第153話 エリーのお母さん捜索隊編成

 翌朝。

 週末で今日も学校が休みのため、朝一番で王宮へ行って、フローレンス様へエリーの母親が行方不明である事と、魔族に連れ去られた可能性が高いという話をする。

 ……ただ、英霊召喚の話など、一部はぐらかした所はあるが。


「なるほど。エルフの髪の毛を使って何かの研究をしていた錬金ギルドの職員が、それを完成させた。けど、その何かが魔族に目を付けられ、職員が連れ去られたと」

「あくまで推測だけど」

「だけど、エルフの髪の毛を欲しがっていて、ヘンリーがそれを渡したのは事実なのよね? そして魔族によって消されてしまったけれど、サムソンの死体から同じ魔力を感じたっていうのも」

「あぁ。ただ証拠は何一つ残って居ないが」


 フローレンス様が俺の話を聞き、何かを考えている。

 これが、俺とユーリヤだけしか来ていないからと、いつもの小部屋でお姫様抱っこされた状態でなければ、様になっているのに。

 フローレンス様をお姫様抱っこしつつ、ユーリヤをおんぶした状態で、真面目な話をした俺を誰か褒めて欲しい。


『その体勢で長い話をきちんと報告した事は認めますが、ずっと姫様の胸元を凝視していたのはどうかと思います』

(でも見えちゃってるんだから仕方ないじゃないか。それに、エロい胸に意識が行っても、話が疎かにならなかったじゃないか)

『はいはい、偉いですねー』


 アオイと会話している間に、フローレンス様が何か決めたらしく、突然顔を上げる。


「ヘンリー。一先ず、ギルド職員が一名行方不明なのは間違いないのよね? であれば、魔族に攫われた云々の話に関係なく、捜索隊を編成しましょう」

「フロウ、ありがとう」

「いえ、国民が困っているのですから当然よ。そして、それとは別にヘンリーの推測が当たっていたとした場合、魔族はどう動くと思う?」

「これも推測の域を出てないけど、あの魔族はギルド職員が作った何かを必要としている。だが、それを作るにはエルフの髪の毛が必要。俺が渡した髪の毛は一本だけだから、そのうち材料切れとなる」

「……つまり、エルフの村を襲うって事!?」

「おそらく」


 エリーのお母さんが、ホムンクルスの作成時にどれくらいルミの髪の毛を使っているかは分からないが、ルミの髪の毛が長くとも、一本しか無い。

 アオイがエルフの魔力を感知してエルフの村を探しだしたように、魔族だってそれくらい出来てもおかしくは無さそうだ。


「ヘンリー。エルフの村の様子を見て来て!」

「いや、別の用事があって、昨日の夕方にエルフの村へ行ったんだ。だけど、その時は特に変わった様子はなかったんだよ」

「そう……なら良いのだけれど」

「だけど、その時点では今回話した推測に至ってなかったから、これからエルフの長に魔族が襲って来るかもしれない事を伝えてくるよ」

「わかったわ。あと、ドワーフ探しの件について、お父様とお話ししたんだけど、流石に騎士団として他国へ行く訳には行かないの」

「……軍事行為と考えられかねないからな」

「えぇ。その代わり、国内については大々的に協力してもらえる事になったわ」


 おぉ、それはありがたい。

 ソフィアのおかげで、ある程度調査範囲を絞れているものの、国内だけでも鉱石の反応がある山がどれ程有る事か。

 口には出していないものの、終わりの見えない作業で、ドワーフ探索チームは疲弊していたからな。


「フロウ。宮廷魔術師にも協力してもらえるのか? それだとかなり助かるんだが」

「もちろん。魔法騎士隊だって協力してくれるわよ」

「なるほど。じゃあ、国内は完全に任せて、俺たちは国外の調査かな?」

「え、どうしてそうなるのよ」

「いや、他国には騎士隊や宮廷魔術師は行けないだろ? だったら、正式には未だ宮廷に仕官していない俺たちが行くのがベストかなって」


 時には半分宮廷に仕官しているから騎士団寮に住みたいとか、今回は未だ学生だからセーフだとか言うけど、まぁ要は言いようだよね。

 第三王女直属特別隊という立場を隠して、学生の旅行と言えば行けなくはないだろう。

 国の情勢に詳しくないけど、抗争状態の国とかだったら、流石に無理そうだが。


「うーん。ヘンリーが他の国へ行っちゃうのかー」

「何かマズイ事でもあるの?」

「二つあるわね。一つは、この前みたく騎士団で手に負えない敵が現れた時の対応よ。前に助けてもらった時も、先日の爆発事件も、ヘンリーが居なかったらどうなって居た事か」

「それは……対応を考えます」


 ぶっちゃけると、何かあったらメッセージ魔法で連絡を貰ってテレポートで帰ってくれば良いんだけど、瞬間移動出来る事は話してないからな。

 いっそ正直に言うべきだろうか?

 そうすれば、フローレンス様も安心して、俺たちを送り出してくれるだろうし。


「ちなみに、もう一つは?」

「残りの一つは、ヘンリーが私をなでなでしてくれなくなるって事よ。流石に他国へ行ってしまったら、毎日帰って来てとは言えないし」


 ……うん。やっぱりテレポートの事は黙っていよう。

 今は任務とかにあたっているからと、会った時だけお姫様抱っこをしているが、テレポートが使える事を放したら冗談抜きで毎日来いと言われそうだ。


「一先ず、俺が居ない時の事は後で考えるとして、一旦エルフの村へ行って、長と話してくるよ」

「うん、よろしくね。ヘンリー」


 話が終わっても暫くお姫様抱っこが続いたが、やや強引にそれを終わらせると、ユーリヤと共にエルフの村へと向かう為に王宮を出る。

 その直後、


「ハー君! ハー君! ハー君っ!」


 まだすぐ傍に門番の兵士たちが居るというのに、エリーが抱きついてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る