第28話 どさくさに紛れておっぱい触っちゃおう作戦改

 優勝候補である総合コースのA組が一回戦で敗退するという波乱の幕開けとなった魔法大会だが、それだけに留まらなかったようで、


「な、なんと、神聖魔法コースA組が、二年生選抜Aチームに敗退ですっ! 優勝候補の総合コースに続き、神聖魔法コースまでも。今回の大会は、大波乱ばかりですっ!」


 アナウンス担当の先生が興奮気味に叫んで居る。


「ハー君。二年生選抜Aっていったら、あのお友達が居るとこだよねー。二年生なのに凄いねー」

「そうだな。神聖魔法の強力な支援効果は身をもって知っているから、二年生にしてそれに勝つというのは、確かに凄いな」

「うんっ! エリーたちも、頑張らないとねー」


 出来ればエリーには大人しくしてもらって、俺の作戦の邪魔をしないで欲しいのだが……しかし、ソフィアとは戦った事があるけど、あれから短期間で強くなったのか、それとも神聖魔法コースとの相性が良かったのか。もしくは、あのオリバーが凄く強いのか。

 まぁ戦ってみれば判る事だろう。もしかしたら次で当たるかもしれないし……って、次の対戦相手はどこのチームだろう。

 トーナメント表をアナウンスでサラッと聞いただけだから、覚えてないや。

 エリーに次の対戦相手を知っているか聞こうとした所で、戦いを終えたばかりのソフィアが近寄って来た。


「アンタ、召喚士だったのね。召喚魔法っていう魔法が在る事は知っていたけれど、実際に召喚士クラスの人に会うのは初めてだわ。まさか、騎士を召喚するなんてね。ウチにあんな勝ち方をしたから、てっきりハッタリだけだと思っていたけれど、意外とやるじゃない」

「まぁな。というか、ソフィアこそ三年の、しかも神聖魔法コースに勝つなんてやるじゃないか」

「ま、まぁ……ね」


 なんだろう。ソフィアが勝った事も褒めてあげようと思ったのに、随分と歯切れの悪い微妙な表情をされてしまった。

 一回戦での反省を踏まえ、二回戦でのおっぱい作戦を練るのに夢中で、どんな戦いだったのか見ていないから、その理由は分からないが。


「それでは、早速二回戦を始めたいと思います。二回戦に進出したのは、ハズレ――こほん。激レアな召喚魔法を使う基礎魔法コースと、A組の雪辱を晴らしたい総合コースB組と神聖魔法コースB組。そして辛勝ではあるものの、三年生を相手に見事勝利を収めた二年生選抜A組。さぁこの中で決勝戦へ進出するのは、一体どのチームでしょうか」


 唐突にアナウンスの声が響いたが、二年選抜が辛勝? しかし、目の前に居るソフィアはかすり傷一つ負っているように見えない。

 他の二人が大怪我でもしたのだろうか。いや、しかし残りの二人も控室でゆったりとお茶を飲んでいるし……どういう事だ?


「続いて、二回戦第一試合、基礎魔法コース対神聖魔法コースB組の試合を始めます。両チームのメンバーは、速やかに中央のフィールドへ上がってください」


 だが、ソフィアに辛勝の意味を聞く前に、フィールドへと呼ばれてしまう。


「ほら、アンタ。呼ばれているわよ。対戦相手は既に移動したみたいだし、早く行った方が良いわよ」


 ソフィアに早く行けと促され、


「ハー君。次も頑張ろうね」

「主様。ご命令を」


 エリーとジェーンが声を掛けて来る。


「よし、じゃあ行くか」


 ソフィアに見送られ、三人で再びフィールドへ。

 そこまでの短い通路の中で、これから行う「どさくさに紛れておっぱい触っちゃおう作戦改」の手順を確認する。

 一回戦は俺がジェーンに何も指示をしていなかったから、エリーの指示で突撃してしまった。だが、俺とエリーが異なる指示をすれば、優先される指示は俺のはずだ!

 まずはジェーンを確実に止め、そして相手の中から一番おっぱいの大きい子を残して他を倒し、最後は接近戦……完璧だ。

 戦いの場では、事故が付きもの。何かあったとしても、仕方が無いと言える。


『ヘンリーさんの実力だと、そもそも事故なんて起きないと思うんですが』

(いやいや、何を言うんだ。何が起こるのかが分からないのが、戦いというものなんだよ)

『でも、そもそも事故を装う気満々ですよね? どさくさに紛れて胸を触るって、固く決意していますよね?』

(何の事だか、わからんな……っと、いよいよ相手チームとご対面か。さて、相手はどんな女の子か――ッ!?)


 フィールドに辿り着き、俺はあまりの光景に愕然とする。

 相手チームである神聖魔法コースB組は……全員男だと!? 何故だ!?

 確かに、神聖魔法コースだけは魔法科でも例外的に男が多いとは聞いていた。だが、それでも半数程だと。

 つまり、B組には女の子だって居るはずなのだから、せめて一人くらいは女の子を入れておいてくれても良いはずなのにっ!

 ……コノウラミ、ハラサデオクベキカ。


『へ、ヘンリーさん? あ、あの、気を確かに。残念な気持ちは凄く伝わってきますけれど、相手を殺しちゃダメですからね? 聞いてますか?』


「両チーム出揃いましたね。それでは、これより二回戦の一試合目を……っと、何でしょう。神聖魔法コースB組のメイナード選手が何か言いたい事があるようです。少々お待ちください」


 何とか殺意を抑え込もうとする俺の前で、神聖魔法コースの中心に居る男子生徒が、先生と何かを話し、


「えー、メイナード選手の言い分ですが、相手チームであるジェーン選手が召喚魔法で呼ばれたというのであれば、試合が始まってから召喚魔法を使って呼び出すべきだ……との事です。基礎魔法チームは、これに対して何か意見はありますか?」


 そしてアナウンス担当の先生がその内容を、俺を含めた全員に伝える。


「無い。何でも良いから、早く試合を始めてくれ」


 殺意を抑えるのが大変だから。

 短く返事をした後、ジェーンの姿を消す魔法を使うと、


「基礎魔法チームが、メイナード選手の意見を受け入れました。それでは、試合開始です!」


 早速試合が開始された。


「はっはっは。お前らの第一試合、見てたぜ。確かにあの騎士は凄いが、逆に言うと、怖いのはあの騎士だけだ。そして俺様のクラスは、修行僧――モンクだ。鍛えた身体を、メンバーの神聖魔法で更に強化してもらい、お前たちを潰す!」

「ストロング・ブースト」

「アジリティ・ブースト」


 先程のやり取りの間に詠唱していたのだろう。左右の二人が中央に居るメイナードに、筋力強化魔法と敏捷性強化魔法を使用した。

 その直後、魔法で強化されたメイナードが俺に向かって突っ込んでくる。

 なるほど。身体を鍛えている男モンクか。しかも身体強化魔法付き。

 だったら力加減さえ間違えなければ、死にはしないだろう。


「基礎魔法コースのクソ召喚士! くたばりやが――ッ!」

「おっぱいの恨みっ!」

「……え? メイナード? メイナードッ!? 大丈夫かっ!」


 突撃してきたメイナードにタイミングを合わせ、カウンターで軽く腹に拳を入れたら、一撃で動かなくなってしまった。

 残りの二人が無防備に近寄って来たので、


「これはパンツの分!」

「な、何の話だ……」


 先程と同様に、一発ずつボディーブローを入れる。

 とはいえ、もちろん本気では殴っていないのだが、


「勝負ありっ! 二回戦第一試合は、またもや基礎魔法チームが勝利しました!」


 一回戦と同様に、開始数秒で試合終了となってしまった。


「ハー君。凄いねっ! 今のは、どういう魔法を使ったの?」


 見当違いの事を聞きながら、エリーが近寄り、腕にしがみついてくる。

 本当ならば、この腕に押し付けられる膨らみを、この掌の中に収める事が出来ていたはずなのに。

 神聖魔法コースが全員男とかいう意味不明なチームを組むから、またお預けになったじゃないか!


『あの、ヘンリーさん。それって、単なる八つ当たりだと思うんですけど』


 またもや作戦は失敗に終わったが、俺たちは無事に決勝戦へと進出した。

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