第240話 見られるのが好きな女の子!?

「あの、ヘンリー様。先程は庇ってくださって、ありがとうございました」


 国境を抜けた先、ヴァロン王国側の街を歩いていると、隣に並んだクレアが、同行している兵士――ジャンに聞こえないように耳打ちしてきた。


「ん? いや、俺こそ悪かったな。せっかくクレアが言葉で何とかしようとしていたのに、つい殴ってしまって」

「いえ……その、私なんかの為に、怒ってくださったのが……嬉し……」


 途中から声が小さすぎて何を言っているか聞こえなかったけれど、一先ず感謝してくれているみたいなので良しとしよう。

 そう思っていると、最初の言葉が聞こえて居たのか、今度はプリシラが近づいてくる。


「私は国際問題にならないかと、凄く心配でしたが……部下の為に、あのような行動を取れるヘンリー隊長は、素敵だと思うのです」

「お、そうか? ありがとう。とりあえず、何かあれば皆すぐに言ってくれよ? 絶対に俺が守るからさ」

「……はい。よろしくお願いするのです」


 プリシラが、何故か話が終わった後も俺に近い気がするのだが……まぁいいか。

 時々、左腕がおっぱいに当たって、幸せになれるし。

 一先ず、この街は完全にスルーして、街の門から外へ出ると、早速たずなを引いてきた馬に乗る。


「じゃあ、行くか。確か、このまま東に行くんだよな」

「ピュイード火山ですと、そうですね……って、あの、どうしてこっちの馬は誰も乗らずに、そっちに三人も乗っているのですか?」


 監視役兼道案内のジャンが、俺とドロシーとユーリヤが乗る馬を見て不思議そうにしていると、


「あ、しまったッス。つい、この国へ来るまでと同じノリで馬に乗ってしまったッス。流石にヴァロン王国内だし、ここからは自分の馬に乗るッス」


 ドロシーが俺の馬から降りようとしだした。


「待った。ドロシー、特訓はまだ終わってないぞ?」

「え? だけど、師匠……その、すぐ傍に男性が、しかもヴァロン王国の人が居るッス」

「いや、そんなの特訓に関係ないだろ?」

「えぇっ!? だ、だけど、その……恥ずかしいッス」

「だったら、尚更特訓するチャンスじゃないか。恥ずかしい事を避けるために、全力で気配を読むんだ!」

「ひぇぇぇーっ!」


 何やら困惑するドロシーを降ろさせず、そのまま出発した。

 それから、少し街道を走り、ドロシーの緊張が少し緩み始めた所で、触って当然だと言わんばかりに胸を鷲掴みにする。


「――ッ! ……し、師匠。今までよりも、少し激しい気がするッス」

「いや? 今まで通りだが?」

「で、でも、何だか少し違っ……んみゃっ!」


 本当に、これまでと同じなんだけどな。

 ……まさか、ドロシーは見られている方が変に反応してしまうのか?

 だが、同行者が居る間の方が触られた時のダメージが大きいのなら、より特訓効果が上がるだろうし、胸を触る回数を増やしてみよう。


「ぁぅぅ……」

「ひゃんっ!」

「……だ、だめぇ」


 回数を増やしているが、ドロシーは一向に気配を読んでくれない。

 だったら、鷲掴みにする力を強くしてみようか? と考えた所で、


「あ、あの……失礼ながら、隊長さんとそちらの女性騎士は、先程から何をされているのでしょうか?」

「ん? これは我が国の修行なんですよ」

「えっ!? 修行……ですか!? そ、それが!?」

「えぇ。移動中も修行をし続ける……このドロシーは、凄く頑張り屋なので」

「そ、そうなんですか……。すみませんでしたっ! まだ兵士としてはペーペーの三年目で分かっておりませんでしたが、てっきりそちらの女性の趣味かと」


 ……ん? ドロシーの趣味だって? 俺じゃなくて?


「どういう事?」

「いえ、隊長さんがその女性の胸を触る度に、女性が凄く嬉しそうにしていたので」

「ちょ、ちょっと待つッス! じ、自分は悦んでなんて、いないッス! 誤解ッス! 濡れ衣ッス!」


 ドロシーは変な誤解をされたからか、俺が胸を触っている間も耳まで真っ赤だったが、更に薄らと額に汗まで浮かべて口を尖らせている。

 流石に、移動中に胸を触られて喜ぶ女性なんて居ないだろう。

 ドロシー自身も否定しているしね。

 なので、再び特訓を再開しながら、馬を走らせる。

 ドロシーは胸を触られながらも、何とか必死にたずなを握り……って、あれ? 胸を触れないようにする訓練だったはずが、胸を触られながら別の事をする訓練になってない?

 胸を触り続けているのに、ドロシーが変な声を出しながらも、俺の手を払わずに、そのまま移動しているし、趣旨が変わってるよっ!


「……ブライタニア王国って、良いですね。そっちの国に移住しようかな……あっと、今日はこの街までです。これ以上進むと野宿になってしまうので、まだ日が落ちていませんが、ここで宿を取ってください」


 そう言って、ジャンがオススメの宿を教えてくれる。

 俺たちは野宿が野宿にならないんだけど、他国に居るので従う事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る