第2話

 

俺は今、行き先も知らない馬車に揺られて移動している。気分は出荷される牛のようだ。ドナドナ〜。

 


「なに遠い目しているのかしら? こちらとしては本題に入りたいのだけれど」



牛の気持ちに入り込みすぎて、少し黄昏たそがれていると女の方から話しかけてきた。本題ってのは、俺を牢屋からだした目的の事だろう。



「本題ってのは現在進行形で行われている、三十路手前男性誘拐事件の目的か?」


「その通りよ。」


「教会が慈悲深く、寛大な心で俺をゆるしてくれたんだろ? 3ヶ月に一回は祈ってるからな。 日頃の行いが功を成したってことだろ。」


「さっきからつまらないジョークばかり出てくる口を閉じてくれないかしら」



目的を聞いてしまったら、もう後戻りができない気がしてならない。それも教会絡みっていうのが厄介度3倍増しだ。耳に指を突っ込んで横を向いておこう。聞こえなければこっちの勝ちだ。



「生憎だが、聞きたくないね」



 俺がそんなおふざけをしていると、



「私、あんまり気が長くないから、手が出てしまったらごめんなさいね」



女がそう言ってきたので、おふざけタイムは終わりらしい。美人の怒った顔ほど怖いものはない。それに感知した魔力の量がガチだった。



「わかった!わかったから、その魔力使わないでくれよ!」


「分かればいいの」



女はそう言って魔力を引っ込める。見た目と違って結構暴力的というか、なんというか…。

まぁ、取り敢えず意を決して、目的ってのを聞いてみるか。



「それで、俺を檻から出した理由ってのは?」


「そうね。最初から順に話していく必要があるわ。 まず第一に魔王が現れたってことね」


「魔王? またか。 どこに現れたんだ? 魔王なんて白銀級以上の奴らか、国の軍隊を送れば済む話だろ」



魔王ってのは、魔族の中で力の強い魔族。いわゆる魔人が勝手に名乗ってるもんだ。元々魔術の素養が高い魔族の中のエリートが名乗りをあげるもんで、手強いが、白銀級以上のパーティーや軍隊を送れば大体どうにかなる。魔族が同族でもつるまないという性質から少人数でしか行動しないからな。



「話は最後まで聞くことね。自称魔王なんかじゃない、本物の魔王が現れたのよ」


「はい?本物の魔王? おいおいお嬢さん、頭はたしかか? 精神阻害系の魔法でもかけられてるのか? 」



真面目な顔してあまりに馬鹿げた事をぬかすもんだから、結構本気で頭の心配をしてしまう。

本物の魔王って言えば、誰でも知ってる昔話の中の人物だ。神が倒しただの、勇者が倒しただの語られてるやつ。

ちなみに俺のオススメは冒険者が倒したってパターンの話だな。1番ハッピーエンドで終わってくれる。



「少なくとも、貴方の頭よりは健全なのでご心配なく。これはティラ神に誓って真実よ」


 

このお嬢さん、とうとう自分の神に誓ってるよ。狂信者って奴かもしれない。目がガチだもん。おじさん怖くなってきたよ。



「そ、それでお伽話おとぎばなしの中の人物が現れたっていう根拠は何だ?」


「それはね数ヶ月前に神託が降ったのよ」


「神託だ? どうせ頭のイッちまった奴の戯言だろ? 宗教関係者に多いんだよ。 神がこの身に乗り移ったとかイタイこと言い出したんだろ?」


「……えぇ、その通りよ。 ティラ神が私の身に降臨なされて、魔王の復活を告げたの」


「……」



これは本当にヤバいかもしれない。自称女神降臨のカルト女だ。何をされるかわかったもんじゃない。バーストロックより危険かもしれん。刺激しないように話は合わせておこう。



「えぇと、それで俺に何をしろと? まさか魔王を討ち倒して欲しいとかですか?」


「元ブロンズ級が勇者に? 貴方に魔王討伐を頼むくらいだったら私がやるわよ」



そりゃあそうだろうな。この女、魔力量からして、冒険者でもかなり上位でやっていけそうな実力がありそうだ。頭はおかしいようだが。



「そうなると、いよいよ俺を檻から出した理由が分からないな」


「貴方のジョークに付き合うのも飽きたから、単刀直入に言うわよ。 あなたには勇者一行を陰からサポートして欲しいの」



話は見えてきたが、やっぱり内容がぶっ飛んでやがる。勇者ってのも昔話とか神話の類だ。勇者ってのは世界が混沌に陥りそうな時に神から遣わされるって言い伝えられてる。勇者が出てくる物語は大概がバッドエンドだから俺の好みじゃないな。


「魔王の次は勇者ね。 物語の世界にいる気分だぜ」



話を茶化してみるが、女の表情は変わらない。どうも大真面目に言ってるらしい。



「仮にだ。 仮に勇者がいるとして、俺のお守りが必要な勇者なんかで魔王を倒せるのかよ?」


「仮にじゃなくて、いるのよ。 それに上が貴方を指名したの。 私としては人選ミスだと思っているけど、替えがきくってことじゃないかしら」



おいおい…。さらっと酷いこと言ってくれるね。死ぬ可能性があるってことかよ。



「成功報酬は完全な自由。 過去の罪も消えるわよ。 悪い話じゃなでしょ? どう? 」


 

まぁ、あそこに居ても、死ぬまでネズミと話してるか、強制労働で野垂れ死ぬかだったからな。悪い話ではないのかもしれない。 戦いのどさくさとかに紛れて逃げちまえば、その場で自由になれるだろうしな。


「いいだろう。 その話乗った」


「まぁ、最初から拒否権はなかったのだけど良かったわ」


「へいへい。 じゃあ俺は長旅になりそうなんで、準備をしてくる。馬車を停めてくれるか」



旅の準備の他にも、色々準備しなきゃならないことがあるしな。



「それはこっちでしてるから大丈夫よ。 あと、長旅になるのは貴方だけじゃなくて私もだから」


「それはどういう意味だ?」


「私が貴方の監視役兼勇者一行のサポートってことよ。 一応よろしく」


「あぁ、よろしく頼む……。」



おぉ神よ!3ヶ月ぶりに祈りたい気分だ。









バーストロックー岩石型の魔物。刺激を受けると爆発する。大きさによって爆発の規模は変化する。魔物に分類されているが詳細はよく分かっていない

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