第208話 領地調査

「ところで、ここは王都から遠く離れた場所なのに、どうしてソフィアちゃんがヘンリー君のおうちに居るのかしら?」


 パメラがジト目で俺とソフィアを見つめてくる。

 おそらく、パメラがこの屋敷に来るまで、数日要したはずだから、まぁこんな目にもなるよな。

 俺が瞬間移動魔法の存在を公開していないし。


「俺が召喚魔法を使えるからだよ。召喚魔法でソフィアを呼んだんだ」

「……召喚魔法って、そんな事が出来るのかしら? 先生は、術者の周辺に居る小動物を呼び出して、使役させる魔法だって認識なんだけど」

「出来るってば。というか、先生は今回の魔法大会を見てなかったんですか? 俺、思いっきり召喚魔法使ってましたけど」

「ま、魔法大会の時期は……そ、それより、先生が聞いているのは、ソフィアちゃんが来た方法じゃなくて、何故ここに呼んだのかって話よ」

「それなら、さっき父さんも言っていたけど、この領地を治めるためのアドバイスをソフィアに教えてもらおうと思ってさ。それで、さっき父さんの子育て施策の話になったんだよ」

「なるほどね。そう、子育て……というか、子作りよ! パメラちゃん、頑張っちゃうから!」


 物凄く懐疑的な目を向けてきたパメラだけど、子作りの話になった途端、表情が一転してニヤニヤし始めた。

 何を考えているのかは知らないが、上手く話が逸れたので、瞬間移動の話はしなくても良いだろう。

 ……正直、ソフィアをここへ呼ぶのは召喚魔法で言い訳出来るとして、送る時の事を突っ込まれたら何も言えなかったからな。


「ヘンリー。一先ず、子育て支援を行うにあたり、先ずはこの村の人口――特に子供の数と年齢、性別を知りたいんだが、何か資料はあるのか?」

「残念ながら、そういった資料は何も引き継がれていないんだけど……ノーマに聞けば何か分かるかもしれないな。……ノーマ、入って来て」


 父さんの質問に応じるため、部屋の外で待機していたノーマを呼び、事情を説明すると、


「そうですね。そういった資料があるとすれば書庫ですが、ここは以前の領主様の別荘ですので、調べてみないと何とも」


 あまり期待が出来ない返事がきてしまった。


「うーん。じゃあ悪いんだけど、ノーマはメリッサとワンダに協力してもらって、書庫の資料探しを頼みたい。二人には、俺がノーマを手伝うように言っていたと伝えて」

「畏まりました」

「で、最悪の場合は、また一軒一軒家を回って子供の数と年齢を……いや、俺が行くと委縮されるからな」


 この村へ来た初日に各家を回ったんだけど、挨拶に来ただけなのに、家族総出で何故か頭を下げられたりしたからな。

 これは本当に最後の手段で、確認するのも俺ではなくて、誰かにやってもらおうか。

 だけど、他に村の情報を持って居そうなのは……あ! あった!


「そうだ。冒険者ギルドなら村の状況を把握しているかも。じゃあ俺は冒険者ギルドを当たってくるよ」

「なるほど。冒険者ギルドか。実は、今まで一度も行った事がないから、父さんも一緒に連れて行ってくれないか?」

「あぁ、それくらい別に……」


 って、待てよ。冒険者ギルドの職員は、兎耳の巨乳美少女だ。

 ただでさえ、俺が勘違いで胸を揉んでしまって印象が悪いのに、変態父さんを連れていって、兎耳に興奮したら目も当てられない。

 まぁ胸が大きいから、父さんの好みとは違うし、もしかしたら何も起こらないかもしれないけど……いや、やっぱり止めておこう。


「いや、父さんは子育て施策の具体案を考えておいてよ。先ずは何をするかを挙げて、その上で実際の人口を確認して、どれくらい効果が見込めるかを検討しよう」

「そ、そうか。残念だが、またの機会という事にしておこうか」

「悪いね。その代わりと言ってはなんだけど、父さん一人に任せっ切りするつもりはなくて、ちゃんと屋敷に居るメンバーをサポート要員として付けるから」

「何っ!? ユーリヤちゃん……には難しいから、ノーマちゃんかメリッサちゃん、ワンダちゃんかアタランテちゃんの誰か……むしろ全員でも父さんは良いんだが」

「いやいや、もっとやる気のある人が居るじゃないか。パメラ先生っていう有能な人が」

「な……なんだと!? ヘンリー、謀ったな!」


 いやいや、流石に父さんと女性メンバーを二人っきりになんて、危な過ぎて絶対に出来ない。

 その点、パメラなら大丈夫だろう。間違いなく父さんが手を出さないし、子育てママの年齢だしね。……まぁ、子供居ないけどさ。


「先生はー、ヘンリー君と二人っきりでお勉強したかったなー」

「あ、俺は冒険者ギルドに話をしに行かないといけないんで。あと、一階にある領主代行の部屋を子育て支援施策検討本部という事にするから、父さんとパメラはそっちで続きをしてね。じゃあ、各自割り当てられた任務に就くように。解散!」


 勢いで話を終わらせると、ソフィアの手を引いて屋敷の外へ。


「えっ!? ど、どうしたの? は、初めてが屋外でなの!?」

「何を言っているか分からないけど、このまま屋敷の門から外へ出るぞ。パメラに瞬間移動魔法の事を突っ込まれる前に、ソフィアを家に送るから」

「……う、パメラ先生が居たのは、本当に予想外だったわ。仕方が無いわね……じゃ、じゃあ続きは、また今度、う、ウチの部屋……で」

「あぁ、わかった。都合が良い時に声を掛けてくれ」


 ソフィアは子育て支援という良い案をくれたにも関わらず、まだ他にも統治についてのアドバイスを続けてくれるというのは助かる。

 実際、フローレンス様から依頼されている、エルフの村との取引については手つかずだし、まだ教えて貰わない事が沢山あるからな。

 一先ずソフィアに説明した通り、門のから出て外壁の影に隠れてテレポートを行い、家へ送り届ける事に成功した。

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