第127話 プロポーズ

 立ち上がろうとしては、腕を掴まれるという行動を何度か繰り返した後、ついに隣から黄色い声が聞こえなくなってしまった。

 おそらく着替えを終え、更衣室を出てしまったのだろう。

 覗いてくれと言わんばかりの状況なのに、何もする事が出来なかった。

 可愛らしいメイドさんたちの様子を凝視する事も出来なかった。

 俺はこんな所で一体何をしているのだろう。


「では、次のページへ……って、ちょっと貴方!? どうして泣いていますの!?」

「もう無理だ。国の歴史なんて興味が無いし、騎士の礼儀作法なんて覚える気も無いし、そもそも女の子を見てはいけないなんて、酷過ぎる! これは止めよう!」

「な、何を言っていますの!? 相手は教会ですの! 貴方の言動一つで、貴方を一つの隊の長にしたフローレンス様が窮地に陥る可能性だってありますの!」

「分かってる。だから、逃げ出したり、無視したりする訳じゃないんだ。別の方法を考えようと言っているんだ」


 涙で滲む視界をコートニーに向けると、ペタンとした胸が視界に映る。

 せめてこれがジェーンみたいな大きな胸だったら、やる気も上がるのに。

 そんな俺を見て、


「……ふぅ。一先ず、少し休憩に致しますの。何か飲み物でも持って来ますの」


 コートニーが部屋を出て行った。

 その直後、


「主様。大丈夫ですか?」

「にーに、ないてる……。どーしたのー?」

「ヘンリーさん。あまり無理し過ぎないでくださいね?」


 部屋に居た三人が俺の元へと集まって来る。

 皆、良い子だなぁ。

 俺を癒す為に、胸に顔を埋めさせてくれると、もっとありがたいんだけど。

 ただしユーリヤは除くが。流石に、コートニー以上に何も無い胸に顔を埋める……というか、ぶつけても楽しくないからな。

 シャロンは胸の大きさは申し分ないのだけれど、身体が小さいから危ない感じがしてしまう。

 やはり、ここはジェーンの胸に顔をダイブ……いや、調子に乗って愛想を尽かされても困るし、ユーリヤが真似をしても困る。

 ここは他の二人に見えないように気を付けながら、こっそりお尻を触らせてもらおう。

 お尻なら構わないみたいだしね。


「……あ、主様!? い、今……ですか?」


 ユーリヤとシャロンが心配そうな表情を浮かべる傍で、ジェーンのスカートに手を入れ、サワサワとお尻に触れる。

 右手に伝わる下着越しの柔らかい感触が俺の壊れかけた心を修復していく。

 あぁー、癒されるなぁ。

 ジェーンの顔をチラッと見てみると、困った表情を浮かべて何やらモジモジしているものの、怒っている様子は無い。

 空気が読めるし、可愛いし、胸が大きくて戦えるし、忠誠心もあって、お尻を触らせてくれるし……って、何気にジェーンが最強かもしれないな。

 ただ忠誠心の高さ故にか、受身な事が多くて、あまり能動的ではないけれど。

 しかし、指示された任務を忠実にこなすという事は、騎士としては求められる能力なのかも……って、待てよ。


「ジェーン、あのさ」

「は、はい。主様、きょ、今日はピンクです」

「何の話!? それよりも、さっきコートニーさんが言っていた呪文みたいな話って、ジェーンは聞いてた?」

「はい。この国の建国から今に至るまでの、興味深いお話でした」

「なるほど。じゃあ、ある程度内容は覚えているって事かな?」

「そうですね。私としては、コートニーさんが仰っていた、七代目の国王による領土奪還の戦いのお話が特に面白かったです」


 おぉ、俺も知らない話がスラスラと出てきた。

 これは……いけるんじゃないだろうか。


「よし、決めた! ジェーン、俺と一緒になろう!」

「……は、はい。主様の仰せのままに」


 ジェーンのお尻から手を離し、立ち上がってジェーンの目を見ながら話すと、小さく、だが確かに頷いてくれた。

 よし、本人の了承は得たから、後はやり方だな。


「え、えぇっ!? ま、まさかこんな場所でプロポーズですかっ!? ヘンリーさん、もう少しムードを考えてあげた方が良くないですか?」

「にーに。ぷろぽーずって、なにー?」


 どういう風にやろうかと考えていると、シャロンが良く分からない事を言い、それを聞いたユーリヤも不思議そうな顔をする。


「プロポーズ……って、何の事だ?」

「え? 今、ヘンリーさんがジェーンさんに一緒になろうって……結婚の申し出では無かったんですか?」

「結婚!? いや、俺は未だ学生なんだが」

「じゃあ一緒になろうって、どういう意味……あっ! に、肉体的に一つになろうって事ですかっ!? へ、ヘンリーさんったら、こんな所で何を言っているんですかっ!」


 いや、シャロンの方こそ何を言っているんだよ。

 前に言っていた発情期なのか?

 だったら俺が相手をするが……というか、むしろ相手をしてください。お願いします!


「どうして、そんな意味で伝わったのかは分からないが、違うぞ? 俺が言ったのは、ジェーンが俺になる……つまり、代役になってもらうって事だ。ジェーンは元々騎士だし、心構えや礼儀、知識や節度と、コートニーさんが言っていた物を全て持って居るだろ? 完璧じゃないか」

「……あの、ヘンリーさん。さっきの言い方では……いえ、やっぱりいいです。それよりも、ジェーンさんが完璧な騎士だと言うのは私も分かりますけど……女性ですよ?」

「あぁ。問題はそこだけだな」

「……それが一番大きな問題だと思うんですが」


 どうやら発情期では無かったらしく、すぐさま普段の様子に戻ったシャロンから、冷静に突っ込まれてしまった。

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