第14話 過去

 あの日以来、3人で過ごす時間が増えた。


 私があの子の所にいるときに彼が合流してくる。


 その流れで3人であーだこーだと内容の無い話をいつもしている。


 …でも。最近一つ気になっていることがある。


 私は過去が思い出せなくなってきていた。


 思い出したくないことがほとんどで、忘れてもどうでもいいことだけれど。それでも思い出せないというのは引っかかる。


 彼にそのことを聞いてみても、いつものようにはぐらかされる。


 思えば、私の私のことに対する問いに対して彼がまともに答えたことはなかったかもしれない。


 …もう、それさえ思い出せない。


 考え事?


「…少し」


 珍しくあの子が問いかけてきた。


 あの子は自分のペースで自分の話したいことを話し、それを私たちが聞く。


 多分これも、その一つなのだろう。


「ちょっとね」


 ちょっとじゃわからないよ。


「私にもよくわからないの。話していいことなのかどうか。…そういえば、あなたの口からきいたことはなかったかしら」


 何の話?


「あなたは、自分の過去は思い出せる?」


 過去?うん、まぁ多少はね。嫌な思い出ばかりだけど。


「あなたもそうなのね」


 あなたもって?


「私も、嫌な思い出ばっかりだから、昔のことは思い出したくないの。…でも、最近そのことさえ思い出せなくなってきてるんだ」


 思い出せない?


「そう、自分が何者で、どこで何をしていたかも思い出せない。思い出したくないって記憶に蓋をし続けていたら、蓋の開け方が分からなくなったっていう笑い話よ」


 …そうなんだ。


「今はもう、憎しみをぶつける理由だけで動くただの人形に成り下がってるわね。憎しみの理由は…あぁそうだ。自分をこんな目に合わせたことが許せないのよ」


「あなたはどうなの?同じような過去を持っているんだから、少しは私のことが理解できると思うのだけれど」


 …そりゃあね。なんで私がこんな目にって思うことは今でもあるよ。


 でもね、何ていうかな。人間っていうのはさ、そういう負の感情だけじゃなくて、もっといろんな物を持ってるんだよ。…そういうのも忘れちゃったの?


「…残念ながらね。そういうのは私がここに来る前に忘れたかも」


 …そういえば、あなたは私の記憶を読み取れるんだよね?


「…できるけど、突然どうしたの?」


 私の過去を読み取れば少しはあなたも昔を思い出すんじゃないかと思ったんだけど。


「ま、気まぐれに興じるのも悪くない、かな」


 私はポケットから鍵を取り出し、光を発した。


 ***


 光が収束し、私とあの子は空と海しかない場所にいた。


「ここは…」


 覚えがある。


 確か私が意識を取り戻したときに最初にいた場所だ。


 ここから私は彼の元へ行ったんだっけ。


 そう、ここはあなたが自我を手に入れた場所。


「…?」


 そして、あなたと私が分かれて別の存在となった場所。


 ずっと迷っていたけど、教えてあげる。あなたの記憶がどこに行ったのか。そしてあなたと私が何者なのか


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