第3話 闇の中

 闇の中に落ちていく自分がいる。


 底のない暗闇の中に落ちていく。


 ふと、落下の速度が緩やかになり、私は体勢を変えた。


 落下が終わり、私が降り立った場所は不思議なところだった。


 神秘的で、美術の教科書に載っているようなカラフルな地面。


 周りを見回しても何もなく、曇った夜空のような暗い空間にポツンとあるその場所。


 朦朧とした意識が徐々に覚醒していくと、ポケットの中に何かあることに気づいた。


 それは、小さな鍵だった。


 一般的なディンプルキーではなく、物語やゲームに出てくるような丸みを帯びた鍵。


 取り出してみると、その鍵の先から一筋の光が発された。


 その光を辿り、少し歩くと、扉が見えた。


 鍵の光はその扉に当たり、そこで途切れている。


 入れとそそのかされている気がして少し複雑だったが、仕方なく私はその扉を開けた。


 扉の先は、さっきまで自分がいた場所とはまた違った意味で不思議な場所だった。


 うすぼんやりと光っている桜が一面に咲き誇る、夜のような場所。


 幻想的なその桜並木の道の真ん中に私はいた。


 振り返っても自分が通ってきた扉はもうない。


 また少し歩くと、今度は巨大な建物が見えてきた。


 その建物に近づくと、再び鍵から光が発せられた。


 光は建物を回り込み、正面よりずれた場所の扉に続いていた。


 私は光に導かれるまま、手の鍵を使ってその扉の中に入った。


 ***


 また、誰かの心を見ている。


 心とは芽生え 育むもの。


 心を捨てた自分にも、いつか新たな心が芽生えるはず。


 そう信じて、この場所で誰かの心を見続けている。


 そして先ほど、この場所に自我を持って誰かが来た。


 この場所に居着いてからこんなことはなかった。


 話を聞くと、迷い込んだわけでもなく、純粋に死を迎えてこの場所に来たらしい。


 それならそれで、少し興味が沸いた。


 この子なら、新しい発見をさせてくれるのではないかと、そう思った。


 話しやすいように仮の器を渡し、この場所の説明をした。


 すると彼女にはさほど驚いた様子はない。


 自分の死を、必然の様に受け入れているのだろうか?


 兎も、僕は彼女に問いかけた。


 次の人生を歩むか、この場所に留まるか。


 …何故この場所に留まるという選択肢を与えたのかはわからない。


 しかし、彼女は心を捨て、この場所に留まると即答した。


 生前によほど生きることに絶望することでもあったのだろうか。


 僕は彼女の心を調べるため、彼女を一旦眠らせた。


 彼女にここに留まるための鍵と、器の準備もしなくては。

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