第4話 夢

 目が覚めると、見覚えのない部屋にいた。


 家具はそろっているが、あまり生活感のない部屋。


 眠る前のことを少し思い出そうとしてみた。


 確か、鍵を受け取って、それで……。


 そういえば、恰好も変わっていた。


 全身を覆うほど大きいコートを着ている。


 そのコートのポケットの中に、先の鍵が入っていた。


 とにかく、一度部屋から出てみないことには何もわからない。


 そう思った私は、鍵をポケットの中に戻し、部屋を後にした。


 ***


「…おや、おかえり。いや、おはようといった方がいいかな?」


 初めて会った時と同じように、彼は本を読んでいた。


「別にどちらでも。私そういう挨拶は嫌いなの」


「それはそれは。…あぁそうだ。いい夢は見れたかい?」


「夢?…そういえば」


 そういえば、眠っているときに夢を見ていた気がする。


 神秘的な場所と、幻想的な場所を通り、そして最後に扉を開いて…。


「…もしかして、あなたの仕業なの?」


「まぁ、そうだね」


「聞きたいことがあるんだけど」


「構わないさ。分かることは答えよう。時間はいくらでもある」


「なら遠慮なく。私に何をしたの?」


「君に何をしたか、か。それはいくつか段階を分けて説明しようか。まず、君に貸していた仮の器の回収と新たな器への魂の移動をした。君のその姿がそれさ」


「器?…あぁ、この体のこと」


「そう、そして約束通り君の心は器と引き換えに回収させてもらったよ。今頃はこの場所のどこにあるのか僕にもわからない」


「そうなんだ…。その割にはあまり変わってないように思うけど?」


「それは君の魂と記憶が感情を表現しているだけさ。君自身は実際何も感じてないはずだよ?」


「…そういうこと」


「話を続けるね。次に君に眠らせた理由だけど、それは単純にそうした方が都合がよかったからね。深い意味はないよ」


「夢については何か知ってる?」


「いいや。僕はあくまでも眠りにつかせただけ。その先までは関与していないさ。本当に良い夢でも見たのかい?」


「別に。誰もいない幻想的な空間を通るだけで面白くなんてなかった」


「僕としては少し興味のある話だけど…。まぁいいや。最後にその鍵についてだけど…これは実際に使った方が早いかな」


 そう言って、彼は一冊の本を手に取った。


 そしてその本のページを少し捲り、本に鍵をかざした。


 すると、目の前に突然扉が現れた。


「さ、行こうか」


 彼はそう言い、私と同じような黒いコート姿に着替え扉を開くのだった。

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