第5話 記憶と繋がり
扉の先は雪国…などではなく、どこかの繁華街だった。
空も明るく、まるで現実の世界に帰って来たような感覚。
「…ここは?」
「この本の、いや、この心の持ち主だった人の中さ」
「あーまぁ言いたいことはわかった。で?私たちはここで何をするの?」
「あれだよ」
彼が指さした先には、一人の人がいた。
何やら黒い瘴気に包まれていて、とても正常な様子とは思えない。
「…なんか物騒な様子なのね」
「害はないんだけどね。このまま生まれ変わると後に不都合があるから」
「それは後で聞くわ。あれをどうすればいいの?」
「鍵だよ」
彼は自分の鍵をその人にかざした。
すると鍵が瘴気を吸い込み、徐々に包んでいた人を解放した。
瘴気を吸い込み終わると、鍵が少し輝いた。
「これでよし。さ、戻ろう」
「何をしたの?」
「戻ってから話すよ。人の心の中っていうのはどうにも落ち着かなくてね」
「それは同感」
彼と私はそう話しながら踵を返し、入ってきた場所から元の場所へと戻るのだった。
***
「えっとね、ここにやってくる心の中にはさっきみたいに瘴気を纏っているものがある。それは一般に言う未練の類の物なんだ」
「なるほどね」
私たちは図書館に戻り、彼はそう説明してくれた。
「魂の記憶はリセットされるけど、未練は消えない。そのまま生まれ変わると次の生で魂は無意識に未練を払おうとするんだ」
「それは悪いことなの?」
「別に僕達には関係のないことさ。けど、そういう人生っていうのは傍から見てて面白くないんだ。言ってしまえばただの自己満足だよ」
「君にその鍵を渡しておくけど、使うかどうかは君が決めればいい。もっとほかの使い方だってできるしね」
「例えば、さっきと逆のこともできる。魂に残った未練を吸い取ったけど、魂に未練を与える事だってその鍵なら可能だよ」
「…ふーん」
それはもっと恐ろしいことにも使えるのではないだろうか。
例えば、"誰かに殺された"という未練を適当な魂に与えておけば、その魂は次の人生で無意識に復讐に動いたりするのだろうか。
「まぁ、どんな使い方をしても僕は咎めはしない。好きに使ってくれたまえ」
「そうする。…そういえば」
「うん?」
「その、辺りにある本は結局なんなの?心…なのはわかったけど。どうしてその心の本から魂に残った未練が回収できたの?」
「心と魂の繋がりが残っていたからね。その繋がりを辿っただけさ。ページを捲り、心に介入し、そこから繋がりを辿って魂に接続したんだ」
「…繋がり」
私はその言葉を聞いて、少し不快感を覚えた。
「生まれ変わりが終わると、心と魂だけじゃない。あらゆる繋がりは切れる。まぁ、当然と言えば当然だけどね。…君はどうだい?」
「私…?」
「自分の中の繋がりに何か思うところでもあるのかい?」
「私は………」
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