と上位種への進化が起こってる!」

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