第5話 食べようとしている人に宿る人魂


 ねえ、あなた。わたしもいつか、誰かの肉になるの?


「……どうして、そのようなことを聞くのですか?」


 あなたが食べた豚肉は、あなたの肉になる。昨日の夕食に食べた魚も、あなたの肉になった。だからわたしも、いつかは誰かの肉にって……。


「いいえ、なりません。心配いりませんよ」


 どうして? なぜ、心配ないなんて言い切れるの?


「きみは、誰の肉にもなりません。何故なら、きみは、果実だから」


 ……果実?


「そう、果実です。甘い蜜を絞り出す、熟れた林檎。それが、きみです。たとえ願ったとしても、きみのいう〝肉〟にはなれません。きみが私に与えるのは、甘い極上の果汁だけです」



 ──林檎もまた、私の贅肉になる。

 動物の肉とは違う。魚の肉とも違う。

 けれど。

 果物にも、〝果肉〟はある。


 でもね……。

 きみが、あまりにも、私の〝肉〟になることを恐れるから。

 少々、気の毒に思いましてね。


 これから私に食べられる林檎に同情した、ただの戯言です。

 きみを無駄にはしません。

 きみは、今日も、明日も、林檎好きの私の身体に栄養を与えてくれるでしょう。


 愛していますよ。

 私の大切な、〝果肉〟の、きみ──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眠る世界の人魂たち various(零下) @2047

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ