第3話 人魚姫に宿る人魂


 私の心は、氷の塊。

 突かれれば、ヒビが入り崩れることはあるけれど、溶けることはない、氷の塊。


 ああ、王子様。

 なぜ、私の思いに気付いてくれないのですか。

 私の心は、砕け、無数の小さな塊となりました。


 ああ、王子様。

 なぜ、私の思いは届かないのでしょうか。


 私の心は、氷の塊。

 無数の小さな塊となった、私の心。

 小さな塊となった私の心は、少しは溶けやすくなったのでしょうか。

 大きな塊だったときは溶けなくても、小さな塊となった今なら、溶けてくれるのでしょうか。

 再び海に戻れば、私の心は溶けるのでしょうか。


 ああ、王子様。

 私の悲しみに気付いてください。

 ああ、王子様。

 どうか、私を、見て。


 砕けた心を繋ぎとめたいと思うことはありません。

 ただ私は、氷塊となった心が溶けて、また朗らかに笑いたいだけ。


 天使の姿が見えます。

 私を迎えに来てくれたのですね。


 ああ、王子様。

 私は、行きます。


 最後に、お願いがあります。

 王子様、どうか私を忘れて下さい。


 ──願わなくとも、王子様は、すぐに私を忘れるでしょう。


 私は、天へ行きます。

 でも。

 悲しみは、水底に沈んでいます。永遠に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る