第207話 子作り支援施策

「流石、ソフィアちゃんだ。ヘンリー、父さんは領主代行として何をするべきか見えたぞっ!」

「え? 何が分かったんだ!?」

「な、何だと!? ヘンリー、せっかくソフィアちゃんが教えてくれたというのに、お前は何も聞いていなかったのか!?」


 父さんが拳を握りしめながら熱弁をふるっているけど、子作りと統治がどう繋がるのか俺にはサッパリなのだが。


「こうしてはいられないぞ! やる事が分かったから、一刻も早く行動に移さなくては」

「待った。父さん、一先ず何をするつもりなのか話してくれ。元々ある程度は父さんに任せるつもりだったけど、大まかな方針は確認しておきたいんだ」

「ふっ、先程ソフィアちゃんが言った通りだ。領地において何よりも重要な事、それは子作り。つまり、この領地では大々的に子作りを推奨する施策――子作りしたくなる環境にするんだ」


 え? ちょっと、何を言っているか分からないんだけど。

 子作りしたくなる村にする……って、ど、どういう事だ!?

 父さんの事だから、精力がつく食べ物を特産品にするとか、前に俺が作ってソフィアで試した(失敗したけど)エロ薬を量産するって事か!?

 流石にそれはマズいだろっ! ただのエロス村じゃないかっ!


「要するに、子育てしやすい村――子育てをしている夫婦を優遇する、子育てに優しい村にするんだっ!」

「そんなエロ……えっ!? 子育てに優しい村?」

「そうだ。ソフィアちゃんの言葉で、父さんはヘンリーが生まれた時の事を思い出したんだ。当時、母さんが学校に行きながらヘンリーの面倒を見ていて、もっと周囲が助けてくれれば……と思った事を」


 なるほど。俺が父さんの日頃の言動から想像した事とは違い、とても良い、まともな方針だった。

 今挙げて貰った方針なら、全面的に任せても良い気がする。

 ただ、学生の……十四歳の頃の母さんに赤ちゃんの俺の面倒を見させていたのかよ。

 その時、父さんは何をしていたんだ? むしろ、アンタが子供の面倒を見れば良いと思うのだが。


「お父様とお母様は苦労なされたのですね。学生でも子供を育てられる環境作り……とても良い案だと思います」

「いや、私はソフィアちゃんが教えてくれた事を、もう少し具体化しただけに過ぎないよ。これから、より詳細に何をすべきか、この村に足りていない物が何で、どういう支援が求められているのかを調査しなければ」


 何故だろう。学生が子供を育てるという所にソフィアが強く反応したのだが、俺としてはちゃんと収入を得てから、子供を産むべきだと思うのだが。

 ……まぁ子供を生む生まないはさておき、子供を作る行為には興味があるけど。


『ヘンリーさん。珍しくお父さんが良い事を言っているのに、ヘンリーさんは最低な事を考えてますね』

(だけど、子供を生んで育てるのって大変だろ? だから、学生の間に……)

『違いますっ! だからこそ、子育てを助ける施策を領主が行うんですよ。子供は宝、愛は尊いものなんですっ!』

(いや、子供がかけがえの無い宝で、愛が素晴らしい事は認めるけどさ……その過程も最高だよね?)

『えっと、それを私に聞かれても困るのですが』


 はっはーん。さてはアオイは未経験だな? ……まぁ俺もなんだけどさっ!

 しかし、先程から俺の腕に抱きつくソフィアの力が強くなっている気がするんだけど……気のせいだと思っておこう。

 一先ず、何だか良い感じに纏まったと思った所で、突然部屋の扉が開け放たれた。


「話は聞かせてもらったわ! そういう事なら、このパメラちゃんが一肌脱ぐわっ!」

「あ、間に合ってます。先生はそのまま回れ右でどうぞ」

「えぇー。ヘンリー君、酷いじゃない。せっかく先生も協力しようと思ったのに」

「先生の一肌脱ぐは、ちょっと意味が違う気がするので」


 どこから話を盗み聞きしていたのか、唐突にパメラが部屋へ入ってきた。

 というか、ゲストルームへ勝手に入ってくるなよ。

 今回は父さんとソフィアだったから、まだ謝って済む相手だけど、今後別の領地の領主とか、どこかの商人とかを招いた時に同じ事をされたら、取り返しの付かない事になりかねないんだが。

 ……やはり、フローレンス様経由で、学校側に本気でクレームを入れるべきだろうか。

 割と本気でパメラの返却について考えていると、突然ソフィアが慌てた様子で俺から離れた。


「せ、先生。どうして、パメラ先生がここに?」

「あら? ソフィアちゃんじゃない。何となく、青春の気配を察知したと思ったんだけど、どうしてソフィアちゃんがここに居るの?」


 俺から離れたソフィアが、困惑した様子でパメラを見ている。


「ソフィア。パメラ先生の事を知っているのか?」

「知っているも何も、ウチの一年生の時の担任の先生よ」

「マジか……この人、本当に教師だったのか」

「い、一応ね。ところで、どうしてパメラ先生がアンタの家に居るのよ」

「あぁ。フローレンス様が、俺を出席不要で卒業扱いにして欲しいって魔法学校に要請したらしいんだ……」


 パメラが俺の傍に居る事で、魔法学校への出席の代わりになるという事情を説明すると、


「えぇぇぇっ!? パメラ先生がこの屋敷で生活するのっ!? そ、そんなのダメよっ!」

「どうしてだ?」

「だって、パメラ先生は……どこからともなく恋の気配を察知して現れ、学生同士の恋愛を絶対許さないって潰す、縁切りのパメラっていう二つ名を持っているんだもん」


 何故かソフィアが、顔を真っ青にしてあからさまに落胆した。

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