第193話 おっぱいランク

「す、素晴らしい。ヘンリー、実にグッドだ」


 ワープ・ドアで父さんを屋敷へ連れて行き、その中へ入った第一声がこれだった。

 周囲をぐるりと見渡した父さんが、俺に耳打ちをしてくる。


「ヘンリー。父さんの世話は、あのメイドちゃんがしてくれるのか?」

「まぁ一応な。だが、部屋の掃除や洗濯までだ。変な事を考えるなよ」

「もちろんだとも。父さんの見立てでは、あのメイドちゃんはBランクという所だな」

「……Bランク? どういう意味だ?」

「あぁ、すまない。父さんが友人と共に作った、女性の胸の大きさを表現するための等級だよ。今は未だマイナーだけど、世界中に広めようと、今同士を募ってる所なんだ」

「胸の大きさの等級……って、どうやってそれが分かるんだよ。測った訳でもないのに」

「青いなヘンリー。父さん程のおっぱいマニアになれば、服の上から一目みただけで、女性の胸の大きさ――おっぱいランクが分かるもんなんだ」


 そう言って、エントランスに居る女性陣――ジェーンがF、マーガレットがE、アタランテがCでメリッサがBと、次々と説明してくる。

 ちなみにユーリヤは、トリプルAというAが三つもある表現がされたのだが、やはり父さんが作った基準だけあって、小さい方が評価が高いみたいだ。

 大きな胸の方が好きな俺からすれば、今聞いた話の中では、ジェーンがFでノーマがBという評価なのは納得がいかないが……って、何の話だっけ?


「しかし、本当に良くやったな、ヘンリー。アタランテちゃんだったかな? 自分の妻にマニアックなコスプレをさせている事も素晴らしいと思ったが、Bランクメイドも良いな。我が息子として、父さんは鼻が高いぞ」

「あー、言い忘れてたな。アタランテはコスプレとかじゃないし、そもそも俺の妻では……」


 父さんがアタランテの事を誤解しまくっているので、その説明をしようとしたのだが、話途中に俺から離れ、


「お嬢さん方、初めまして。私がヘンリーの父、トリスタン=フォーサイスです。これから、よろしく頼みます」


 妙に声を低く……おそらく、渋さを出そうとしながら自己紹介を始めた。

 それに応じて、それぞれ女性陣が自己紹介を済ませ、早速屋敷の説明を求められてしまったので、屋敷を回って行く。

 しかも、父さんが案内役のノーマに張り着くかのように、ずっと隣に立って居るので、アタランテが俺の妻だという誤解を解く事も出来ない。

 一方俺は俺で、左腕には余計な事を言ったアタランテに腕を絡められ、右手はユーリヤと手を繋いでいるので、父さんに耳打ちしに行く事も出来ないが。


「こちらが領主代行としての、お部屋となります」

「ほぉ。これはまた、随分と広い部屋だね。うん、研究が捗りそうだ」

「待った。ここは、表向きの領主代行の部屋だからな。この建物の裏に、父さんの開発小屋をちゃんと用意してある。マジックアイテムを弄るのであれば、そっちへ。で、来客などがあれば、この部屋にすぐ移動してくれ」


 エントランスに一番近い部屋なのだから、当然表向きの仕事をしてもらわなくては困る。

 そのために、わざわざ呼んで来たのだから。


「ふむ。では普段は、その裏にあると言う建物に居て、何かあれば呼んで貰えると思って良いのだな?」

「そういう事だよ」


 あくまで表向きの仕事用の部屋なので、これ以上の話は無く、食堂や風呂などの場所を説明し、二階の一番奥にある父さんの寝室へ。


「ここが私の寝室か。ちなみに、隣は誰の部屋なんだい?」

「隣はゲストルームとして使うつもりだから、来客がなければ空き部屋だけど?」

「ふむ。では、この上は? 確か、この建物は三階建だろ?」

「上? たぶん、俺の部屋……かな?」

「おぉ、なるほど。つまり、ヘンリーとアタランテちゃんの部屋か。ふふふ……良い部屋だ。気に入ったぞ」


 父さんが、俺の説明を聞いて何故かアタランテの身体を舐めるようにジロジロと見てくる。

 うーん。実の親に言うのもなんだけど、正直気持ち悪い。

 アタランテも引きまくって……あれ? 顔は若干引きつっているけれど、頑張って笑みを浮かべようとしている。

 別に、俺の父親なんかに愛想よくしなくても良いのに。

 父さんの視線から守るようにアタランテの前に立った所で、


『お兄さん。どうして、お兄さんの部屋が、お兄さんとアタランテの部屋になってるのー?』


 唐突にマーガレットからメッセージ魔法が届く。

 そういえば、父さんの身体特性などを調べるために、隠れて観察しているんだっけ。


『あー、それはだな。ちょっと誤解があって、父さんが俺とアタランテの事を夫婦だと思っているんだ』

『なっ!? ど、どういう事っ!?』

『どういうって……あ、悪い。父さんがまた移動したから、また後で』

『ちょ、お兄さん!? お兄さーんっ!』


 父さんが自身の寝室を見渡し……何故か天井付近をよく見ていた気がするが、再び廊下へ戻る。


「父さん。とりあえず、屋敷を案内するのはここまでだ。次は裏にある開発小屋へ行こう」

「ん? しかし、まだ三階を案内してもらっていないが?」

「三階は俺の部屋だから立ち入り禁止だ。無断で入ってきた場合、強制排除させてもらうので、そのつもりで」

「強制排除? おいおい、私はただ建物の内部を把握しておこうと思っているだけだよ? ……とりあえず、ユーリヤちゃんの部屋だけでも教えてくれないか?」

「……ユーリヤは俺と同じ部屋だよ。これで満足だろ!? 一階へ降りてくれ」

「な……なんだって! ユーリヤちゃんは、ヘンリーとアタランテちゃんと同じ部屋だと!? ……なるほど。幼いうちから英才教育という訳か。ヘンリー、お前の発想には脱帽させられるよ。本当に素晴らしい」


 ユーリヤに英才教育? 何の事だ?

 相変わらず、父さんとまともな会話が出来ないが、一先ず建物の裏にある開発小屋へと移動した。

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