討伐戦4
吹雪はますます勢いを増し、ニフルハイム家の姉妹をこのシベルアに閉じ込めようと誰かが画策しているかの如く、冷たい風と雪が身体の体温を奪っていく。
騎乗
片手で抱えているアルフラウの身体が氷のように冷たく、目を瞑ったままでまったく動かない事もオリフラムの焦燥感を募らせた。
騎乗
眠っていてもアルフラウをしっかりと握りしめて、途中で落としてこなかったことに安堵する。
「ゴマー!ありがとう!後で美味しいお魚いっぱい食べさせてやるからね!」
山小屋の扉に鍵は掛かっておらず、中に入ると無人で誰かが使用しているような気配はなかった。
床は埃を被っていたが、幸い毛布が何枚か置いてある。
暖炉には燃え尽きていない炭も灰の中にあり、その横には薪も積んであったので暖をとる事ができそうだった。
誰の住んでいる山小屋なのかは分からないが、九死に一生を得た幸運にオリフラムは心から安堵した。
先ずは暖炉の火を
オリフラムは師匠のシオンの研究所から勝手に貰ってきた
「熱っ!なんでこんな火力強いんだ!?火を
あっという間に
あとは暖炉の近くに置いてある薪をくべるだけで、山小屋の中はそこそこ暖かい空間となった。
オリフラムは冷たく濡れたアルフラウの赤いローブを万歳させて脱がせた後、下着も濡れていたのでとりあえず脱がせた。
濡れた衣類は暖炉に近くに置いて、翌日には乾くように準備した。
その後、暖炉のそばで温めておいた毛布でアルフラウを包むと、もう一枚の毛布を敷布にしてそっと寝かせた。
手でそっと顔に触れると、身体はまだ冷たかったものの硬直している訳ではなく、ほんの微かに呼吸も感じることができた。
「アル、ねぇ。目を覚まして?」
軽く頬をペチペチと叩くが、まったく反応が無かった。
どれほど深い眠りに落ちているのか、声を掛けても揺さぶってもまったく動かないので、オリフラムはある一つの結論に至った。
「もしかして、アルは冬眠してるのでは?」
普段から大量にご飯を食べているのは実は、いつでも冬籠りできるための準備だったと考えると合点がいってしまう。
しかし問題は、このタイミングで冬眠されてしまったら、誰が〈ザンギュラ〉を倒すというのか。
春が来てアルフラウが起きるのを待つ余裕は、ブリック子爵にもニフルハイム領にも無い事は明らかだった。
「暖炉のそばに寝せておくだけでも、違うとは思うけど……」
オリフラムが何か方法はないかと思案していると、昔読んだ恋愛小説に山小屋で遭難した二人がたまたま見つけた洞窟で一夜を越すために、お互いを温め合った話を思い出した。
「いや、それはちょっと……どうなんだろう。ねぇ?」
目を瞑ったアルフラウに問いかけてみるが、勿論反応は無かった。
「やはり、人肌か」
オリフラムは服を脱いで暖炉の近くに綺麗に畳むと、もう一枚の毛布掛け布団のようにしてアルフラウの毛布の中に一緒に入った。
「うわ。すごく冷たい……こっちが風邪ひきそうだけど、アルを冬眠から目覚めさせる為だし。やましい気持ちなど一切ないので」
時折暖炉に薪をくべて火が絶えないように気遣いつつも、オリフラムは一晩を過ごすのだった。
―翌日。
陽から差し込む朝陽の眩しさで、オリフラムは目覚を覚ました。
相変わらずアルフラウは隣で健やかな寝息を立ててはいるが、その身体に触れるといつもの体温にまでは戻っているように感じられた。
朝日によって地図の方向が把握できたお陰で、アバーシへの帰路も何とかなりそうだった。
「アル、朝だよ……起きて?」
寝顔のアルフラウの頬を指で軽くつついてみる。
「ん……あふ。おはよう、オリフゥ」
寝ぼけ眼をこすって返事をするアルフラウに、喜びのあまりオリフラムは姉をぎゅっと抱きしめた。
着替えもすっかり乾き、二人は出発の準備を済ませると騎乗
「そういえば〈ザンギュラ〉に会った時に、邪なる何とかって言ってたよね。あれって何の事?」
「邪なる?そんな事を言ってたんだ?」
オリフラムの背中に抱きついているアルフラウは、まるで覚えていないような風に答えた。
「え、言ってたよ?まさか覚えてないの?」
「……覚えてないけど〈邪なるもの〉については知っているよ」
〈邪なるもの〉とは人間よりも先にこの世界に住んでいた肉体を持たない知生体らしく、その誕生は創世神話の時代にまで遡るとアルフラウは語り始めた。
その呼び名は、古い書物の断片的な記録しか残されておらず、深き海より這い出るという説や地中深くに眠っている説など、魔術師達の研究では推測の域を出ていない。
神々の
「……それって、アルが居ないと倒せないって事だよね。よかった、アルが冬眠しなくて」
「冬眠なんてしないよ。クマやカエルじゃないんだから」
実際に冬眠してたんだけど、というオリフラムのツッコミはアルフラウの機嫌を損ねそうなので黙っておくことにした。
それと〈ザンギュラ〉が、アルフラウの体内に入っても何もせずに出てきたことも聞いてはおきたかったが、身に覚えのない姉がオリフラムが教える事で気持ち悪い思いをするのは可哀そうだったので、こちらも胸の内に秘めておくことにした。
「さって、対策は何となく立てられそうだけど〈ザンギュラ〉はフレースヴェルグお父様でもあるんだよなあ」
アバーシの街にて氷壁騎士団に合流してから、元君主を討伐するという非常事態をどう伝えるべきか、オリフラムは苦悩するのだった。
「恐らくもう
溜息をつくオリフラムに、アルフラウは顔を近づけて耳元で囁いた。
「オリフゥには私が居るから大丈夫だよ」
「うん。そうだね……ありがとう」
オリフラムは振り返ると、優しくアルフラウの髪を撫でた。
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