第29話 カウンターアタック

 再び、どさくさに紛れておっぱいを触る作戦が失敗し、一体どうすれば良いのかと悩む事、数分。

 気付けば、いつの間にか二回戦の第二試合が終了していたらしく、いつものアナウンスが響き渡る。


「勝負ありっ! 二回戦第二試合は、辛くも二年生選抜A組が総合コースBに勝利しました! では、決勝戦を行う前に、これより十分の休憩時間といたします」


 どうやらソフィアたちのチームが勝利したようだ。

 二年生にして、総合コースにまで勝ってしまうとは。どうやら一回戦はまぐれで勝った訳ではないらしい。


「ハー君。決勝戦の相手って、ハー君のお友達の人だよね? 大丈夫? 戦い難く無い?」

「いや、全く。戦う相手に友達や知人だっていうのは関係ないし、そもそもソフィアは友達ですらないしな」

「え? 親しげにお話ししていたけど、お友達じゃないの?」

「あぁ。友達ではなく、契約に伴う提供者だな」

「提供者……? まぁ難しい事はいっか。とにかく、頑張ろうね」


 パンツの提供者――もとい、ソフィアに勝ち、制服姿パンツをゲットするんだ。

 だが、次の試合に勝ってソフィアのパンツを見せて貰う事は決まっているものの、流石に第一試合も第二試合も瞬殺というのはどうなのだろうか。

 最後の決勝戦くらいは、少し盛り上がる様な演出をすべきか?

 それなら、召喚魔法を王女様にアピールして、宮廷魔術士に推薦してもらうため、ジェーンに活躍してもらうべきか?

 それともエリーに……いや、エリーはいいか。


「ハー君、どうかしたの? エリーの顔に何か付いてる?」

「……いや、エリーは可愛いなぁと思ってさ」

「えへへー。やったー! ハー君に可愛いって言われちゃったー」


 うむ。エリーは幸せそうで何よりだ。

 しかしエリーとジェーンはこれからもチャンスがありそうなので、今はあまり交流の無い女の子に、どさくさ紛れのおっぱいチャンスを狙っていきたいのだが、最後は女の子がソフィアしか居ない。

 それなのに、そのソフィアには揉める程の胸が無いから、どうしたものだろうか。


「ちょっと、アンタ! 今、ウチに対して失礼な事を考えていなかった!?」

「ソ、ソフィア!? いやいや、そんな事は無いぞ。いや、本当に」


 こいつ、読心術でも使えるのか?

 俺がソフィアの貧乳の事を考えている時に限って、突っかかってくるのだが。

 そして、改めてパンツの話をしていると、


「それでは時間となりましたので、決勝戦を始めます。基礎魔法コースと二年生選抜A組は、フィールドへ上がってください」


 決勝戦を始めるアナウンスが響いた。

 さて、行くか。と、エリーとジェーンを振り返った時、


「……アンタの戦いは二回とも見たわ。アンタ、ちゃんと加減しないと死んじゃうわよ?」


 ソフィアが俺の耳元で意味不明な事を囁き、そして仲間たちと先に部屋を出て行った。

 手加減しないと死ぬ? どういう意味だろうか。こっちは素手とはいえ、相手は魔法科なのだから、本気で殴るなという意味だろうか。

 先程のモンク相手ですら、カウンターで合わせただけで、俺は本気で殴っていないのだが。

 しかし、わざわざ小さな声でそっと耳打ちしてきたのは、他の誰かに聞かれてはマズい事――つまり、俺へのアドバイス? いや、だけどソフィアはパンツを見られたくないはずで……いいや、忘れよう。

 エリーとジェーンと共に控室を出ると、流石に決勝戦だからか、それとも予想外の組み合わせだからか、観覧席がどよめき、熱気が溢れている。


「両チーム出揃いましたので、これより決勝戦を始めます。尚、二年生選抜コースA組より、召喚魔法で召喚されたジェーン選手が、最初から出ていて構わないとの申し入れが事前に有りました。自信たっぷりですが、ここまで辛勝が続いた二年生チーム対、これまで全て瞬殺の基礎魔法チーム。勝ってフローレンス様から直接お言葉を賜れるのは、どちらのチームなのでしょうか。……それでは、試合開始っ!」


 相手チームはソフィアとオリバーが後衛に位置し、名前も知らない男子生徒が前に出ているのだが、はっきり言って隙だらけだ。

 どうぞ攻撃してくださいと言わんばかりの仁王立ち。何かの罠なのだろうか。それに、直前のソフィアの言葉も気にならないと言えば嘘だ。


「ジェーン。後方でエリーを守っていてくれ。俺が行く」


 ソフィアが大きな赤い光――イフリートを呼び出し、オリバーは小さな茶色い光――ノームを呼び出している。

 オリバーはあれだけ大きな口を叩いていたのに、土の精霊魔法を使うにしても、上位精霊のベヒーモスではなく、下位精霊のノームなのか。

 ソフィアが真剣な表情で詠唱を始めたのに対し、オリバーはニヤニヤと笑みを浮かべたまま、精霊を呼び出しただけで何もしていない。何だ? こいつは一体何なんだ?


『ヘンリーさん。気を付けてください。何だか、嫌な気配がします』

(嫌な気配? よくわからんが、とりあえず目の前の隙だらけな奴を倒して、あのニヤニヤ野郎を殴ってくる)

『……殺しちゃダメですからね?』


 いや、殴るだけだし。素手で人なんて早々殺せる訳が……いや、大型の魔物を倒したか。でも、あの時は神聖魔法での強化もしていたしな。

 仁王立ちで何かをしてくる気配の無い男子生徒にダッシュで近寄ると、それなりに手加減した拳を隙だらけの腹に突き刺し、


「……」

「――グッ!? な、何だ!?」


 突然腹に槍でも刺さったかのような、強烈な痛みが走り、片膝を着く。

 だが、もちろん俺の腹どころか、身体には何も触れていないし、目の前の男も俺と同じように、無言のまま蹲っている。

 何だ? 何が起こったんだ!?


「ハー君!? 大丈夫っ!?」

「主様っ!?」

「大丈夫だ! 近づくなっ!」


 ダメージは小さく無いが、致命傷でもない。これくらい、戦闘科の頃の訓練ではよくあった事だ。

 すぐさま起き上がり、男子生徒が立ち上がるのを待つ。

 戦闘科ならば、倒れた相手に追撃で連撃を喰らわせる所だが、流石に魔法大会でそこまでやるのはやり過ぎだろう。

 魔法科の生徒は魔法を学んでいて、戦闘方法を学んでいるわけではないし。

 少しして、男子生徒が起き上がったのだが、ダメージが効いているのか、立ち上がったものの、ガードも構えも何も無い、ただの棒立ちになっている。

 ……可哀そうだが、少し強めの一撃で意識を失ってもらおう。

 今度は先程よりも力を込め、再びがら空きの腹を殴ると、


「……」

「――ッ!?」


 身体が吹き飛んだかと錯覚する程の衝撃が俺を突き抜けた。

 一体、何が起こっているんだ!?


『分かりましたっ! ヘンリーさん。この人、カウンター・ペインの魔法を使用しています!』

(カウンター・ペイン? 何だ、その魔法は?)

『受けたダメージを、ダメージを与えた相手にも与える魔法です』

(なんだと!? そんなの、どうすりゃ良いんだ!?)

『この魔法を使って来る相手を倒す方法は三つあります。一つめは、複数人で攻撃してダメージを分散させる事。二つめは、一撃で相手を倒す事。そして三つめは、解除魔法でカウンター・ペインを無効化する事です』

(いや、この状況じゃ、どれも使えないだろ。一つめの手段はジェーンを呼べば使えなくはないが、相応のダメージをジェーンが受ける事になるし、二つ目は論外。三つ目は、大観衆の前で召喚士の俺が解除魔法なんて、高等魔法を使用しちゃマズいだろ)

『……あ、もう一つ方法が。魔力の流れを確認しましたが、どうやらカウンター・マジックは、もう一人の男性がこの人に使用しているみたいですね。あっちの人が意識を失えば、魔法が解除されるかと』

(なるほど。つまり、先にオリバーを倒せって事か)


 若干ダメージのある身体に鞭を打ち、オリバーに向かって行こうとした所で、


「バイタル・ドレイン」


 背後から聞き慣れない声が届き――急激な疲労感を受け、その場に崩れ落ちる。


『ヘンリーさん! 今のは蓄積されたダメージを、相手からその分の体力を奪って回復する魔法――暗黒魔法ですっ!』

(な……にっ!?)

『カウンター・ペインからのバイタル・ドレイン……つまり、ヘンリーさんの与えたダメージが倍になって返ってきた上に、相手は今完全回復です!』


 何とか首を動かして見れば、男が何事も無かったかのように、悠然と立ち上がっている。

 くそっ……ここまで全てが罠だったのか。

 怒りに任せて身体を起こした所で、


『ヘンリーさんっ! 避けてくださいっ!』


 ソフィアから大きな火炎弾が放たれた。

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