第126話 騎士は女性の肌を凝視ししてはいけない……だと?

「無理だ……俺にはこんな拷問耐えられない」

「これくらいで弱音を吐かないで欲しいですのっ! というか、こんなの特訓でも何でもありませんのっ!」


 俺が部屋から逃げ出そうと立ち上がりかけると、隣に座っていたコートニーが、すかさず俺の腕を引っ張る。

 何とかユーリヤを抱きかかえられたら、本気でテレポートを使って逃げようかと思ってしまう。

 どうして俺が、こんな目にあっているのか、ほんの数分前の事を思い返す。


……


 コートニーが短期特訓を始めると言い、先ずは座学からだと言って宮廷の中へ連れて行かれる事になった。

 だが、いつも通る場所とは違って、どういう訳か、この通路はメイドさんとの遭遇率が異様に高い。

 どうやらコートニーは宮廷の研修部屋に向かっているらしいのだが、そこに新米メイドの研修部屋も併設されているらしく、初々しいドジっ子メイドさんが沢山居るようだ。

 スカートが捲れて太ももが露わになっているのに気付かず一生懸命トレーを運ぶ女の子や、胸当てを付け忘れたのか、白いブラウスから肌色の胸が透けて見えている女の子。目の前で思いっきりこけて、パンツが丸見えになっている女の子……先程から立ち止まって凝視したい光景が沢山あるのだが、


「騎士たるもの、女性の肌を凝視ししてはいけませんの! そこはむしろ、顔を伏せて見ないようにするべきですのっ!」


 コートニーが両手で俺の顔を挟み、メイドさんから顔を逸らせる。

 何……だと? ドジっ子メイドさんを見たいのに、何故か俺の視界には壁しか映っていない。


「きゃぁっ!」

「もう、オフィーリアったら、またなの? お水を零すのは何度目かしら? ほら、服がびしょびしょで透けてるじゃない」

「うぅー……パンツまで濡れちゃってるー」


 何ぃぃぃっ!

 顔を逸らされた反対側から、可愛らしい黄色い声が聞こえてきた。

 ドジっ子新米メイドさんのスケスケ服!? 見たいっ!


「貴方? 騎士の心構えというものがあるんですのよ?」

「痛い痛い痛い! グキッて鳴った! 首から変な音がしたよっ!?」

「そちらを見ようとするからですの。変な方向へ首を動かさなければ、何事もありませんの」


 コートニーが俺の顔を掴みながら、真顔で俺の首をへし折ろうとしてくる。

 だが騎士だって女性に興味はあるだろうし、以前に巨乳三銃士が揃った時には、実際に近くの騎士が思いっきり見ていた。

 だから、俺は負けない。新米メイドさんが俺を呼んでいるんだっ!

 グググ……っと無理矢理目を向けると、メイドさんのスカートからポタポタと滴が落ちている様子だけが何とか見えた。

 けど、見たいのはもう少し上……胸が見たいんだっ!


「貴方……騎士の心構えを覚えてもらいますのっ!」

「ちょ、首っ! それ、普通に首が絞まって死ぬ奴っ!」


 メイドさん側にコートニーが移動したかと思うと、自らの脇と腕で俺の首を絞めつけ……って、これ本当にダメな奴だろ。

 ……しかしこれって、コートニーにされているから苦しいだけだけど、ジェーンにしてもらったら、結構気持ち良いのではないだろうか。

 横乳に顔を埋め続けるような物だし。


「……って、何もしてないのに、どうして今腕の力を強めたんだっ!?」

「何となく、貴方が考えていそうな事が読めたからですのっ!」


 コートニーといい、ソフィアといい、貧乳の女性は人の考えを読む能力に長けているのだろうか。


「あ、あの……コートニー様。主様が苦しんでおりますので、そろそろ解放していただけないでしょうか」


 流石、ジェーンだ。ちゃんと俺のピンチを救おうとしてくれている。

 ちなみにシャロンとユーリヤもついて来ていて、遊んでもらいながら歩いているのか、後ろからユーリヤの笑い声が聞こえていた。


「主様……って、貴方。ヘンリー殿とどういう関係ですの? 今も当たり前のように同行されていますが」

「主様は、私が騎士としてお仕えすべきお方です」

「こ、こんな変質者に忠誠を誓うなんて……だ、大丈夫ですの? 変な事はされていませんの?」

「えぇ。一緒にお風呂へ入ったり、胸や身体を凝視されたり、時々お尻を触られる程度ですから」

「じゅ、十分変な事をされていると思いますの」

「ですが、主様は主様ですので」


 うぅ……ジェーンの忠誠心の高さに感動するよ。

 エリー的に言うと、流石は俺の娘だ。

 ……とりあえず、ジェーンはお尻を触っても大丈夫っと。覚えておこう。


『感動から一転して、お尻を触る所まで行くギャップが酷いですね』

(でも、お尻を触る程度って言っていたし、ジェーンが自分で言っているんだから、大丈夫だよ)

『……ヘンリーさん。今回は力づくでどうこう出来る訳じゃないみたいですし、真面目にやった方が良いと思いますよ』


 アオイに忠告されつつ、ようやく目的地らしい、小さな小部屋へと着いた。

 魔法学校の教室を更に小さくした感じの部屋で、机と椅子があり、沢山本が置かれている。


「では、今日は王国史の勉強を致しますの」

「は? 王国史!? 何それ?」

「その名の通り、この国の歴史の勉強ですの。騎士たるもの、自国の歴史くらい知っていて当たり前ですの」


 机の前に置かれた椅子に座らされると、そのすぐ横にコートニーも座り、歴史の本を開かされる。

 ジェーンは部屋の端で様子見。ユーリヤはシャロンに遊んで貰っている中で、全く興味の無いコートニーの話が左耳から右耳へと抜けて行く。

 すると、天井と奥の壁の隙間から、


「あー、ステファニーったら、また胸が大きくなってない?」

「うん……だからね、ホント肩が凝っちゃって」


 黄色い女性たちの声が聞こえてきた。

 まさか……この裏は女子更衣室なのか!?

 思わず、立ち上がりかけた瞬間、


「貴方は、私と一緒に、お勉強ですの」

「は、はい」


 コートニーから鬼の様な形相で睨まれてしまった。

 その迫力に押されて、思わず座ってしまったが、ここまでコートニーに目力があったのは、隣で胸が大きい話をしていたからか?

 けど、胸が大きい女性に怒りを抱いても、コートニーの胸が大きくなる訳じゃないからね?

 一先ず、本に視線を戻すが、


「ねぇねぇ、ロビンの下着可愛い! どこで買ったの?」

「でしょー! 昨日一目惚れして、買っちゃったんだー」


 隣から下着トークが流れ続ける。

 思わず覗きたくなる状況がすぐ隣にあると言うのに、何もせずに眠たい本を読まされ続けるだけ。

 この精神修行は厳し過ぎる!


「無理だ……俺にはこんな拷問耐えられない」


 再び立ち上がりかけた瞬間、電光石火の速さでコートニーに腕を掴まれてしまった。

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