第239話 入国手続き

「ブライタニア王国、第三王女直属特別隊隊長のヘンリー=フォーサイスだ。任務遂行のために、我が隊を通していただきたい」


 ヴァロン王国側の兵士が高圧的な態度で出て来たので、毅然とした振る舞いで応じると、


「ふっ……ブライタニアなどという田舎の騎士が、我が国に何の用だ」


 再び田舎者呼ばわりしてくる。

 これ……殴っても良いのだろうか。


『ダメですよっ! 他の国と争いになったら、国際問題に発展しますっ! ヘンリーさんを隊長に推したお姫様にまで影響を与えかねませんよっ!』

(分かってるよ。ちょっと殴りたいって思っただけで、実際に殴ったりはしないって)


 若干イラッとしながらも、紳士で、大人に対応しようと心がける。


「入国手続きの際に伝えた通り、ヴァロン王国の南部にあるピュイード火山へ行く任務だ。期間は最長で一ヶ月となる」

「ピュイード火山だぁ? あんな所で何をする気だ? まさか我が国の鉱物資源を盗み出すつもりかぁ?」

「そこに、ドワーフたちが居るという情報を得たのでな。ドワーフに用事があるんだ」


 事前にフローレンス様から聞いていた、入国手続き時にヴァロン王国側へ伝えたという情報を伝えると、


「なるほど。で、何か手土産はないのか?」

「手土産?」

「そうだ。分からないか? 別の言い方をすると、袖の下って事だ。田舎者が、我が国に入るのだ。それくらい当然だろう? ……そうだな。貧乏で金が無いというのなら、そこの胸のデカい女が身体で払っても良いぞ?」


 目の前の一兵士が、舐めまわすような目でニーナを見てくる。

 正規の通行料とは別で、金かニーナを出せと言ってきているし、やっぱり殴ろう。


『そうですね。こっそり痛めつけても良いかもしれませんね』

(だよなぁ。大国だからか、末端が腐っているな)

『一先ず、直接ヘンリーさんが手を下すとマズイので、間接的に手を出す方法を教えますね』


 いつもなら俺を止めるアオイが、俺を後押しするように最適な魔法を教えてくれた。

 早速その魔法を使おうとした所で、


「貴方、私たちがブライタニア王国からの正規使者と知っての言動なのですか!? 貴方のその言動と振る舞いを、ヴァロン王国側へ告訴します!」


 俺より先にクレアが怒り、口を出す。

 そして、


「あぁん!? 告訴だぁ!? いいぜ、やってみろよ。お前らみたいな片田舎の国が、ヴァロン王国相手に勝てると思っているのか!? あ……そうか。アンタ、自分が胸が小さくて相手にされなかったから拗ねているんだな? 悪いな。俺は貧乳に興味は無くってな」

「だ、誰が貧……」

「ふざけるなっ! 俺の仲間にちょっかいをかけてタダで済むと思うなよっ!」


――メキョッ


 クレアよりも先に、俺の手が出てしまった。

 が、これは仕方がないだろう。

 奴はクレアが貧乳だと言ったんだ! Cランクのクレアの胸を貧乳なんて言ったら、Aランクのソフィアはどうなるんだっ!

 それにだ。確かにおっぱいは大きい方が正義だ。だが、小さかったとしても、おっぱいは良いものなんだっ!

 Cランクでも、十二分に癒される。どうしてそれが分からないんだっ!


『え? 怒るポイントはそこなんですか!?』

(……あ、違った。ニーナやクレアに変な事をしようとするからさ)

『まぁ良いですけど……それより、普通に殴っちゃいましたね』

(そうだな。とりあえず、殴ってしまったものは仕方が無い。そもそも、あの兵士が悪いんだっ!)


 完全に開き直り、相手が悪い事にしたのだが、兵士が一行に立ち上がらない。

 とりあえず、向こうの出方を見ようと思っているのだが……あれ? 殴ったのは鎧の部分だし、神聖魔法で強化とかしてないから、そんなにダメージは無いハズなんだけど。

 何をしているんだと思って見てみると……完全に気絶している。

 嘘だろ!? こんなに弱い奴が、あそこまで高慢な態度を取っていたのか!?


「何ですか? 何か変な音が……って、兵士長っ! どうされたんですかっ!?」

「ん? 何かあったのか? ……なっ!? な、何事だっ!?」


 あ、ヴァロン王国側から、別の兵士が出て来た。

 しかも、こいつ兵士長なんだ。

 完全に気絶しているし、次から次へと兵士が現れる。

 どうする? どうしよう?

 とりあえず、強引に向こう岸まで行って、瞬間移動で逃げて、夜にまた来るか?

 けど、それでお尋ね者とかにされたら、シャレにならないし……


「兵士長! 兵士長! ……聞こえますか!? ……聞こえてませんね!?」

「大丈夫か? ……よし。……ブライタニア王国の騎士団の方ですね? 先程は、非常に失礼いたしました。申し訳ありません」


 何がどうなったのか、突然兵士たちが深々と頭を下げてきた。


「このオッサン……何も出来ないくせに、態度だけは偉そうで、我々も非常に困って居るんです」

「あー、そういう事か。まぁ居るよね、そういう奴って」

「えぇ。いつか、国際問題になるのではないかと、ヒヤヒヤしてまして。とりあえず、手続きは我々が行っておくので、行ってください」

「それは有り難いんだけど、その……大丈夫なのか? そいつが目を覚ました後」

「えぇ、大丈夫です。兵士長は一人で足を滑らせて転んだだけです。そうですよね?」

「あ、うん。そうだな」


 兵士長の鎧に、俺が殴った跡があるけど、まぁ上手い事やってくれると信じておこう。

 とりあえず、ヴァロン王国側の人間が嫌な奴ばかりでは無いという事が分かって良かった。

 それから正規の手続きを行い、正規の規則に従って、ヴァロン王国側の監視要員が一名同行する事になる。


「まだ十七になったばかりの若輩者ではありますが、よろしくお願いいたしますっ!」


 ……残念ながら、同行者は男だったよ。

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