第8話 時空魔法
ソフィアの水色パンツをしっかり見た後、名残惜しくもスカートを元に戻し、次は現実を見る。
少し離れた壁には、俺が悠々と通れるくらいの大きな穴が開いていた。
「どうすっかなー。何とかソフィアがやった事に出来ないかなー」
『ヘンリーさん。流石にそれは酷過ぎませんか?』
「だってこれ、真銀の壁だって言ってただろ? 真銀って、めちゃくちゃ高価なはずなんだよ。ソフィアの家はお金持ちっぽいし、何とかなるんじゃないかなーって」
本当はアオイのせいだと言いたい所だけど、言った所でゴーストであるアオイがお金を持っている訳でもないので、どうにもならない。
それに、アオイの存在に気付いているのも、教会の神父さんを除けば俺しか居ないしさ。
『はぁ……まぁ責任の一旦は私にもありますし、何とかしますよ』
「え? どうやって? 実は隠し財産があるとか?」
『いえ、そういう方法ではなくて、時空魔法を使います』
「時空魔法? 何それ? 聞いた事がないし、入門用の魔導書にも載ってなかったけど」
『ちょっと高度で、魔力を大量に消費する魔法ですからね。入門書には載っていないと思います。それより、あの穴に向かって「リターン」と言って貰えますか?』
アオイに言われた通り、大きく開いた穴に向かい、その言葉を発する。
「リターン」
その直後、時間が巻き戻るかのように、どこからともなく壁の破片が集まって来て……元の傷一つない白い壁に戻ってしまった。
「凄ぇっ! 今の、この壁だけ時間を巻き戻したのか!?」
『その通りです。ですが制約が多くて使えるケースは少ないんですよ。生物には使えないとか、戻せるのは数分以内だとか。今回はたまたま条件に当てはまりましたけど』
「そうなんだ。いやでも、それでも十二分に凄いよ! やるじゃないか!」
『ふふん。もっと褒めてくれて良いんですよ? なんせ私は大賢者と呼ばれる程ですからね』
「でも、最初からアオイが出力を小さくしていれば、こんな事にならなかったんだけどな」
『う……ま、まぁそれはそれとして……ところで、ヘンリーさん。大丈夫なんですか?』
そもそも壁が壊れる原因となったファイアーボールの事を話すと、アオイが露骨な話題変換をしてきた。
「大丈夫って、何が?」
『いえ、先程のリターンの魔法ですが、使用するのに大量の魔力を必要とするんですよ。体内の魔力が枯渇すると、目眩がしたり、気を失ったり、最悪の場合は数日間寝込む事になるんですが』
「いや、全くもって平気だけど?」
『ふむ……どうやらヘンリーさんは、一度に出力可能な魔力は小さいものの、身体の中にある魔力の容量はとんでも無く大きいみたいですね』
「なるほど。それってつまり、魔法が使いたい放題って事か?」
『まぁ無限ではないでしょうから、限度はありますけどね』
「ふーん……あ、そうだ」
アオイの話で重要な事を思い出し、慌てて魔導書を開く。
神聖魔法の章を探していると、目当ての魔法が見つかった。
『どうかされたんですか?』
「あぁ。アオイが言った気を失うって言葉で、そろそろソフィアを起こしてあげないといけないと思ってさ」
『なるほど。リカバリーの魔法ですか』
「その通り……リカバリー」
俺の言葉と共に、水色の光がソフィアを包み込む。
パンツと同じ色だな……と、ソフィアを見てつい邪な事を考えてしまったが、魔法は正しく発動してくれたようだ。
「ん……あ、あれ?」
「気が付いたか。立てるか?」
「え? ……あ、うん。ありがとう」
座り込んだソフィアに手を差し伸べると、意外にも素直に俺の手を取り、立ち上がる。
「……ウチは、負けたの?」
「まぁ……な」
「そっか。あれ? でも、どうやって負けたんだっけ? どこも痛くないし、汚れていないし。それに、確か壁が壊れる程の爆発があったような……」
「そ、それは気のせいだ。とりあえず、良い勝負だったよ。俺も良い勉強になったし」
「そうなの? ……まぁ、そうよね。まさか初心者の杖を持ったアンタが、あんな凄い魔法を使える訳が無いし」
「そ、そうだよ。あ、あはははは……」
ご、誤魔化せただろうか。
アオイの魔法を信じていない訳ではないし、見た目も完璧に治っているけれど、それでも壁を壊したのは事実だ。
とりあえず有耶無耶にして、早くこの場を去りたい。
「じゃあ、そういう事で。また気が向いたら来るよ」
「え? 良いの? その、ウチの……パンツ。べ、別に見せたい訳じゃないけど、一応約束だったし」
ソフィアが顔を真っ赤にして、スカートの裾をギュッと握っている。
だけど言えない。気を失っている間に、至近距離からじっくりと舐めるように見させてもらい、アオイから外道とまで言われただなんて。
流石にこの状況で「じゃあ自分でスカートを捲って、俺にパンツを見せろ」なんて言ったら、アオイに何を言われるか。
「じゃあ、貸し一つて事で」
「そっか……ありがとう。でも、しっかり魔法の腕を磨いて、次に会った時には必ずこの借りを返すんだからっ!」
「あぁ。楽しみにしているよ」
今日のとは違うパンツを見せてもらうのを……って、危ない。思わず本音が口から出そうになった。
ソフィアの――同年代の女の子の前だからだろうか。戦闘科に女子が殆ど居なくて不慣れな事もあり、かなり思考が暴走している。
俺はもっとストイックに騎士を目指していたはずなのに、どうしてこうなった?
そんな事を考えながら訓練場を出ると、オッサンが駆け寄って来た。
「君、大丈夫だったかい? ……って、平気そうだね。外から訓練場の中は見えないんだけど、ソフィア君がかなり手加減してくれたんだね」
「えー、あ、はい。そんな感じです」
「そうか。君たちが中へ入ってから大きな地震もあったし、心配していたんだよ。でも、無事で何よりだ」
「地震……ですか?」
「あぁ。凄かったよ。まるで何かが爆発したみたいに、建物全体が揺れたからね」
爆発……って、それは地震じゃなくて、間違いなく俺のファイアーボールじゃないか。
「そ、そうですか。では、今日は失礼します」
「今日は悪かったね。でも、また来ておくれよ」
一先ず俺は、逃げるようにして魔術師ギルドを去り、暫くは学校で魔法の勉強をしようと決めたのだった。
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