第30話 ホーリーセイバー

 俺に向かって燃え盛る炎の弾が迫って来る。

 だが、それなりに速度はあるものの、避けられない程ではない。

 バックステップで避けようとして――足が動かない!?

 くそっ! 受けたダメージが大きくて、足にきているのか!


『ヘンリーさん! 防御魔法をっ!』

(……だが無詠唱で、防御魔法は……)

『そんな事を言っている場合ですかっ! イフリートの火炎ですよ!? いくら強靭なヘンリーさんでも、ただでは済みませんよっ!』

(だが俺が大ダメージを受ければ、無詠唱魔法の存在を隠せるというのなら、安い物だ)


 エリーのお母さんから言われた、無詠唱魔法の存在が公になれば、戦争が起きる可能性があるという話が頭を過る。

 特に、今日は王女様とその護衛として、騎士や宮廷魔術士も来ているし、尚更使う訳にはいかない。

 無詠唱で防御魔法は使わない! だが、気合で何とかしてみせる! と、覚悟を決めた所で、突然火炎弾が消失する。


「主様! お怪我はございませんか!?」

「ジェーン! ありがとう。助かったよ」

「奥方様の指示です。お礼なら、どうぞ奥方様へ」


 少しふらつきながらも、視線を後ろに向けて片手を上げると、


「ハー君! 無理はしないでねっ!」


 フィールドの端からエリーの黄色い声援が飛ぶ。


「主様。大丈夫ですか?」

「あぁ。それより、精霊魔法をどうやって無効化したんだ?」

「はい。剣で斬りました」

「……そ、そうか」


 すっかり忘れていたけれど、ジェーンも聖女とか英雄だとか言われていた人だからな。

 いろんな隠し技の一つもあるだろう。ツッコミたい気持ちはあるが、助けてもらった訳だし、ここは触れないでおこう。


『あの、ヘンリーさんもツッコミ所が満載ですからね? というか、今のうちに回復魔法を使ってください』


 詠唱している振りをすれば、弱めのヒールくらいなら大丈夫な気がする。召喚士だからって、召喚魔法以外何も使えないという訳ではないだろうし……ないよね!? まだアオイの力を借りなければ、召喚魔法しか使えないけどさ。

 とにかく一旦体勢を整え……っと、ふらつき、前に立つジェーンにぶつかってしまう。


「あ、あの……主様。そういう事は、戦いが終わってからではいかがでしょうか?」

「いや、今のはふらついてしまっただけで、故意にお尻を触った訳では……そうだっ! ジェーン! 俺は大丈夫だから、指示するまでそこで待機! わかったな?」

「は、はい。……大丈夫という事は、やっぱり主様は私のお尻を……」


 ジェーンが何か呟いているが一先ず無視して、男子生徒に近づく。


『ヘンリーさん!? その人にはカウンター・ペインの魔法が掛かっているんですよ!? 先に解除魔法――ディスペルを使用するか、せめてヒールで回復を!』


 そんな事は十二分に理解している。

 だが、この状況を打破するために――本当は一回戦の美少女たちに使いたかったのだが――俺は、遂にこれを実行する!

 俺は、男子生徒に密着する程接近し、


「……ディスペル。ヒール。……うわぁっ! やられたぁっ! 何だ、この光の攻撃はっ!」

『……は? ヘンリーさん。何をやっているんですか? 小声で解除魔法と回復魔法を使ったかと思ったら、突然後ろに倒れたりして』

(……バッカ野郎! これぞ、俺がずっと考えていた「どさくさに紛れておっぱい触っちゃおう作戦改その二――改二」だ! 密着して解除魔法を使う事によりアイツの身体が光り、更に回復魔法で俺の身体が光ったのを、奴の攻撃だと見せかける演技。どうだ、完璧だろう)

『あ、さっきのは攻撃されたっていう演技だったんですね? ……正直、かなり演技は下手でしたよ?』

(ほっとけ!)


 俺の演技はさておき、奴のカウンター・ペインも解除出来たし、体力も完全回復したので上出来だろう。


「……あ、主様! 大丈夫ですかっ!? おのれ、面妖な攻撃をっ!」

「ハー君! 大丈夫っ!? 今の光の攻撃は何なのっ!?」


 おそらくジェーンは空気を読んで俺に合わせてくれたのだろうが、エリーは本気で心配していそうな気がする。

 うむ。俺の演技もなかなかの物だった……いや、エリーが騙され易いだけなのか?

 とはいえ、やっかいな魔法が解除された所で、先ずは名も知らない男子生徒を倒そうとしたのだが、


「な、なんだっ!? ここは? 僕は一体こんな所で何をしているんだっ!?」


 今まで殆ど喋らず、立って居るだけだったのに、パニックでも起こしたかのようにオロオロし始めた。

 一体、何が起こったんだ?


「き、君。どうして僕はこんな所に居るんだ? ……って、その制服は三年生!? どうして僕が三年生と一緒に居るんだ!?」


 男が俺の服装を見て何かを呟き、そして離れて行く。


(アオイ。ディスペルって、掛けられている魔法を解除するだけだよな? 記憶を失ったりしないよな?)

『当然ですよっ! 神聖魔法であるディスペルを使用して、相手の記憶を奪ったりする訳ないじゃないですか』

(だが、俺が言うのもなんだが、こいつは演技をしているようには見えないし、何かの罠とも思えない。どうなっているんだ?)


「チッ……まさか、召喚士が神聖魔法を使えるとはな」

「オリバー!? そうか、お前か。確か、暗黒魔法を使うんだってな」

「へぇ……どうして分かったんだ? わざわざダミーで土の精霊を呼び出しておいたのに。貴様、ただの召喚士では無いな!?」


 オリバーからニヤついた表情が消え、冷たい――何の感情も持っていないかのような顔になった。

 推測でしかないが、おそらくあの男子生徒を操るとか、洗脳するとかって類の魔法を使っていたのだろう。


『おそらくヘンリーさんの推測通りかと。暗黒魔法には相手を混乱させる魔法があったはずですし、高等魔法の中には相手を操る魔法もあったと記憶しています』

(だが暗黒魔法なんて、そう簡単に使えるものなのか?)

『神聖魔法が信仰心さえあれば使えるのと同じで、対をなす暗黒魔法も信仰心さえあれば誰でも使えます。ただし、暗黒神や邪神への信仰ですが』


 暗黒神や邪神の信者か。前に会った時と雰囲気も違うし、何かの目的があって普通の生徒を演じていたのか!?

 俺とオリバーの無言の視線が交錯する中、そこへ空気を読まない男が割って入る。


「おい、そっちの君。君は僕と同じ二年生の制服じゃないか。教えてくれよ。ここは一体、何なんだ!?」

「……邪魔だ。失せろ」

「失せろとは何だ! 僕はあのアッシュフィールド家の長男なんだぞ! 言葉遣いには気をつけろっ!」

「……ペトリファイ」


 オリバーが男性生徒に掌を向け、聞き慣れない言葉を発すると、黒い光が放出される。

 その直後、


「なっ!? お、おい! 一体どうなっ……」


 黒い光に触れた男が、悲痛な表情を浮かべた石像へと成り果てた。


(アオイ。今の魔法は?)

『……暗黒魔法には違いないのですが、今の黒い魔力は人間ではなく、おそらく魔族……』

(な、なんだって!?)

『ヘンリーさん。あの男にも解除魔法を! おそらく、魔族が人間の姿をしています! あと、あの魔法は絶対に当たらないでください!』

(わかった!)


「ジェーン! 来てくれっ! そして、聖なる剣で攻撃だっ!」

「……か、畏まりました。……あ、悪しき存在を打ち破れ! ホーリーセイバー!」


 いいぞ、流石ジェーン! 空気が読める聖女!

 俺の無茶振りに応じて、大声で謎の言葉を叫びながら斬りかかるジェーンに合わせて、こっそりディスペルを使用する。

 ディスペルの光が収まった後、頭から角が生え、背中には黒い翼を持った男が立って居た。

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