第2話 イレギュラー

 男の人から聞いた話はとても真実に聞こえなかった。


 ここは死んだ人間が次の人生を迎えるための控室。


 生まれ変わる際に心と記憶をリセットするための場所。


 魂に宿った心を分けるのは次に記憶を引き継がないようにするため。


 そして、分けた心は同じくこの場所で本としてこの場所に蓄積されていく。


 …にわかには信じがたいが、自分もすでに死んでしまった身。


 信じるも信じないもないことに気づいて苦笑した。


 前提として、この場所に自我を持ってやってくる人間はいない。


 だからこそ、私はイレギュラーな存在だという。


 それを聞いて、私はある一つの疑問が浮かんだ。


「あなたは、どうしてこの場所で体を持っているの?」


 考えてみれば、人間である以上この場所に来ることはできない。


 であれば、人間でないことは想像に難しくない。


 大方神様的な何かなのかなとも思っていたが、男の人からの答えは予想外だった。


「それはね、ここに留まることを決めた僕が、心を差し出して貰ったものだからだよ。今の僕には心がない。だから僕はこうしてここに蓄積されていく人の心を見ているのさ」


「そんなことをしても、意味なんてないと思うけど」


「そうかもね。もう僕に心を得ることは出来ないのかもしれない。今更心なんかに興味はないけれど、どうしてかな。まるで魂が足りないものを求めているみたいだね」


「そうじゃなくて、他人の心を知ったところで、この場所ではそれはただの情報でしょ。あなたが何者で、どうしてそうしているかは別に興味ないけれど、そんなことを続けていても意味はない」


「…随分と詳しいんだね」


「別に、思ったことを口にしただけよ」


「…まぁ、そういうことにしておこう。それより、君はどうする?このまま生まれ変わるか、否か」


 そう、目下の問題はそこにある。


 もう人生なんてこりごり。


 だからこそ、ここに留まりたいのだが…。


 まぁ、別にいっか。


「私も、そうする」


「うん?」


「私もあなたと同じ、ここに留まることにする。この心も体に変えちゃっていいよ」


「…わかった。じゃあこれを」


 そういって、彼は一つの鍵を差し出してきた。


「それを手にすれば、君はここに留まることになる。僕が言えたことではないけど、もう人として生きていくことは出来ないかもしれない。それでもいいのかい?」


 私はためらいなく鍵を手に取った。


「私には、生きることに価値を見出せないから、だったらこっちのほうがいい」


 刹那、私は光に包まれ、そして意識を失った。

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