嫌われ者は主人公をただ観る

自堕落ペン

第1話 プロローグ

 

一面石造りの部屋にも、喧しい看守の声にも慣れた。最早同居人とも言えるネズミが我が物顔で俺の隣を歩いている。

30手前だってのに、住む場所は街の地下深くにある独房だってのが笑えてくる。


 

「おいおい、ネズ公よ。 独房ってのもあんまり悪いものでもないらしい。 お前に会えたしよ。 それに、今日は他にもまだ会いたいって奴がいるらしい」



コツコツと足音が聞こえてくる。飯の時間にはまだ早いし、聞き慣れた看守の足音でもない。清涼感のある香水の匂いからして訪問者は女らしい。しばらくして足音は俺の独房の前で止まった。



「あなたが囚人番号310のトルスね」



綺麗に切り揃えられた金髪の美人が話し掛けてくる。服についてる紋章からして教会関係者らしい。立ち方、歩き方からして平和に教会仕事をしているだけではないらしいな。



「……まぁ名前と番号はあってるが、トルスなんて名前は結構いるもんだぜ。 人違いじゃないのかお嬢さん。 生憎だが俺はあんたみたいな美人をしらないぞ」


「えぇそうかもね。投獄理由は人身売買。その他過去に器物破損、窃盗、クエストの虚偽報告等。冒険者ギルド元ブロンズ級。住所はガレオス20番街4-16。そんなトルスを探しているのだけど、知ってるかしら?」


「……お探しの相手は俺らしいな。あんたは俺と付き合ってたんだっけか?悪いが覚えてないな」


「渡された記録では、貴方と交際した人物はいないわよ」



どうやらお相手さんは俺の事ならなんでも知ってるらしい。人身売買ってのは重罪だが、わざわざ教会が出てくるってわけのものでもない。どうも悪い予感がビンビンしてくる。我が友のネズミ君もそう感じて巣穴に逃げちまった。



「それで俺に何の用だ。 今回の件で教会を怒らせちまったのか? それとも俺に懺悔でもさせてくれるのか」


「いいえ、違うわ」


「じゃあ、なんだってんだ。 お優しい教会が神の言いつけで、俺をここから出してくれるっていうのか?」



訪問の理由が分からないので、悪ふざけを言ってみたが、自分でも全く笑えない冗談だ。女の方もつまらな過ぎたらしく、酷い顔をしている。苦虫を噛み潰したような顔ってのはこういうのを言うらしい。


 

「その通り。 あなたをティラ神のもとここから釈放するのです」



はっ?この女は何を言っているんだ?突拍子なさ過ぎて言葉が出てこなかったぞ。つまらない冗談を言った仕返しか?


 

「おいおい、俺の冗談も酷かったのは認める。 だけど、その返事は0点の出来じゃないか? 全然笑えないぞ」



相手に隙を見せない冒険者の性質たちで一応おどけてみせるが、内心はかなり混乱中だ。

そんなおどけたポーズをとっていると、女がいつのまにか出した鍵を使って扉を開けて、俺に近づいてくる。


 

「いいから、早く来なさいよ! 私だってあんたみたいなの出したくないけど、上からの命令なの! ここ埃っぽいし、臭いから長居したくないの!」



女は結構イライラしてるらしい。 上からの命令とか言ってるし、やっぱりきな臭い事になりそうだ。変な事に巻き込まれるくらいなら、俺はネズミ君とここに居るんだ!



「知らない人間に貸しを作るぐらいならここに居た方がましだな。それに知らないかもしれないが、案外ここも居心地がいいんだぞ」

 


そう言って独房から出ようとしないでいると、



「独房から出たくない犯罪者とか意味分かんないわ!つべこべ

言わずきなさい!」



女はそう言うと俺の腕を無理矢理掴んで、階段を登りどんどん出口の方まで連れていく。魔法を使ってるらしく、見た目と違いかなりの力だ。


話は本当らしく、特に何も言われずに外に出てしまった。

あと数年投獄されているか、強制労働で死ぬかだと思っていたが、俺はこれからどうなるんだ?



「ボーッとしてないで早く馬車に乗りなさい」



どうやら俺はどこかに連れていかれるらしい。盛大に嫌な予感がしているが、乗るしかない。女の表情的に答えはYESかYESしか認めてない。



「……あぁネズミ君にさよなら言ってない…」

 


1ヶ月一緒に過ごした日々は忘れないからな。

 


 

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