第20話 好きにさせてもらうから

 目が覚めると、知らない場所に私はいた。


 知らない天井。知らない部屋。


 私は確か、あのネオン街で意識を失って、それで…。


 体は動く、頭も働く。


 倦怠感と空腹感はまだあるけど、そんなのはいつものこと。


 重い体を動かして、私は横になっていたベッドから静かに降りた。


 窓の外からは、眩しい程の光が入ってきている。


 少しの煩わしさを感じはしたが、不思議と嫌ではなかった。


 部屋を出て、廊下を歩く。


 少し先の部屋の扉が開いていたので、私は部屋の中を覗き込んだ。


 そこにいたのは、一人の男性と、一人の女の子。


「…おや、目が覚めたのかい?」


 長い銀髪が印象的な、神秘的な人。


 第一印象はそんな感じだった。


「……」


「そんなに怖い顔をしなくていいよ。何もしたりしないから」


「…そう」


 警戒は解かない。


 今までのことを考えれば当然のこと。


「大丈夫かい?どこか痛いところとかは?」


「…全身痛いわよ。あと空腹感と倦怠感」


「それは…そうか。それもそうだ。何か食べるかい?」


「……」


「ちょうど僕もお腹が空いてたんだ。食事にしよう」


「……」


 男の人と女の子はそう言って部屋のドアを開ける。


「ほら、君も」


 促されるまま、私もその後に続いた。


「さっきも言ったけど、何もしたりしないって」


「どうだか」


「警戒心が強いんだね。この子も怯えてるよ」


 さっきから彼の後ろに体を隠している女の子。


 私と同じくらいか、少し年下か。


 定かではないが、少なくともそんな印象を受けた。


 ***


「私を攫ったところで、お金なんか手に入らない」


 食後、開口一番私はそう口にした。


「別にそんなのはいいさ。なんて言うかな、そう。僕の心が君を助けたいと思ったんだ」


「心、ねぇ…」


 何を言い出すのかと思えば。


 あまりに突拍子もないことを言われ、私はリアクションに困った。


「そんな不確かで脆いものに動かされるなんて、とんだ笑い話ね」


「全くその通りだと僕も思うよ」


「…まぁそれはいいわ。私をこれからどうするつもり?」


「どうもしないさ。君の好きなようにするといい。ここにいたいならいればいいし、出ていきたいならそれで構わない。選ぶのは君だ」


「…相変わらず何かを選ばせるのが好きなのね」


 …?


 なんだろう、今の違和感は。


 不可解ではあったが、今の私には大した問題ではない、そんな気もした。


「でもいいわ。なら私の好きにさせてもらうから」


「君にとっても、それがいいんじゃないかと思うんだ」


「それはどうも」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る