2章:鏡面世界
魔鏡1
「元凶はやはり……この鏡か」
風に揺れる黒色の長髪を気にしながらも、魔女は廃墟に無造作に置かれた何も映さないくすんだ鏡を見つめていた。
彼女が受けた依頼は原因さえ知っていれば、とても単純明快なものだった。
それは親族からの依頼で、富豪としても名高い老貴族の失踪の原因を突き止める事。
魔女は別に富豪の親族から成功報酬が欲しくて、この事件に関わった訳ではない。
ただ、老貴族の所持していた芸術品の中に、彼女の館から盗まれた鏡が紛れ込んでいないか、それを確認したかった。
それはミスリル製の意匠を凝らした鏡で、芸術品としても相当の価値を持つが、何より鏡に映った者を思い描く場所へ転送する事の出来る
その鏡はニフルハイム領にいくつか存在し、遠方を行き交うための交通手段として貴族達に利用されていたが、ある貴族の青年が
魔術師たちは青年の捜索にあたったが手掛かりはつかめず、そのうち鏡の一つに悪魔が住みついて、人を鏡に閉じ込めると言う噂が貴族達に流れ始めた。
魔術師たちの真相の究明も空しく、失踪の恐れのある
ほとんどの鏡は魔術師たちにより破壊され廃棄処分となったが、凝った意匠の枠飾りのついた鏡を芸術品として一人の魔女が引き取った。
その
魔女が鏡を盗んだ強盗団の足取りを追ううちに、辿り着いた場所がこの老貴族の屋敷……だったと思われる廃墟だった。
魔力を失ってくすんだ鏡は、目の前にいる魔女を映しだす事は無かったが、その原因は恐らく老貴族が
老貴族が何処へ旅立ったのかは、魔女には大体の見当がついていた。
恐らく彼は死に際に、財宝と共に
「地獄の沙汰も金次第……とは聞くけど。死んでまで金に囚われるのか」
老貴族の愚行に溜息をつきながら、魔女はくすんだ鏡に手を掛けようとした。
「お前……もしかして
表面がくすんだの
少年の言う通り魔女の着ているローブは紫色で、その眼の色も紫だった。
「さあ。世間にどう呼ばれているのかは興味はないね。そこのきみは人ではなさそうだね。鏡に悪魔が住むなんて噂は聞いた事はあるけど……」
「えっ、虫扱いはひどくない?って、もしかして無視ですか?」
「ねぇ、ちょっとー?そもそも俺が何なのか知ってる?俺自身がよく分かってないんだけど実は」
「……知っている。
魔女はそっけない返事をしたが、
「……俺、
で、
「魔術の源となるマナが密になる場所に生き物の感情が干渉すると、形を作ってきみのように
でも、まさか鏡を回収して
「この鏡って、
「
「言わない言わない!だって、こんな所に一人でいる方が辛そうだもん。
「それはどうだろう、遠慮したい。きみを
ミロワと呼ばれた少年は目を輝かせ、ニコリと微笑む。
「ミロワ!俺の名前はミロワ!なんかいいね、ありがとう!ところでこの鏡どこまで持って帰るの?重いんだけど」
確かに人の大きさもある金属の鏡である。ミスリルという軽い金属では出来ているものの遠くに運ぶのには一苦労だった。
「確かに……そうだ、ミロワ。きみが馬になれ」
「えっ、そんな能力持ってないんだけど」
「私が姿を変える魔術が得意なだけだよ。鏡を運び終わったら戻してあげるから、よ・ろ・し・く」
「ええっ!ちょっとまっ……ぎゃー!」
ミロワが抗議する前に
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