第17話 闇

 あの子が言うことは十中八九真実なのだろう。


 今の私には生前の記憶などほとんど残っていない。


 憎しみの残滓が私を行動させる唯一の理由だった。


 けれど私にも大なり小なり記憶は残っている。


 記憶なんてのは過ぎ去りし思い出の中で風化するか美化されるかの二択でしかない。


 自らの心を見始めてまだ少ししか経っていないが、それでもはっきりと自分がかつて何を考えていたのか、かつての自分が何なのかが分かってきたような気がする。


 先へ進もう。


 ***


 この場所でも見えない物も少なからずある。


 恐らくそれは自分が深層心理の中で見たくないと拒んでいるもの。


 それは自分だけじゃない。他人の心の中にも少なくないほど存在した。


 …鍵を使えば、その見えない物。見たくない物を見ることは出来る。


 他人の心ならそれでもよかったのだが、如何せん今回は自分の心だ。


 どうしようかと迷っている自分がいる。


 別にそんなもの見なくても先に進めはするし、彼も見たくないなら見なくていいと言っていた。


 …あの子なら何て言うだろうか。


 他の誰かの考えを気にするなんて私も随分丸くなったものだ。


 あの子なら、そう。私の意見を肯定する立場にいてくれるだろうか。


 …よし。なら私は。


 ***


 闇、闇、闇。


 ここに来るまでにどれほど進んできただろう。


 花畑、夜桜の通り道、ネオン街。


 鮮明に見えたのはどれもあの子との会話で出てきた場所ばかり。


 周りを見回してみても辺りは闇に満ちている。


 ここでそのまま闇に溶けてしまうのもいい。


 元々存在なんかしていなかったんだから誰も悲しまない。


 そんな闇の中をあてもなく歩き続けている。


 そもそも私は今、何処を目指しているのだろう。


 私は何のためにこの場所を歩いているのだろう。


 自分を見つめなおすこの旅の最中にそんなことを考え始めた。


 …少し疲れたかもしれない。


 もう何も見えない。


 この闇の中でたった一人で私は消えてなくなるのか。


 …あぁ。


 あの時と一緒だ。


 かつて私の命が終わったあの時と。


 結局私は繰り返すのか。


 肉体を失い、心は別れ、負の感情が私そのものになっても、何も変わらない。


 …冗談じゃない。


 生まれた意味なんてどうでもいいし、何のためになんてくだらないと思うけれど。


 それでも私は今ここにいるんだ。


 そう思いなおし、今一度歩を進めようとした。


 すると、何かポケットの中が光りだした。


 光源は、私が一度も手放すことのなかった一本の鍵。


 鍵から一筋の光が道を照らしだし、私はその道を進んだ。


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